被害者は49人の少女たち——名門合唱団で起きた性加害事件を映画化

#MeToo#オンドジェイ・プロヴァズニーク#ブローク・ヴォイス#実話

『ブロークン・ヴォイス』
『ブロークン・ヴォイス』(C)endorfilm s.r.o. Punkchart films s.r.o. Česká televize innogy Česká republika a.s. Barrandov Studio a.s. 2025
『ブロークン・ヴォイス』
ブローク・ヴォイス

チェコの名門児童合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」で実際に起きた性加害事件から着想を得た映画『ブロークン・ヴォイス』が、9月19日より全国順次公開される。このたび、本作の予告編映像、ポスタービジュアル、場面写真が解禁となった。

指揮者に「特別」に選ばれた少女に忍び寄る、見えない支配の構図

本作の基となった事件は、1984年から2004年にかけて少なくとも49人が被害を受け、2004年に合唱団の指導者ボフミル・コリーンスキーが逮捕された衝撃の事件。歌を愛するひとりの少女が沈黙するまでを描く本作は、聖と俗、成功と妬み、大人と子供、数々の対比をもってひとりの少女を取り巻く環境を、被害者と加害者の両面から描き、芸術と権威性の危うい関係、合唱団という共同体で起きた沈黙の構造を真正面から見つめる。2025年のチェコ映画批評家賞ではベスト映画賞を受賞した。

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「名門」と呼ばれ入団希望が絶えないカンティチェラ少女合唱団で、カロリーナはBチームに所属し、選抜チームに入る姉ルチエの背中を追っていた。ある日、指揮者のヴィテクはBチームの練習に現れ、カロリーナを指名。海外ツアーを前にした選抜メンバーを決める雪山合宿で、欠員の代役として呼ばれたカロリーナに、ヴィテクは楽譜を手渡し「覚えなさい」と告げる。厳しい練習と張りつめた空気のなか、宿舎では競争と嫉妬が渦巻き、ささやかな悪意が日常に紛れ込むが、それでも彼女は選ばれるために歌い続ける。

ブローク・ヴォイス

一方で指揮者のヴィテクは時に優しく、時に距離を縮める。笑い合い、遊び、称賛する――そのすべてが自然に見える。やがてカロリーナだけは少しずつ“特別”に扱われるようになり、ついに正式な団員に。喜びを隠せないカロリーナに、姉のルチエは「才能で選ばれたとでも?」と告げる。夢の海外公演のためニューヨークへ渡った合唱団。開演前のヴィテクの激しい叱責を浴び、疲れと時差を引きずったまま臨んだ演奏で、カロリーナは集中を欠き歌声は乱れる。ヴィテクは彼女を呼び止め、帰国するよう告げる。失意のなか、ホテルの部屋に戻れずにいるカロリーナは、エレベーターで乗り合わせたヴィテクの部屋へ。目を覚ました彼女にヴィテクは静かに言う「君はキレイだ」――。

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「これは告発の映画ではない」――沈黙が生まれる瞬間を見つめた社会派問題作

監督・脚本は、チェコ映画界の新鋭オンドジェイ・プロヴァズニーク。本作は長編第2作目にあたる。監督は、この物語を最初から「告発」や「断罪」として描くことをあえて選ばず、カメラは一貫して13歳のカロリーナの視点に寄り添い、彼女が“選ばれる”ことに感じる喜びや誇らしさを丁寧にすくい取っていく。

主人公カロリーナを演じたカテジナ・ファルブロヴァーは、本作が映画初出演。撮影当時13歳で、キーン少年少女合唱団(日本では「チェコ少年少女合唱団」としても知られる)のメンバーでもあり、劇中で歌われる楽曲はすべて本人による歌唱だ。合唱シーンはすべて撮影現場でライブ録音されており、少女たちの息づかいや緊張感がそのまま音として刻まれている。その演技は評判を呼び、2026年のチェコアカデミー賞では主演女優賞を受賞した。一方、指揮者ヴィテクを演じるのはユライ・ロイ。

撮影は16ミリフィルムで行われ、ざらついた粒子とやわらかな色合いによって、共産主義体制が終わり自由の空気が満ちた90年代初頭のチェコの時代の空気を呼び起こしている。

本作は、「#MeToo」以後の価値観をもって過去を断罪するための映画ではない。なぜ声を上げることができなかったのか、なぜ沈黙が長く続いてしまったのかを、ひとりの少女の経験の内側から静かに問い直す作品だ。監督が焦点を当てるのは、トラウマのその後や告発の行方ではなく、虐待が起こる「手前」の時間。少女にとって本来は守られるべき安全な空間が、いかにして少しずつ毒されていくのか、その過程を見つめている。

『ブロークン・ヴォイス』は9月19日全国順次公開される。