鮎川誠のロックな生き方とは? 『シーナ&ロケッツ』ドキュメンタリー

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『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
(C)RKB毎日放送/TBSテレビ

『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』ポスター
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『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』

故・鮎川誠の生涯を軸に妻シーナと娘たちとの日々を描く

【映画を聴く】『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』は、2023年1月29日に亡くなった鮎川誠の74年の生涯を軸に、2015年に先立った最愛の妻シーナと結成したシーナ&ロケッツでの活動や、2人の間に生まれた3人の娘たちとの生活が垣根なく描かれたドキュメンタリー映画だ。

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「シーナから『私も歌いたい。自分の歌をレコードで聴いてみたい』と言われんかったら、僕はただ仕事でロックをやる道に進んどったかもしれん。生活とロックがイコールの世界に、シーナが引き込んでくれたんよ。台所におってもレコードは聴けるし、包丁でまな板をコンコンやっとったらリズムも刻める。僕もその横で『うんうん、そんな感じ』言うてギターも弾けるし」

映画の中盤、鮎川誠は人懐っこい久留米弁でシーナ&ロケッツの結成についてそう振り返る。ギタリストとして在籍したブルースロック・バンド、サンハウスが1978年に解散。1976年にシーナと結婚して、双子の長女と次女もすでに生まれていたが、芸事に理解のあるシーナの父に「娘たちの面倒はこっちでみるから、東京で勝負してこい」と背中を押され、夫婦で上京することに。エルヴィス・コステロの来日公演で前座を務めた際、演奏を最前列近くで見ていた高橋幸宏が鮎川のギターを絶賛。細野晴臣に紹介し、結成後間もないYMOとの交流が始まる。

(C)RKB毎日放送/TBSテレビ
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「ただご機嫌な音楽」は今なお輝き続ける

シーナ&ロケッツの代表曲といえば、やはりこの時期に録音された「ユー・メイ・ドリーム」ということになるだろう。この曲を収録する1979年10月リリースの2ndアルバム『真空パック』には、YMOの3人が演奏やアレンジで全面的に参加。サンハウス時代からの鮎川のファンの中には少なからずネガティヴな反応もあったというが、バンドの愛するロックンロールや60年代のガール・ポップをテクノ・ポップでコーティングしたこのアルバムのサウンドは、今聴いても瑞々しい。劇中で流れる、ごく初期の「ユー・メイ・ドリーム」のデモテープ(タイトルは「ユメ・ユメ・ユメ」)の音源も貴重だ。

鮎川はYMOの大ヒット・アルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録のタイトル曲とビートルズのカヴァー曲「デイ・トリッパー」でもギターを弾いている。奇しくも鮎川と同じ2023年1月に亡くなった高橋幸宏、3月に亡くなった坂本龍一のことを思うと寂しい気持ちになるが、鮎川の言う「ロックもテクノも関係ない、ただご機嫌な音楽」は、時代を超えて今も輝き続けている。

下北沢で暮らした一家。鮎川にとって、生活=ロックだった

バンド活動が軌道に乗った鮎川とシーナは双子の娘を東京に呼び寄せ、のちに三女も誕生。いよいよ下北沢で家族5人での生活が始まる。「娘たちが小学生だった頃、父兄が交代で通学路に立つ『緑のおばさん』の当番として、シーナさんはステージとまったく変わらない出立ちでよく交差点に立って旗を振っていた」「下北沢でよく鮎川さんを見かけた。ビニールのレジ袋にフランスパンを突っ込んで歩いているだけでカッコよかった」ーー出演者のそんな証言を聞いていると、シーナや鮎川にとって生活(家族)とロックが完全に「イコール」だったことが分かる。

(C)RKB毎日放送/TBSテレビ
(C)RKB毎日放送/TBSテレビ

家族の絆は、2015年にシーナが亡くなったことを機に、さらに強固なものになっていく。次女はバンドのマネージャーを買って出て、三女はLUCY MIRRORとしてバンドのヴォーカルに。シーナのいないシーナ&ロケッツは、残された3人のロケッツ(鮎川誠/奈良敏博/川嶋一秀)と娘たちで構成された運命共同体のようになっていく。余命宣告を受けた鮎川の身体を心配しながらもステージへ送り出す娘たちの複雑な表情。生活とロックを切り分けなかった鮎川とその家族の静かな覚悟が会話と会話の間から滲み出る。

鮎川誠の佇まいは、サンハウスの時代から最晩年まで、まったく変わらない。ロックへの愛情と情熱を、なんの衒いもなく素直に吐露する語り口も。「鮎川さんとシーナが死んだことはどうでもいい。『いた』ことがすごいんだ」ーー甲本ヒロトのこのコメントに、ミュージシャンの相次ぐ訃報で沈みがちな気分が晴れやかになっていくのを実感した。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

ポスタービジュアルとその他の場面写真はこちら

『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』は2023年8月25日より全国公開中。

[動画]シーナ&ロケッツ、最期までステージに立ち続けたドキュメンタリー映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』予告編

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