才能溢れる少女たち“49人”が被害に…名門合唱団の性的虐待事件描く『ブロークン・ヴォイス』

#ブロークン・ヴォイス#実話#虐待

(C) endorfilm s.r.o. Punkchart films s.r.o. Česká televize innogy Česká republika a.s. Barrandov Studio a.s. 2025
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2004年、少女たちへの性的虐待容疑で逮捕された合唱団の指導者ボフミル・コリーンスキー。約30年間で少なくとも49人が被害を受けていたことが明らかになった。それは、日本でも公演を行い広く知られていたプラハの名門少年少女合唱団「バンビーニ・ディ・プラーガ」をめぐって起きた事件だった。その衝撃の事件から着想を得た映画『ブロークン・ヴォイス』の公開が決定した。

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「才能」「成功」そして「沈黙」が結びつき、歪められていく

・【実話】49人の少女が被害に…“天才指導者”に隠された異常な支配/映画『ブロークン・ヴォイス』特報

(C) endorfilm s.r.o. Punkchart films s.r.o. Česká televize innogy Česká republika a.s. Barrandov Studio a.s. 2025

共産主義体制が終わり、チェコ共和国が少しずつ西側諸国へと開かれていった90年代初頭。社会全体に自由の空気が満ち、希望と同時に無防備な欲望も膨らんでいた時代を背景に、『ブロークン・ヴォイス』はひとりの少女のまなざしを通して、「才能」「成功」そして「沈黙」がどのように結びつき、歪められていくのかを静かに、しかし深い痛みを伴って描き出す。

監督・脚本を手がけたのは、チェコ映画界の新鋭オンドジェイ・プロヴァズニーク。本作は彼にとって長編第二作目にあたる。

監督は、物語の着想となった事件を、最初から「告発」や「断罪」として描くことをあえて選ばない。カメラは一貫して、13歳のカロリーナの視点に寄り添い、彼女が“選ばれる”ことに感じる喜びや誇らしさを丁寧にすくい取っていく。

指揮者ヴィテク(ボフミル・コリーンスキーがモデル)に目をかけられ、特別扱いされることは、カロリーナにとって自分の価値が認められた証であり、大人の世界へ近づくための通過点のように映る。しかし、その親密さが何を意味するのかを、彼女自身はまだ理解できていない。

観客は、少女の無自覚な感情と、周囲に漂い始める不穏な気配とのあいだに生じる微妙なズレを追体験することになる。そのズレを通して浮かび上がるのは、権力の濫用が特別な事件としてではなく、ごく日常的な関係の中に紛れ込み、見えなくなっていく過程だ。本作は、そのじわじわと蝕む過程を観る者自身に気づかせるかたちで描いていく。

演出においても本作は、説明過多や刺激的な表現に頼らず、終始抑えた語り口を保っている。16ミリフィルムで撮影された映像は、ざらついた粒子とやわらかな色合いによって、90年代という時代の空気や記憶を自然に呼び起こすと同時に、少女の内面に寄り添う感覚的な映像世界を形づくる。

合唱の場面の多くが、音源をかぶせるのではなく、生の歌声で撮影されている点も重要だ。息づかいや緊張がそのまま画面に刻まれることで、音楽は美しさだけでなく、身体的な重みを伴って響いてくる。澄んだハーモニーが重なるほど、観客はその背後に潜む違和感や不協和音を、より強く意識することになる。

主人公カロリーナを演じたカテジナ・ファルブロヴァーは、これが初出演とは思えないほど繊細で思春期の少女が抱える不安や高揚、力強い演技を見せチェコアカデミー賞主演女優賞を受賞している。

一方、指揮者ヴィテクを演じるユライ・ロイは、魅力と恐怖が同時に立ち上がる存在感で、単純な「悪役」には回収できない権力者像を形づくる。彼が時に優しく、時に冷酷であるがゆえに、少女たちとの関係性はより複雑で、逃れがたいものとなっていく。

映画内の合唱シーンはすべて撮影現場でライブ録音されており、少女たちの息づかいや緊張感が、そのまま音として刻み込まれているところにも注目したい。

『ブロークン・ヴォイス』は2026年9月19日より全国順次公開。