『グッバイ・クルエル・ワールド』宮沢氷魚インタビュー

R15のバイオレンス映画を初体験! 銃撃戦撮影に空想広がる!?

#グッバイ・クルエル・ワールド#宮沢氷魚

宮沢氷魚

脚本ト書きの「血が舞う」「飛び散る」に興味津々

寂れたラブホテルに突如現れた覆面の強盗団が、そこで資金洗浄をしていたヤクザ組織から大金を奪う。計画は成功したが、その先に思わぬ展開が待ち受けていた。スリリングに幕を開ける『グッバイ・クルエル・ワールド』は、大森立嗣監督、高田亮のオリジナル脚本によるクライム・エンターテインメント。一夜限りの寄せ集め強盗団1人1人の複雑な背景に、ヤクザや警察も絡む攻防が始まるが、騒動の鍵となるのが襲撃の舞台となったラブホテルの従業員・矢野だ。

夢も希望もなく、くすぶっている青年を演じるのは宮沢氷魚。これまで見せたことのない表情で、悪も善も愛も憎しみもないまぜになった残酷な世界に佇む姿が印象的だ。

西島秀俊、斎藤工、玉城ティナ、宮川大輔に大森南朋、そして三浦友和という豪華なキャストとの共演について、作品について、話を聞いた。

宮沢氷魚が鈴木亮平に振り向きざまのキス

──台本を読まれた時の率直な感想、そして矢野という役をやりたいと思われた一番の理由は何でしょうか?

宮沢:この作品をやりたいと思った理由は、とにかく台本が面白かったからです。僕は台本をゆっくり読むのが好きで、初めての時は時間をたっぷりかけて読むんです。何ページか読んでちょっと休んで、こういう話かな、とか考えて、また先を読み進めるんですが、この作品だけは気がついたら、最後まで読んじゃっていて。あ、もう終わっちゃった!と(笑)。そして「面白かった、この作品に出たい!」と思いました。すごく本に魅力があったし、登場するキャラクターとそれを演じる役者の皆さんがリンクしていて、役のイメージはすぐ湧いてきたんです。ただ、こういうバイオレンス系の映画は初めてなので、銃撃戦がどういう風になるのか、そこだけは唯一イメージがわからなかったんです。ト書に「血が舞う」とか、「飛び散る」とか書いてあるけど、どれくらいの血の量なんだろう? どうやって撮るんだろう?と考えて。もちろん偽物の銃ですけど、音はどれくらい大きいんだろう? 意外と反動が来るのかな? とか。その辺は未知だったので、すごく楽しみでした。脚本が面白かったこと、銃撃シーンをどんな風に撮るのか、そこに興味がすごく湧いたのが理由です。

──銃に対して未知というのは、演じられた矢野との共通点でもありますね。矢野という青年について、どう思われますか?

『グッバイ・クルエル・ワールド』9月9日より全国公開中
(C)2022『グッバイ・クルエル・ワールド』製作委員会

宮沢:矢野大輝は……冒頭では自分が生きてる世界に希望がなくなっていて、別に怖いものもないし、もうどうにでもなれみたいな感じですけど、本当は多分、全てを諦めていなくて、少しは希望が残っていて。だから、生きたいと思う瞬間もあると思うんですよね。そこをどう描こうかと思っていました。多くを語らない人物じゃないですか。だから、表情であったり体の雰囲気に気をつけながら演じる。目でお芝居するというか。目の輝きみたいなものを完全には失っていない、どこかで幸せになりたいと思っている。そういうところを描きたいと思っていましたね。難しい役でしたけども、“生きたい”ということを演じたいと思いました。

──髪の色も印象的でした。

宮沢:衣装合わせの時に監督から聞いて、素晴らしいなと思いました。ただ単にピンクっぽい赤い髪色にしてるんじゃなくて、矢野は自分の正直な気持ちをうまく口に出せないけど、何か主張したい、表現したいというのを形にしているというか。もしも本当にこの世界に対して「もうどうにもなっちゃえ」と思ってたら、多分こんなことはしない。身だしなみなんてどうでもよくなるはずです。矢野が反抗している部分は、もちろん表情とか性格からも見えるんですけども、やっぱり画に映ったときに最初に目に入る容姿からそれを感じ取れるのも1つ大事な要素じゃないかな、と思います。

──演じる上で一番気をつけたのは、どんな点でしょうか?

