「脱がせるな」の要求無視して強行突破! 若松孝二監督が寺島しのぶの女優魂を絶賛

8月3日に行われた先行上映で舞台挨拶した若松孝二監督
8月3日に行われた先行上映で舞台挨拶した若松孝二監督
8月3日に行われた先行上映で舞台挨拶した若松孝二監督
若松孝二(わかまつ・こうじ)……映画監督/1963年にピンク映画『甘い罠』で映画監督としてデビュー。低予算ながらも圧倒的な迫力のある映像で、ピンク映画としては異例の集客力をみせた。以後、人間の根源的な要素であるエロスと暴力をテーマにヒット作を量産、“ピンク映画の黒澤明”とも形容された。最近作『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は、ベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞、国際芸術映画評論連盟賞を受賞。国内では、日本アカデミー賞以外の権威ある映画賞をほぼ総なめ。

気骨ある映画人として知られる若松孝二監督の最新作『キャタピラー CATERPILLAR』(8月14日より全国順次公開)。銃後の守りを担う女性の立場から戦争の狂気を描いた作品で、今年2月に行われたベルリン国際映画祭で、主演の寺島しのぶが最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞したことでも話題となった。

この映画、そして主演女優・寺島について、若松監督に話を聞いた。

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──本作での寺島さんの演技、存在感は際立っていて、彼女なしにこの映画は成り立たないのではないかと思えるほどでした。
監督:この映画を作ろうと思ったときに、寺島さんみたいな人じゃないと困るなって思ったんです。失礼な言い方かもしれませんが、僕は褒め言葉として「彼女ほどもんぺの似合う女優さんはいない」と言っているのですが(笑)、やっぱりあれだけの女優さんは、今いないですよね。
 最近はどの女優さんを見ても、何もできないくせに格好ばっかり気にして、みんな同じお化粧してチャラチャラしてる。アホかって言いたくなりますよ(笑)。
 女優さんはお化粧なんかしなくても、芝居がきちんとできれば女優に見えるんです。だから、(撮影中に)髪の毛やお化粧を直してばかりいると、もっと芝居に集中しろ!って言いたくなりますね。

──戦争で四肢を失った帰還兵の夫との濡れ場など衝撃的なシーンもあり、事務所としては難色を示すタイプの作品かもしれませんが、そのへんの苦労はありましたか?
監督:いや、それは大変でしたよ。脱ぐシーンがあるのですが、事務所は「脱がせないでください」って。でも、僕はそういう要求は聞かないので(笑)。現場では助監督が「監督、ここまでやったら(事務所に)怒られます」と言うので、「お前ら、どっちの味方なんだ」って怒りましたよ。
 でも、あのシーンはこちらの指示ではなく、本人がああいう風に演じたんです。シナリオにはある程度のことは書いてありますけど、僕が「ああしろ」って言ったわけではない。
 僕はだいたい、ぶっつけ本番で撮るんですけど、あのシーンはもう一発でOKでした。そうやって本人が(自分の意志で)演じたわけですから、事務所がなんと言おうが仕方ない(笑)。
 でも映画が完成した後、事務所の人にすごく誉めてもらいましたよ。

──監督はベルリン国際映画祭に行かれましたが、この映画が上映されたときの観客の反応は?
監督:そりゃあすごかったですよ。街を歩いているときも「見ましたよ!」と大勢に言われましたし。

──同映画祭に作品を出品した時点では、受賞の自信はどれくらいあったのですか?
監督:実は最初、出品を躊躇していたんです。(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭の)3大映画祭は、コンペティション部門はお金が出ないんです。自分のお金で行かなきゃいけない。おまけにフィルムを1本寄贈しないといけないので、結構お金がかかるんです。ある程度は行政から助成金も出るのですが、僕たちにとってはものすごく痛い。まあ、賞をもらえたから良かったのですが、メジャー会社のように数十人も(会社のお金で)連れて行けるわけじゃないですからね。
 だから、去年の12月頃から映画祭の人に「(『キャタピラー』を)出品しろ、出品しろ」と言われてたんですけど、出さなかった。でも、「まあ、ビデオだけでも送っておこうか」と送ったら、コンペに選ばれたって言われて。

──金銭的には辛かったけれど、結果的に“投資”を上回る効果があったのでは?
監督:そうですね。寺島さんが賞をもらってくれて、何十倍もの効果となりました。あれがなかったら、映画公開や宣伝も大変だったと思います。

──過去に女優賞を受賞したのは、1964年に『にっぽん昆虫記』と『彼女と彼』の2作で受賞した左幸子、75年に『サンダカン八番娼館 望郷』で受賞した田中絹代の2人で、35年ぶりの快挙でした。寺島さんの受賞により、日本の映画業界の反応は変わりましたか?
監督:そりゃあ当然ですよ。それに、女優賞というのが良かった。僕が作品賞や監督賞をもらっても、あちこちでボロクソにケンカしてるからこんなに騒がれません(笑)。
 僕は、寺島さんにどうしても(有力な映画祭などで)賞をとってもらいたかったんです。彼女にも最初から言ってましたよ。うちは映画宣伝にかける予算はないけれど、賞をとれば黙っていても宣伝してくれるから、絶対、賞をとれるような作品にしましょう、と。だから狙い通りなんです。
 日本で3人目ですからね。そう簡単にとれるものではないし、大変な賞なんです。

──肩の荷が下りた、という感じですか?
監督:いや〜、もらったときは本当に嬉しかったです。自分が(監督賞などを)受賞したりするよりもずっと嬉しかった。あぁ、これでマスコミも『キャタピラー』のことを取り上げてくれるだろう、どこのテレビ局でも一応は放送してくれるだろう、と。
「早く見たい」と言ってくれる人も増えたし、劇場からの引きも増えて配給面でもすごくラクになりました。

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