はじめてのホームシアター:スピーカー配置と音場フォーマットまとめ

#4Kテレビ#DTS:X#オーディオ#サラウンド#ドルビーアトモス#ホームシアター#ライフスタイル

巣ごもり時代を迎え、自宅のテレビやプロジェクターでエンタメを楽しむ時間が増えた家庭も多いかと思う。せっかくなら映画館のような迫力で楽しみたいと興味を持った人のために、ホームシアターで使われている音声規格についてまとめてみた。

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そもそも、“サラウンド”とは?

ホームシアター=サラウンドのイメージがある人も多いだろう。「サラウンド」音声とは、文字通り、視聴者の周りを音が“取り囲む”ように配置する規格。耳の高さで、水平方向に360度途切れることなく音が繋がって聞こえるのが理想だ。

そもそも、音が1箇所から出る「モノーラル」音声に対して、左フロントと右フロントの2本のスピーカーで拡がり豊かに再生する「ステレオ」音声は、1890年頃にフランスの発明家クレマン・アデールが、2つの電話機を左右のそれぞれの耳あてて通話し、その臨場感に驚いたことに端を発する。それが映画に登場したのは、1940年頃だ。

「サラウンド」音声はそれに加え、映画再生を前提として、主にセリフを司る中央(センタースピーカー/1チャンネル)と、背後にも別の音場(音が存在する場所)を作る左リアと右リア(サラウンドスピーカー/最低2チャンネル)、重低音だけで作られた効果音を担当するLFE(サブウーファー/『.1』などと表記される)で再生する。つまり、「サラウンド」音声も基本は「ステレオ」音声だ。

5.1チャンネルサラウンドのスピーカー組み合わせ例、Monitor Audio Silverシリーズ。左右のフロントスピーカー(左右の縦長)、センター(右下横長)、サブウーファー(左下の大きい箱形)、サラウンド(台形の2本) (英国Monitor Audio公式HPより)

この「サラウンド」音声は、映画館では1950年頃には普及し、家庭にも1980年頃から「ドルビーサラウンド」、さらにはデジタル化によって1990年代には「ドルビーデジタル」や「DTS」といった規格で爆発的に広まった。

5.1チャンネル「サラウンド」のスピーカー配置の基準とされる「ITU-R配置」 (日本オーディオ協会HPより)

「サラウンド」音声を再生するためのスピーカーの配置は、ITU-R(国際電気通信連合 無線通信部門)が1992年に提唱した規格に準拠すべしと言われている(上図)。それによると、視聴者を中心として、同心円上に、5本のスピーカーを等距離に設置する必要がある。しかし、一般の住宅においてこの通りにスピーカーを配置するのは困難で、多くの場合、センタースピーカーやサラウンドスピーカーは、この基準よりも視聴者に近い位置に置かれる(下図)。

現実的な5.1チャンネルのスピーカー配置。部屋は四角なので、画面との関係で距離を取りつつ収めようとすると、図のようにセンターは左右フロントスピーカーより少し近く、リアスピーカーは左右の肩越しで近い距離になってしまう

そこで、スピーカーを駆動するAVアンプの設定で、センタースピーカーとサラウンドスピーカーの発音タイミングをフロントスピーカーよりも遅らせ(ディレイ)、すべてのスピーカーから視聴者の耳に音が届くタイミングを揃えるデジタル処理を行う。

なお、ヤマハが近年、サラウンドスピーカーも前に置き、デジタル技術で仮想的にサラウンド音源を創り出す「バーチャル・シネマフロント」を提案をしている。サラウンドスピーカーまでのスピーカーケーブルを引き回さなくて良いメリットがある。

ヤマハの「バーチャル・シネマフロント」概念図(ヤマハHPより)

サラウンドのハイレゾ化「HDオーディオ」

2006年頃から、HDオーディオと呼ばれる規格が登場する。現行のブルーレイディスクの大半が採用している。

これは、基本的にはサラウンドと同じ水平方向の音場フォーマットだが、HD=ハイディフィニションというとおり、音声クォリティが“ハイレゾ”収録になったもの。DVDよりも大容量のブルーレイディスクが登場し、ハイビジョン映像とともに、それに釣り合うハイレゾ音声の収録が可能になり、採用された。

音声フォーマットには、「ドルビートゥルーHD」や「DTS-HDマスターオーディオ」がある。信号はファイルサイズをコンパクトにするため圧縮して収録され、再生時に解凍されるが、マスターの信号(リニアPCM)から欠落がないという意味で「ロスレスオーディオ」とも呼ばれる。

いまや標準、3次元立体音場「イマーシブサウンド」

2012年頃から登場したのが、「イマーシブサウンド」と呼ばれる劇場向けの規格だ。洋画の大作を中心に、いまや劇場だけでなく、4Kブルーレイディスクへの収録も増えている。これは、水平方向のサラウンドに加え、上下方向の音場も加えた3D立体音場だ。

そのため、天井にスピーカーを配置し、物理的に上下方向の音作りを行う。水平方向の「サラウンド」5.1チャンネルに天井の2本を加えた場合は、「5.1.2」などと表記される。

音声フォーマットとしては「ドルビーアトモス」「DTS:X」などがあり、実はそれぞれのフォーマットによって、天井に配置すべきスピーカーの数と配置が異なる。しかし一般家庭において、再生するディスクによって天井のスピーカー位置を変更するのは事実上不可能。したがって、多くの場合は「ドルビーアトモス」の配置を参考に、その部屋の特徴を考慮しながらユーザーとホームシアター専門店のインストーラー(ホームシアターをプランニング、設計、施工する専門家)で相談して決める。

5.1.2のスピーカー配置(ドルビー公式HPより)

ドルビーアトモスの天井スピーカー配置推奨位置(ドルビー公式HPより)

天井に配置するスピーカーは、新築やリフォームのタイミングであればダウンライトを埋め込むのと同様の手間で設置できる「天井埋め込み型スピーカー」がオススメだ。

それが難しい場合は、フロントスピーカーの上に置いて仰角に音を放射し、天井に反射させることで同様の効果を得ようとする「イネーブルドスピーカー」もある。天井が吹き抜けである場合など、反射の効果が出にくい場合があるものの、選択肢の一つだ。

どのブランドのスピーカーを選べば良いか悩んだら、サラウンドスピーカー、センタースピーカー、埋め込みないしイネーブルドスピーカーが同じシリーズで揃っているものがよい。位相やクロスオーバー周波数など、一緒に使用して繋がり良く鳴ってくれるように設計されているからだ。

ドルビーイネーブルドスピーカー(写真はKEF Q50a)はフロントスピーカーの上に載せて使う

これからのイマーシブサウンド

デジタル技術、通信技術の発達とともに、映画のように予め作品として作り込まれたコンテンツの再生だけでなく、ライブやスポーツなどをより臨場感豊かに再現するために活躍することが期待されている。リモートコミュニケーションの時代が到来したことで、パブリックビューイングのみならず、家庭でもリモートでイマーシブサウンドを使ったイベント体験が可能になる日も遠くなさそうだ。(文:fy7d)

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