【映画を聴く】「Let It Go」だけじゃない!『アナと雪の女王』音楽の魅力を解説

#映画を聴く

『アナと雪の女王MovieNEX』
『アナと雪の女王MovieNEX』

7月16日の発売後、3週間足らずで250万枚の売り上げを突破した『アナと雪の女王MovieNEX』。このソフト、わが家にも当たり前のように1枚あって、4歳になる娘が英語版と日本語吹替版をシャッフルしながら、毎日飽きもせず繰り返し見ている(幼稚園が夏休み中なので)。ここ数日は例の「Let It Go(ありのままで)」のシーンだけをピンポイントでリピートするものだから、こっちまで日中何回も何回もこの曲を聴く羽目に。しかしまあ、聴くほどに改めて「よくできた曲だなぁ」と感心させられている。

【映画を聴く】『るろうに剣心』シリーズを引き立てるONE OK ROCKの音楽

「Let It Go」は、簡単に言ってしまえば「いままで魔力のことを誰にも言えずに悩んでたけど、これからはありのままの私でいくからね」というエルサの心境の変化を綴った“開き直りソング”だ。王国を逃げ出した彼女が、ひとり雪深い山に登るシーン。その荒涼とした風景とアナの心中に同調するようなマイナー・キーで始まり、サビで一気にメジャーに転じる開放感、詞と曲のシンクロ具合はやっぱり凄い。1コーラスで見事にエルサの心の移ろいを描き切ってしまっている。

この曲を書いたロバート&クリステン・アンダーソンのロペス夫妻は、もともとミュージカル畑を中心にキャリアを積んできたソングライター・チームで、夫のロバートが曲を、妻のクリステン・アンダーソンが詞を担当している。『アナ雪』以外では2011年の『くまのプーさん』がわりと知られているほか、ブロードウェイミュージカル『アヴェニューQ』『ブック・オブ・モルモン』あたりのキワどい内容を扱った歌曲も話題になっている。ちなみにロバートは、04年にトニー賞、08年と10年にエミー賞、12年にグラミー賞の受賞経験があり、『アナ雪』でのアカデミー歌曲賞受賞によって歴代最年少(39歳)の“EGOT”(エミー、グラミー、オスカー、トニーの4冠を制すること)を達成している。

『アナ雪』の音楽と言えばこのロペス夫妻によるオリジナル歌曲──「Let It Go」のほか「Dou You Want to Build a Snowman(雪だるまつくろう)」や「For the First Time in Forever(生まれてまじめて)」などが話題になることが多いが、映画全体のスコアをまとめているのはクリストフ・ベックという映画音楽家。この人の仕事ぶりも、もっと評価されていい手堅さだ。冒頭のフィンランドの伝承音楽を下敷きにしたコーラス曲「Vuelie(ヴェリィ)」に始まって、エルサの戴冠式のシーンで流れる「Coronation Day(戴冠式の日)」、エルサの魔力の凄まじさを表現した「Sorcery(秘められた力)」、雪だるまのオラフの見せ場を盛り上げる「Some People are Worth Melting for(溶けたってかまわないさ)」、主要歌曲のメロディをさり気なく引用した大団円の「Epilogue(エピローグ)」まで。たとえ1分ちょっとの小曲でも印象的なフレーズが散りばめられていて、見る者の耳にちゃんと残るのだ。最後にまた「Vuelie」がリプライズして出てくるのもポイント。この曲で物語がサンドイッチされることによって、まるで一冊の本を読み終えたときのような充足感が訪れる。

『アナ雪』はサウンドトラックCDもバカ売れしているけれど、歌曲以外もちゃんと聴いているという人はとても少ないんじゃないだろうか。それはちょっともったいないので、クリストフ・ベックによるスコアもぜひ聴いてみましょう。Blu-rayやDVDを見るのとはまた別の味わいがあります。トラックナンバーで言えば、11曲目から32曲目までです。ぜひぜひ。(文:伊藤隆剛/ライター)

【関連記事】
【映画を聴く】韓国音楽界の新しい潮流を示す?『怪しい彼女』の懐かしくて新しい音楽
音楽から見る宮崎駿作品の魅力・前編/久石譲が“ジブリらしさ”の確立に大きく貢献
『アナ雪』で大人気の雪だるま・オラフを演じるピエール瀧って何者?
『アナ雪』で松たか子&神田沙也加の歌手としての器量を再認識