市川團十郎、歌舞伎衣裳でヴェネチアを魅了! 三池崇史監督『襲名』公式上映に約5分間の喝采

#、第83回ヴェネチア国際映画祭#ドキュメンタリー#三池崇史#市川團十郎#市川新之助#歌舞伎

『襲名』
(c) Kazuko Wakayama
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(c)Lucia_Sabatelli
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市川新之助も登壇、満席の観客から熱い拍手と歓声

市川團十郎と三池崇史監督がタッグを組んだ初のドキュメンタリー映画『襲名』(インターナショナルタイトル:Shumei: The Living Legacy of Kabuki)が、第83回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門に正式出品され、現地時間9月4日16時30分より公式上映が行われた。

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上映前のフォトコールには、市川團十郎、市川新之助、三池崇史監督の3人が登壇。市川團十郎は、前日のレッドカーペットに続き、歌舞伎演目『男伊達花廓(おとこだて はなのよしわら)』に登場する江戸一番の男伊達・御所五郎蔵(ごしょのごろぞう)の衣裳で姿を現し、取材メディアからは思わず感嘆の声が上がった。

また、公式上映の冒頭にも、フォトコールを終えたばかりの3人が駆け付けた。市川新之助、そして歌舞伎衣裳に身を包んだ市川團十郎が登壇すると、会場からは大きな拍手が沸き起こった。さらに三池監督が呼び込まれると、より一層大きな拍手が送られ、満席の観客が見守る中、公式上映が始まった。

上映中の劇場内では、作品を食い入るように見つめる観客の姿が多く見られた。上映後、エンドロールが始まると、すぐさま割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こり、その熱狂は約5分間にわたって続いた。その後、司会者からの質問に続いて、観客からの質問にも答えるQ&Aが行われ、熱いトークが繰り広げられた。

Q&A終了後も、市川團十郎、市川新之助、三池監督の3人は観客に囲まれ、熱気冷めやらぬ中、もみくちゃになりながらもサインに応じていた。その後、映画祭への参加を振り返るオフィシャルインタビューも行われた。

『襲名』

司会者:三池崇史監督に質問させてください。これまでに100本を超える劇映画を手がけてきた伝説的な映画監督である三池監督が今回初めてドキュメンタリー作品に挑戦されました。その題材として選ばれたのは、日本の演劇を象徴する存在であり、日本の歴史や文化を代表する芸術形式一つでもある歌舞伎です。なぜ劇映画からノンフィクション、ドキュメンタリー映画へと踏みだし、その題材として歌舞伎という芸術を選ばれたのでしょうか。

監督:こんにちは。血の出ない映画だったので皆さん驚かれたかもしれません(笑)。この場に立つことができて本当に嬉しく思います。今回、この作品を監督するきっかけですが、元々は映画監督と主演俳優という形で『一命』(11年、英題:Hara-Kiri: Death of a Samurai)という作品で市川海老蔵(現・團十郎)さんとご一緒したことにあります。市川海老蔵というお名前の時に出会ったのですが、それから時が流れ、いよいよ團十郎を襲名されることになりました。この「團十郎」というのは歌舞伎界の最高峰の名前であり、頂点に立つ男、歌舞伎そのものを引っ張っていく立場になるわけです。

それを聞いた時に、やはりこの歴史的瞬間を記録に残したい、自分も絶対に参加したいと思い、今回の映画になりました。ただ、本来は1年で終わるはずだったのですが、コロナ禍をはじめ様々なことがあり、4年近くかかりました。4年近くの中でいろんなものを撮影したのですが、最終的には編集でできる限り削ぎ落としました。私の願いとしては、様々な国の方々に、できるだけ「ライブ」な感じで市川團十郎とその息子・新之助を体験していただきたいということです。「理解してくれ」というよりは、「なんだこれは」「この歌舞伎というものは何なんだ」という衝撃や芝居そのものを体験していただければと思っています。

司会者:三池監督にもう一つ質問させてください。この作品が持つ数多くの魅力の一つとして、私たち西洋人のように歌舞伎の歴史にあまり馴染みのない観客にも、その世界を伝えてくれる点にあります。一見すると三池監督がこのような映画を撮ることを意外に思う人もいるかもしれません。しかしその表現の奥には監督自身の作品と深く結びつく多くの要素が隠されています。運命に立ち向かう人物、途方もなく大きく見える試練、歪みを伴う独特の演出などです。日本文化に携わる1人の人間として、歌舞伎という芸術は直接的、あるいは間接的に監督にどのような影響を与えてきたでしょうか。

監督:告白すると”市川海老蔵”さんに出会ったことで、私自身が「歌舞伎」に直接触れ合うきっかけをいただきました。それ以来、歌舞伎も團十郎さん自身のことも大好きになり、劇場へ足を運び、また別の映画にも出演していただいたりと、親しい関係を築くことができました。もちろん、子どもの頃から歌舞伎の存在は知っていましたし、学校の授業でみたりもしましたが、自分にとっての歌舞伎とは”市川團十郎”そのものであります。その時の衝撃や出会いを、歌舞伎のことを詳しく知らない方々にも体験していただきたかったのです。

