一時期は「AVセンター」と呼ばれ、マルチチャンネルオーディオと映像の再生からソースの切り替えまでを一手に担う“中心”としてもてはやされたAVアンプ。しかし、再生チャンネル数の増加と、矢継ぎ早に更新される再生フォーマット戦争について行けるユーザーが減り、いつしかマニアのためだけの“モンスター”マシンになってしまっていた。

・テレビボードに2つの潮流。“配信&テレワーク”時代の選び方とは?

そんな中、国内の3つのブランドが、この2020年下半期に狙いを定めて新製品を発表した。数は少ないが、それだからこそ、どのモデルも今の時代だからこそ求められる特長を備えたものばかりなのだ。ここでは、そこから見えてきた傾向を、“3つの潮流”として以下に紹介する。

その1:築き上げた伝統と格式を誇る至高モデル

この冬の新製品群にあって長年のホームシアター愛好家を喜ばせているのは、デノンのAVC-A110(¥680,000/税別)だろう。AVC-X8500Hというフラッグシップ機をベースに、時間とコストの制約を取り払って開発された110周年モデルだ。MacBook Proなどのスペースグレイ色に似るが、より深みがあるグラデーションを帯びたガンメタ色は、同社としては初めてのカラーリング。この製品のためだけに満足いく仕上げを求めて国内の工場を探し、アルマイト仕上げを施したあたりにも意気込みのほどがうかがえる。

3次元立体音場(イマーシブサウンド)に対応し、サラウンドの7チャンネルに、サブウーファー2チャンネル、天井の6チャンネルの合計13.2チャンネルのスピーカーをこれひとつで駆動できるうえ、8K、4K/120p、HDR+、MPEG-4 AACのほかPS5で注目される新規格などにもフル対応する。

映画再生時の見通しの良い効果音と迫力の効果音、音楽ライブでの押し出しの良い低音と奥行き感のある空間表現は、いずれも過去最高の出来映え。AVセンター冬の時代に、これほどの製品を自社開発の国産で世に送り出すデノンという会社の底力をみる思いだ。

その2:薄型AVアンプならコレ一強!

ブルーレイレコーダーが薄型かつコンパクトになるにつれ、AVアンプも小型で薄型のものが求められるようになっている。

しかし一方で、AVアンプは、上下方向の立体音場を実現するためにより多くのチャンネル数が求められ、ネットワーク対応などの多機能化が進んだ。

このコンパクト化と多機能を両立できる製品はこれまでも限られていたが、人気の一角を担ってきたヤマハのRX-S602が生産完了となり、今年の新製品ではマランツのNR1711(¥90,000/税別)に注目が集まっている。

AVアンプ

高さ10.5cmという薄型でありながら、8K、4K/120p、HDR10+、MPEG-4 AACやゲーミング用機能といった最新規格もサポート。マランツならではの精細感あるサウンドで、立体音場のみならず、本機一台でネットワークオーディオやラジオ、アナログ(MM)も楽しめる充実機能で、市場の人気を独占する予感だ。

その3:ゲーマー’sチョイス! フルリニューアルのエントリーモデル

もうひとつ、今期で最エントリーの代名詞となっているのが、ヤマハの7.1チャンネルAVアンプRX-V6A(¥65,000/税別)だ。

AVアンプ

リビングや狭小環境では、多くのスピーカーを設置してドルビーアトモスやDTS:Xといった立体音場を再現するのは難しい上、予算的にも現実的でない場合がある。そこでヤマハは、このエントリーモデルで、Dolby Atmos with Height Virtualizerを推奨。天井にスピーカーを設置していなくても、上下方向を加えた立体音場を再現できるように仕立てた。

またこの価格でHDR10+や4K/120p、ゲーミング用機能など最新規格にも対応。ヘッドフォンではなくリアル空間でゲームの臨場感を楽しんでみたいという人のみならず、これから本格的にホームシアターを始めようという人にも十分すぎる内容となっている。それもそのはず、ヤマハはこのモデルを皮切りに、AVアンプのシリーズ全体をリニューアルしていくと意欲的なのだ。

以上のように、(1)ハイエンド、(2)薄型、(3)エントリーと、明確な目的別に新製品が発表された今期のAVアンプだが、テレビを新調したらそれに見合うサウンドを獲得するためにこのマッピングが参考になれば。(文:fy7d)

INTERVIEW