塚本晋也監督、戦争の“加害者の傷”に切り込む新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』公開決定

#ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?#塚本晋也

(C)Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners
(C)Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners
(C)Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners

ベトナム帰還兵の実話を基にした衝撃の人間ドラマが9月公開

監督・俳優として世界的に高い評価を受ける鬼才・塚本晋也の最新監督作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(英題:Mr. Nelson, Did You Kill People?)が、9月より日本公開されることが決定した。原作は、ベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソンが、自身の戦争体験と帰還後の葛藤を綴ったノンフィクション。

・趣里、主演を務めた『ほかげ』は「一見すごく対照的な役に見えますが…」『ブギウギ』のヒロイン・鈴子との共通点語る

『野火』(14年)が第71回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品され、その凄絶な戦争描写で衝撃と感動を与え、『斬、』(18年)、『ほかげ』(23年)と立て続けに世界の映画ファンを唸らせてきた塚本晋也監督の最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、9月より全国公開となる。

塚本監督待望の最新作は、国際的な評価を受けた『野火』『斬、』『ほかげ』に次ぐ、戦争をテーマにした作品。本作では、ベトナム戦争をめぐる「戦争加害者の傷」というタブーに切り込む。

キャストには、『シャイン』(96年)『英国王のスピーチ』(10年)『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで知られるオスカー俳優ジェフリー・ラッシュをはじめ、ブロードウェイミュージカル『RENT』のオリジナル・キャストおよびクロージング・キャストを務めたロドニー・ヒックス、そのほかタチアナ・アリ、マーク・マーフィーらが集結。ニューヨーク、タイ、ベトナム、日本と、国境を越えた異例のスケールで撮影が敢行された。

原作は、ベトナム帰還兵のアレン・ネルソンによる同名ノンフィクション。ネルソン氏は来日後、自身の戦争体験をもとに日本全国で1200回以上の講演を行い、「ほんとうの戦争」とは何かを語り続けた。戦争の加害者としての葛藤や痛みを包み隠さず語るその姿は、多くの聴衆に深い衝撃と学びを与え、現在は日本で永眠している――日本と深い縁を持つ人物だ。

本作は、そんなネルソン氏の人生を基に描かれる。主人公アレンはニューヨークの貧しい家庭に生まれ、差別と貧困から抜け出すため、18歳で海兵隊に入隊。沖縄のキャンプ・ハンセンを経て、1966年、映画のヒーローのように誇り高い兵士になれると信じ、ベトナム戦争の最前線へ送られる。

しかし、そこで待っていたのは栄光ではなかった。村人の中にベトコンが紛れ込んでいるという理由で、老若男女すべてが疑われ、命を奪われていく──ただ人を殺すことを強いられる、凄惨な現実だった。命を奪う経験を重ねるうち、アレンの心は次第に感覚を失っていく。

23歳で帰国した彼を待っていたのは、戦場の記憶に縛られる日々だった。大きな音や暗闇に怯え、家族との関係も崩壊し、やがてホームレスへ。孤独と絶望の中で生きるアレン。そんな彼に真正面から向き合い、救い出そうとする退役軍人病院のダニエルズ医師が現れる——。

さらに公開決定に際し、塚本監督からコメントも到着した。「『野火』を映画化するとき、さまざまな資料、書籍を読んだが、そのとき出会った何よりも恐ろしいノンフィクションが『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』だった。アレン・ネルソンさんは、ベトナム戦争で多くの人を殺した。そして戦争後遺症に生涯悩まされ続けた。自分の犯した罪とその後の人生を包み隠さず吐露した本は、いつまでも頭から離れず強烈に自分の心に刻み付けられた」と原作との出会いを回顧した。

しかし、完成までの7年間、この映画を作りたいという気持ちと、戦争の恐ろしさや人間の暗部から目を背けたいという気持ちの間で葛藤し続けたという。その上で、生涯をかけて戦争体験を語り続けたネルソン氏の物語は、「あちこちで戦火をあげている今の世界」にこそ、絶対に必要な物語だと語っている。

そんな切実な思いから生まれた本作は、これまで戦争と人間、そして人を殺めることの恐ろしさを描き続けてきた塚本監督にとって、集大成とも言うべき作品となった。終戦から80年が過ぎた今の日本社会に、ネルソンさんの言葉はどのように響き渡るのだろうか。

■塚本晋也監督のコメント全文

大岡昇平さんの「野火」を映画化するとき、さまざまな資料、書籍を読んだが、そのとき出会った何よりも恐ろしいノンフィクショ
ンが「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」だった。アレン・ネルソンさんは、ベトナム戦争で多くの人を殺した。そして戦争後遺症に生涯悩まされ続けた。自分の犯した罪とその後の人生を包み隠さず吐露した本は、いつまでも頭から離れず強烈に自分の心に刻み付けられた。

これがもし映画になったら?と想像すると、今の世の中に絶対必要なことに思えた。戦争がどういうものか。戦争が人をどう変えるか。周囲の人にどういう影響を与えるか。

同時に、そんな恐ろしい考えは持たないようにしよう、と逃げる理由も考えた。

映画化はあまりに難しく、逃げる理由はいくらでも並べることができた。

その物語に近づこうとするたび、人間の暗部がいやというほど浮き彫りになり、苦痛を感じた。しかし、体は、この企画の実現のためにとどまることを忘れ休みなく動き続けた。果たして映画化は困難を極め、作らなければ、でも逃げたい、というせめぎ合う気持ちは7年もの間完成に到るまで続いた。

あちこちで戦火をあげている今の世界。それをますます身近に感じるようになった。これは、アレン・ネルソンというアフリカ系アメリカ人の一人の兵士を描いた真実の物語だ。

今は亡くなってしまったアレンさんを蘇らせ、人々に知ってもらうことが今の世の中にどうしても必要、という考えを捨て去ることができずに、多くの人たちの理解と協力を得て完全なものとして出来上がった。

彼の生きる姿が、皆さんの心に届くことを心から願っています。

塚本晋也

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は9月より全国公開。