宮沢:目のお芝居でしょうか。意識的にやってるところもあるし、シーンによっては、そんな気持ちになって勝手にそうなっていたところもあります。本当に何もかも諦めてる人の目って、ちょっと濁ってる。くすんでいるというか、輝きがないじゃないですか。ただ、矢野を演じてる中で僕はそれだけじゃなくて、その先の矢野の人生が報われるんじゃないかと思って。それを信じてる自分がいる、という矢野の目の奥にある強いもの……輝きや意志みたいなものは持っていたいなと思いました。

──矢野と、玉城ティナさんが演じる美流の目が印象的です。

宮沢:僕も完成作を見て、本当に監督に感謝しました。矢野もそうですし、玉城さんが演じた美流が誰かを見つめている目のカットとか。2人の顔が見えるカットを長めに残してくれていて、それだけでも感じるものはたくさんあるんですよ。言葉もないけど、2人から感じ取れる。憎しみや恨みや、救われたいっていう思いまでも。そういうことを僕も意識的にやっていたし、完成されたものを見た時にそれがちゃんと残ってる喜びがすごくあって。監督と一緒に話し合いながら、作っていきました。それがこうやって見てくださった方々に届いてたのは、すごく嬉しいです。

──最初は伏し目がちな矢野ですが、視線が徐々に変わっていきます。すごく計算されていたのかなと思いました。

宮沢:計算って言ったら、ちょっと大げさになってしまうかもしれないんですけど、この時、こういう気持ちの時って、どんな表情をしてるっけ?と、家で鏡を見たりすることはありました。それを思い出しながらそのシーンを演じたりとか。計算まではいかないですけど、1つの大まかなプランとしては考えてやっていました。

──実はこの映画を見終わったとき、大変失礼ながら、宮沢さんが演じた青年の名前が思い出せなかったんです。劇中の彼に圧倒されていながら、私は彼の名前を覚えていなかった。それを含めて、矢野という人が社会に蔑ろにされてきた哀しさが表現されているように思えました。矢野に対して共感や理解はされますか?

宮沢:ありますね、ある程度は。今が平和で幸せな世の中かと言ったら、とてもそうでもないし。でも、もちろん仕事も楽しいし、充実してるんですけども、やっぱり気持ち的に落ちる時ってあるじゃないですか。もういいやと思う時もあるんですけど、でも、やっぱり今この現状でありながらも生きていかなきゃいけない。そういうところは多分、僕だけじゃなくて感じる人たくさんいると思うし、そういう部分では矢野の気持ちがすごくわかる。わかりますね。

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スイッチが入ったときの斎藤工さんは怖かった

──斎藤工さんとは、安藤裕子さんのMV(「一日の終わりに」)で監督と演者という立場でお仕事をされましたが、今回の共演はいかがでしたか?

宮沢:工さんとの共演は多くて。その前にも、『騙し絵の牙』という作品でご一緒したり、すごくご縁があります。工さんと、大森南朋さんとも共演経験がありますが、お兄さんのような存在でもあるので、いてくれると、すごくほっとします。『騙し絵の牙』では共演シーンはなかったんですが……。

──今回はガッツリ共演されていますね。

宮沢:あんまり細かくは話せないですが、喫茶店のシーンはすごく印象に残っていて。
普段すごい優しい方なんです。でも、今回の役はちょっと怖い。頭がぶっ飛んでるので、そのスイッチが入ったときの工さんはほんとに怖くて。目つきも全然違うし、全身タトゥーで、睨まれると鳥肌が立つくらい恐怖を感じるんですけど、それだけ工さんの役作りというか、役のスイッチの入り方が素晴らしいなと思いました。

──すると、こっちも負けずにやってやろうとスイッチが入ったりするんでしょうか?

宮沢:そうですね。それはありました(笑)。

──西島さんとの共演は今回が初めてですね。

宮沢:初めてでした。といっても、絡むシーンはそんなに多くなかったのですが。西島さんは本当にストイックなの方で、現場にいても演じていた安西のような、多くを語らない雰囲気を持っていて。たくさん会話をしたわけではないんですけど、すごくかっこいいなと思ったことがありました。
撮影現場って、結構準備に時間かかるので、キャストはその間ベンチに座ったり、別のところへ行って休んだりするんですけども、西島さんはずっと現場にいて、自分が映らないカットの撮影でもスタンドインじゃなくて、ご本人が入られるんです。見てる側としては、やっぱり気持ちを切らないというか、全部込み込みで役作りなさっているのかなという印象は受けました。

──『グッバイ・クルエル・ワールド』というタイトルはどう思いますか?

