草なぎ剛がダメ親父を自然に演じる『まく子』、役を生きるとはこういうこと

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まく子
『まく子』
(C) 2019「まく子」製作委員会/西加奈子(福音館書店)
まく子
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『ミッドナイトスワン』の名演が記憶に新しい草彅剛の2019年の出演作

【週末シネマ】地域によっては映画館で映画を見るのもままならない事態が続くおり、配信サービスを利用して、見逃した劇場公開作をチェックするのも面白い。

今回は、先日『ミッドナイトスワン』(2020年)で日本アカデミー賞主演男優賞を受賞し、NHK大河ドラマ『青天を衝け』で徳川慶喜を演じている草彅剛が助演を務めた映画『まく子』(2019年)を紹介したい。

・子を思う母の気持ちが初めて分かった『ミッドナイトスワン』草なぎ剛インタビュー

西加奈子の小説を、『くじらのまち』の鶴岡慧子監督が映画化した本作は、小学5年生の少年と転校生の少女の交流を中心に、成長すること、死について、そして再生について、11歳の心で向き合っていく物語。草彅は主人公・サトシの父親を演じている。

父親の顔、夫の顔、男の顔、あまりに自然な演技で魅了する草彅剛

舞台はひなびた温泉街。誰もが顔見知りの小さなコミュニティで、旅館「あかつき荘」の息子であるサトシは、成長が始まった自分の体の変化をもてあまし、大人になりたくないと思いながら、日々を過ごしている。そんなある日、同じクラスにコズエが転入してくる。美しいが、言動が不思議で、人との距離の取り方も少し変わっているコズエは、自分と母親は「ある星から来た」と明かす。死や年齢という概念がない星から来て、死とは何かを知るために地球に来たという。

心惹かれていた少女の突拍子もない告白に面食らいながら、彼女とのやりとりを通して、サトシ自身も死生観を深めていく。死ぬために成長していくなんて残酷だと思い、成長した先にある大人たちを見て、「この街には、なりたいと思える大人なんていない」と考える。サトシにとって最も身近で、大人への幻滅を象徴する存在が、父親の光一だ。

家族を大切に思いながら、浮気をしていることを妻にも息子にも知られているだらしない男。だが、思春期を迎えて悩む息子を見守り、さりげなく寄り添おうとする。出番は多くないが、1つ1つの場面で見せる表情は多彩だ。父親の顔、夫の顔、男の顔がある。息子におむすびを握ってやる時、誰かと顔を見合わせて笑い合う時、タバコの煙をくゆらす時、どれを取っても、芝居なんてしていないんじゃないかという自然なもので、役を生きるとはこういうことではないかと思わせる。

大人にこそ見てほしい、11歳の心が捉える死と再生の物語

サトシを演じるのは『真夏の方程式』(2013)などで子役として活躍してきた山崎光。コズエを演じる新音ともども、実年齢が少し上だからこそ、11歳の心情を理解してリアルに演じている。

人と自分は違うこと、でも自分だけが特別ではないこと。少年の柔らかい心が何かを捉えては成長し、死の先にある再生を知る物語は、大人にこそ響くものがある。(文:冨永由紀/映画ライター)