【週末シネマ】下心を裏切る純愛映画! リアルなネット投稿をオシャレ路線で映画化

(C)「風俗行ったら人生変わったwww」製作委員会
(C)「風俗行ったら人生変わったwww」製作委員会

『風俗行ったら人生変わったwww』

巨大掲示板「2ちゃんねる」に投稿されてネット上で旋風を巻き起こし、書籍化もされた話題作を映画化した『風俗行ったら人生変わったwww』。主人公は吃音症やニートだった過去を持ち、緊張すると過呼吸になってしまう29歳のブサメン童貞男・遼太郎。意を決して挑戦した初めての風俗でワケあり美女の風俗嬢・かよに出会い、何もできないまま恋に落ちてしまう。孤独だったかよも遼太郎に心を開くが、心優しく人が良い彼女は男にいいように借金を背負わされていた。そこでかよさんを救おうと、ネットで知り合ったトレーダーの晋作の助けを借りて遼太郎は立ち上がる。風俗嬢との恋愛話だが、エッチなシーンを期待して見に行くと拍子抜けする純愛ラブストーリーだ。原作はネットでオタク男が高嶺の花に恋するとなれば、誰もが連想するように“第2の「電車男」”と話題となった。

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主人公に扮するのは満島ひかりの実弟で、本作が初主演となる満島真之介。うーん、『電車男』の山田孝之といい、あれか? これがスクリーンの中の映画表現上のブサメンの限界なのか? 確かに、失礼ながらちょっとばかり整いすぎててキモいとも言えるかもしれないが、悲劇的なことはない。その上で主人公のイメージというのは申し訳ないが、私の中で遼太郎は「めちゃ×2イケてるッ! 」の三中元克だ。おどおどした様子も遼太郎にぴったりな上、なんといっても彼には愛嬌という武器がある。つい応援したくなること請け合いだ思うのだが。

かわい過ぎる風俗嬢・かよは佐々木希が扮している。いくらかわい過ぎると言っても佐々木希級の風俗嬢はあり得ないだろう。かよは原作ではその名の通り“かよぽりす”こと佐藤かよ似ということになっている。佐藤かよ似の風俗嬢とは容易に想像できるじゃないか。三中とかよぽりすという生々しいリアリティがある共演で見たかったものだ。まぁ、満島真之介も目を見開いて張り切って熱演し、佐々木希も地元秋田弁やパンチラ披露してがんばってはいる。これがスクリーン上での3次元化の限界なんだろう。

しかしながら、原作はノンフィクションではなかったのか⁉︎と嘆くコメントが寄せられるほど、妙な説得力やリアリティや吸引力に満ちているのだからして、作風だけはリアル路線にしてほしかった。原作は、故意だろうが、誤字脱字だらけのたどたどしい文章で、まず風俗店に電話するということでさえ、どれだけハードルが高く困難かということから心情も含めて臨場感と共に手に取るように綴られている。風俗に行こうという男の話なのに、女性が読んでもダメ男を応援させられ、主人公の成長には感動さえ覚えてしまうのだ。

映画版は心情は置いてけぼりにしてサラサラと流れるように展開していき、主人公に感情移入させてくれないのが残念。原作より改善された部分もあり、原作を読んでどうしても生身の人間を想定できず、「闇金ウシジマくん」の世界の住人としか思えなかったトレーダー・晋作が映画版では比較的存在が薄くて出しゃばらないようになっている。さらに、晋作くんを登場させねば解決し難いAVスカウトのくだりも大幅に割愛。ストーリー上では原作よりリアリティを持たせてあるし、「電車男」と違ってネット上では事後報告となっているが、映画版ではネットユーザーとの交流シーンを入れて盛り上げる仕掛けも施されている。

だが、回想シーンを演劇風にしてみたり、急にカメラ目線で心情を語らせたり、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』の飯塚健監督によるコミカルでファンタスティックな演出で彩られ、リアルな感情は湧いてこない。メインヴィジュアルも有名カメラマンや人気アートディレクターを起用しているし、オシャレなアート路線にしたかったのだろう。確かにネット投稿が元ネタの風俗嬢との恋愛物語なんて、満島くんと佐々木希共演のオシャレ路線にした方が口当たりよく仕上がるというもの。三ちゃんとかよぽりすの生々しいリアル路線なんて見たがるほうが少数派かもしれない。しかし、意外にもタイトルからのイメージと違って、ダメなヤツが奮闘して成長してゆく感動作の王道なのだから、正々堂々と現実味ある作風にして欲しかったのに。

と、ちょっと大衆に媚び売っているのではと批難めいたことを言ったが、観賞料金1000円、予告動画をFacebookで“シェア”すれば500円という大衆に対する腰の低さには好感が持てる。ネット配信も行うのは映画としてどう取るか難しいところだと思うが、劇場窓口で『風俗行ったら人生変わったwww』というタイトルを口に出すのが恥ずかしければ、ダブルピースで“w”サインをして枚数告げればチケット購入できるというサービスはなんだかかわいらしい。その方が恥ずかしい気もするが、イベントに乗っかってやってみたい気にさせられる。作品内容ではないのだが、作品そのものの間口を広くしようとする姿勢は応援したいものだ。(文:
入江奈々/ライター)

『風俗行ったら人生変わったwww』は11月9日より全国公開中。

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