宮沢:すごい好きですね。この世界というか人類の歴史において、ずっとクルエル(残酷)な世界が続いてると思っているんです。戦争がなくなった瞬間なんてないし、未だに銃で乱射事件も起きるし、悲惨な事件事故も多いし。でも、みんなが平和な世の中を望んで……いや、みんなじゃないかもしれないですけど。それが問題なんですけど。でも、ほとんどの方はそうですよね。平和を求めてる方々がいるという以上は、やっぱりその可能性に賭けたい。このタイトルはストレートに、そんなクルエルな世界がなくなってしまえばいいっていう。全人類がここまで行けたら幸せなのにな、と思うぐらい、希望を持てるタイトルだと僕は思います。

──私は逆に「もうこんな残酷な世界からおさらばしてやる」という意味に取っていました。宮沢さんの視点に目から鱗が落ちました。

宮沢:僕はそう思いましたね。もちろん見る方によって全然違うので、どっちも多分正解です。ただ、少なくとも僕はそういう風に感じましたね。

──物事を前向きに捉える方なんですね。

宮沢:両方です(笑)。ポジティブに考えるときもあるし、すごい落ち込むときもあるんですけど、明日になったらさらにしんどいのかなって思うより、明日は今日よりはマシになるよねって。結果、それがもしかしたらポジティブになるかもしれないんですけど(笑)。なんとかなるでしょうって思いながら、毎日を過ごしてます。

──あまり自分を追いつめ過ぎないようにしている? 自分に嘘をついてまで空元気には振舞わないということでしょうか?

宮沢:ネガティブな感じで現場に行ってしまうと、それを見た皆さんにも影響が出て、全体のモチベーションが下がってしまうのがほんとに嫌で。だったら、もうちょっと嘘ついてても、頑張りましょうみたいなの方が、結果、楽(笑)。

──こじつけになりますが、一昨年から続くコロナ禍で社会に閉塞感が増したこともあって、矢野というキャラクターへの共感はより高まるような気がします。

宮沢:そうかもしれないですね。というのも、自分が楽しみにしていた作品が自分の目の前で崩れていくというか終わっていくのを見て、やるせない気持ちになったので。そこから先も自粛期間で会いたい人にも全然会えないし、家族に会うのもちょっと遠慮するくらい、とにかく1人でいないといけなくて。精神的にも孤独を感じていた気がします。それは矢野に繋がるものがあると思いますね。孤独感と、この先どうなるかわからないという不安がありました。

──矢野のセリフで印象的なのが、「怖いってよくわからない」という言葉です。これはなかなか衝撃的なことだと思いますが、宮沢さんご自身には当てはまりますか?

宮沢:僕はいろいろ怖いですよ(笑)。ただ、「怖いってわからない」というのもいろんなバージョンがあると思うんです。一通りめちゃくちゃ全部経験してこれ以上ない恐怖体験をしたから、もうわからないのか。それとも純粋にわからない。逆に経験がないから「怖いってわからない」のか。僕は後者の方が怖いと思います。いろんな恐怖を味わってきて、もう今はわからないけど、その瞬間瞬間では恐怖や痛みを感じていたという方がまだ救いがあると思うんですよ。矢野はどっちなんだろうと考えた時、正直自分でもまだ答えは出てないんですけど、いろいろ恐怖や辛い経験を全部したが故のあのセリフだと僕は思います。逆にそうであってほしいし、その方が、最終的に矢野の救いにつながる。

──すごく矢野を大切に思っていらっしゃいますね。観客は客観的に見るだけですが、演じる宮沢さんは彼に寄り添っているのが伝わります。

宮沢:不思議なもので、やってる時は正直、そこまで考えてないです。その瞬間はその世界は生きてるわけですから、終わった時に初めて気がつくんですよ。あ、こういう考えしてたな自分は、みたいな。1回その役が終わって自分に戻った時に。それは多分1番いい状態でです。変に全部決め決めで作らない方が、特に映画とはいいと思っていて。やっぱり、その瞬間瞬間生きてるからこそ、結果的にそうなったということが1番の理想というか。それを今回感じることができたので、よかったです。

(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
(ヘアメイク:スガ タクマ/スタイリスト:庄将司)

宮沢氷魚
宮沢氷魚
みやざわ・ひお

1994年4月24日生まれ。アメリカ出身。ドラマ『コウノドリ』(17年)で俳優デビュー。以後、ドラマ『偽装不倫』(19年)、連続テレビ小説『エール』(20年)などに出演。初主演映画『his』(20年)にて数々の新人賞を受賞、また、映画『騙し絵の牙』(21年)では、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。現在、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に出演中。映画『エゴイスト』が2023年2月に公開予定。