今日の上映が終わった時、途中で皆さんが帰られてしまうんじゃないかと心配していたのですが、最後まで残って拍手をいただき、本当に嬉しく思います。本日は本当にありがとうございました。

『襲名』

司会者:市川團十郎さん、新之助さんのお二人にも質問したいと思います。襲名という、人生の重要な局面で、これほど長い期間にわたって、自分たちの姿を見つめられ、撮影され続けるというのはどのような経験でしたか? そこには、数百年に及ぶ伝統の歴史を変えるような非常に重要な決断もありました。新之助さんが下した決断もその一つかと思います。

新之助:やはり舞台に立ってお芝居をみられることに対してはあまり緊張しないんですけど、映画の中の昔の自分の反省点もたくさんありますし、それを自分自身で見ながら、さらに多くの方々にも見られるというのは、本当にすごく不思議な経験でした。本当に恥ずかしくて、もう冷や汗が止まらなかったです。

團十郎:ボナセーラ!(観客拍手!) ありがとうございました。「襲名」というものは日本独特の世界ですけれど、こうやって三池さんの力の中で、ここにいらっしゃる多くの方々に見ていただけて本当に光栄でした。最後の方は字幕もなく、自分たちの素の芝居でしたので、皆さんがどう思われるのか不安で不安で仕方がなかったんですけれど、本当にこうやって最後まで見ていただいてありがとうございます。私自身もこの映画の姿と同じように、もっと高みを目指して頑張りたいなと改めて思いましたし、この一期一会の時間を皆さんとこうして過ごすことができて、本当に嬉しく思っております。ぜひ歌舞伎を今後何かチャンスがあったら日本に来た際に見てみてください。本日はありがとうございました。グラッツェ!(観客拍手!)

司会者:先ほどの質問は、本来、團十郎さんにお答えいただくのがふさわしいものだったかもしれません。というのも、團十郎さんは映画の最後にある、非常に美しく感動的な場面について触れられたからです。少なくとも、私たちがこの作品を見たとき、そして私自身にとっては、とても感動的な場面でした。そこでは、現在の團十郎さんが、まるで過去の自分自身と対話しているように見えます。若い頃の自分と、現在の自分が、時を超えて向き合っているかのようです。その意味では、実際に何を話しているのかを理解することは、それほど重要ではないのかもしれません。

私は、三池監督があの最後の場面に字幕を付けなかったことを、とても素晴らしい選択だと感じました。言葉以外の部分に意識を集中させることで、歌舞伎が今も生きている伝統なのだと分かるからです。

歌舞伎は時代の中で生き続け、時代とともに変化していきます。そして歴代の團十郎が、それぞれ自分自身のものをそこに加えてきました。映画の編集によって、理論上は同じ役、同じ場面でありながら、歴代の俳優によるさまざまな演じ方が並べられています。それをご覧になって、現在の團十郎さんは、そこにご自身のどのようなものを加えているとお考えでしょうか。2026年という現代に生きる一人の人間として、この「生きた伝統」に何をもたらしたいとお考えですか。

團十郎:難しいですね。やっぱり「助六」や「勧進帳」といった演目を、こうやって時間のない中で皆様にお伝えできたことは本当に監督に感謝だなと思いますし、何かを感じてくださったこと、ありがとうございました。今この2026年9月の時点で皆様も感じているように、世の中の速度というのはものすごく早く、新しいものがどんどん新しくなっていく昨今において、伝統を守っていくというのは大変難しい状況にあります。

しかしながら、このように時代がどんどん進むからこそ、伝統の中にある人間の本質、普遍的なものというものは、実はその中に古い形、伝統の中に1番新しいものの光り輝くものが入っているということに、誰もが気づき始めている時代に差し掛かっていると思うんです。新しいイノベーションをするということは、さらに磨きをかけていき、より古いものの中から新しいことを見出していく。日本の言葉に「温故知新」というものがございまして、そこにすべてが込められている伝統の世界を体現していくことが、私のひとつの目標かなと思います。

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■観客からの質疑応答

観客:これまで長年にわたってフィクション作品を手がけてこられましたが、今回初めてドキュメンタリーに挑戦されて、どのように感じられましたか。また、フィクションからドキュメンタリーという異なる表現形式へ移行するにあたり、どのような難しさや戸惑いがありましたか。

監督:そうですね。それによって色んなジャンルをやった感覚も特別なものではなくて、自分が監督をやって生きていく中で自然にやってきたことなんですね。ドキュメンタリーにする、ということになったのも、自分の中ではごく自然に、運命というわけではないですけれど、その流れの中で結果的に出来上がったものなんです。

これまでもそうですし、これからも自分自身で「ジャンル」を意識してそこにとらわれるのではなく、もっと自由に自分らしくいられる場所を探していければなと思っています。だからこそ同じ時代に生きる團十郎さんとも出会うことができたと思っています。

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■オフィシャルインタビュー

――ヴェネチアでの上映を終えた感想をお聞かせください。

監督:もうびっくりしましたね。素晴らしい。みんな本当に真剣に見てくれて、本当に真剣に称えてくれて。彼らにとっての新しいスターが誕生したな、という瞬間を感じました。色々な映画祭でスタンディングオベーションを様々な形で体験してきましたけれど、こんなにも力強くて愛に満ちた拍手というのは本当に初めてで、本当に素晴らしかったです。

團十郎:初体験のことだったからなぁ。作品として、すごいものができたなという感覚はあるんですけれど、いかんせん自分のことなので、新之助も話していた通り、恥ずかしさがこみ上げて汗が止まらないなという感じでした。ですが、やっぱり文化を大事にしている人々にとっては、異国の文化であったとしても初めての世界観を体験して「なんなんだろう」「こういうものか」という、そのリアルな感覚を感じ取ってくれたんだろうな、ということが伝わってきて幸せでした。

新之助:僕は本当に、まず本当にありがたくて。1番最初に出させていただいた映画で、ヴェネチア国際映画祭に出品されて、このヴェネチアの地に来ることができて、皆様に囲まれながらその映画を見られたというのが、もう本当に嬉しくて。拍手の時とかもみんな笑顔に溢れていて、本当に嬉しいなって思いました。けど、やっぱり自分のことなので見ていてすごく恥ずかしくて、父とも顔を見合わせながら「ほんとに恥ずかしかったね」と言い合いながら、本当にお互い汗がドバドバでした(笑)。

――新之助さんは初ヨーロッパでしたがいかがでしたか。

新之助:やっぱりヨーロッパの中でも、ヴェネチアって本当にすごく綺麗な街で、もう一生見られないんじゃないかっていうくらいの不思議な街でした。移動手段も船で、船の上から見る街というのも本当に初めての経験でしたし、初めてヨーロッパに来させていただいて、その国がここで本当に良かったなと思いました。

團十郎:良いこと言うなぁ。

――團十郎さんは初めての国際映画祭ということで、今回『襲名』が上映されていかがでしょうか。

團十郎:映画という芸術作品、その映画という芸術作品が持つ時間軸や文化、そしてその奥行き。その中で生きている方々や、それを理解して求める人々の、熱さとはまた異なる、熱さによく似た「愛情的な深み」を今回はすごく感じたかなと思います。単純ではない世界がしっかりとあって、そこに参加できたことが本当に意義のあることだったと感じています。

『襲名』

――監督は16年ぶりのヴェネチア国際映画祭でしたけれども、いかがでしたでしょうか。

監督:過ぎてみるとあっという間で、もう16年か。ただ、16年ぶりなだけに「どんなものをつくってきたんだ」という期待の目も感じ非常に厳しい部分もあるんです。その中でも、今回の映画祭にある数多くの作品の中で、この『襲名』という映画は彼らにとっても非常に異質なものだったと思います。初めて見る歌舞伎という内容もそうですけれど、「市川團十郎」にふれる、という作品で。ただ、人と出会うというか、映画ではなかなか体験できない今までにない空気を感じました。劇場の中にいる一人ひとりに観客の数だけの感想があると思うのですが、映画が終わった瞬間に「出会えてよかった」「見てよかった」という感情がすごく伝わってきたので、本当にありがたいなと思っています。

――海外の皆さんの反応はいかがでしたか。

新之助:でもやっぱり、皆さんが本当に温かい目で観てくださって。途中、僕のお芝居を見ていて飽きないかなってずっと不安だったんですけど、終わったら本当に温かい拍手で迎えてくれて「本当に温かいな」と感じました。ありがとうございます。

團十郎:2回目の観賞でしたが、やっぱり冷静には見られない! 海外の方々がどう感じるんだろうという漠然とした不安が大きすぎるというか。例えば監督と一緒にやった『一命』などは作品として演じているので、恥ずかしくもないですしベクトルがそっちに向かっている。「そうだよね」と作品として受け止められるんですけど、今回は僕は劇映画のように演じてはいない。舞台の上では演じていますけれど、それを切り取っていただいているので、全く見方が違う立ち位置で参加し、見ているんです。それをお客様や海外の方がどうみるかに対しては、僕自身漠然とした不安と、解決しようのない咀嚼力のなさがありました。

だけれども、見終わった後の海外のお客様の雰囲気を見ていると、やっぱり理解をしようとしてくれている。「なんだか分からないけれど、見て良かったな」という空気感はあったんです。だから僕が他の国の文化や映像を見て「見て良かったな」と思う感覚に近かったのではないかなと、まだクエスチョンマークを持ちながらも感じます。

――監督は手応えなどいかがでしょうか。

監督:手応えというか、あとはそれぞれのお客さんが、この上映の後に歌舞伎に対してどういう思いを持ってもらえるかだと思います。それこそ後から検索して、AIと一緒に「團十郎の旅」をするような人もいるでしょうし、それぞれが「歌舞伎」というか「市川團十郎」という存在を知ってくれて、何か他のところで名前を聞いた時に、「あぁ、團十郎知ってる」「映画を見た」「本人見た!」と言ってくれるような人が、僕としてはひとりでも増えてくれればありがたいなと思います。この映画を通しての出会いを大事にしていっていただければそれだけで幸せですね。

『襲名』は2026年9月25日より全国公開。