お金も出すが口も出す。出資者の多大な注文に疲労困憊する映画監督たち

『青い青い空』メイキング風景(以下同様)
主人公を演じた相葉香凛
『青い青い空』メイキング風景(以下同様)
主人公を演じた相葉香凛
『青い青い空』メイキング風景(以下同様)
主人公を演じた相葉香凛
本寄稿を寄せてくれた太田隆文監督。脚本、プロデューサーも兼ねる
写真左から田辺愛美、平沢いずみ、橋本わかな、相葉香凛、草刈麻有
草刈麻有(左)と相葉香凛(右)
太田隆文監督(左)

昨年10月に浜松で先行公開。3ヵ月を超えるロングラン上映となり、2万人の観客を動員した『青い青い空』。この映画が関東に初上陸。3月5日よりお台場シネマメディアージュにて公開中だ。

物語は5人の女子高生が悩みを抱えたり対立しながらも、友情を育み成長していく姿を綴った青春ストーリー。だが、爽やかな内容とは裏腹に、この映画は製作から公開に至るまで、幾多もの試練が待ち受けていた。そんな苦労話を、同作の太田隆文監督が寄稿。[後編]となる今回は、監督が作りたいと思う映画をなかなか撮ることができない映画界の裏事情について書いてくれた。

相葉香凛が草刈麻有に抱きついて涙! 『青い青い空』舞台挨拶
[動画]『青い青い空』初日舞台挨拶

●監督特別寄稿[後編]監督は本当に撮りたい映画を撮れない!?

今の日本映画界で映画を作るためには3つの条件を満たさなければならない。
(1)人気俳優が主演する。
(2)人気漫画が原作。
(3)有名監督が演出。最低でもこの内の1つがないと製作費が集まらない。
僕の場合だと、まず無名監督であり、シナリオはいつもオリジナル。俳優は無名の新人を起用するので、全てがアウトだ。友人の監督たちもこれで苦労している。

「それなら人気漫画の原作を押さえよう」と、コミック誌を読み映画化できそうな面白い漫画を探して出版社に電話する。が、「すでにテレビ局がアニメ化を企画中」と言われたりする。人気コミック誌に連載されるような漫画は、スタートと同時に依頼が殺到するのだ。

人気俳優のスケジュールを押さえるのも至難の技。有名どころは3年先の映画のスケジュールまで決まっている。おまけに友人たちも僕同様、無名監督。結局、その3つを揃えることができない。自分が本当に作りたい映画が作れないだけではなく、映画自体を撮ることができないのだ。

仮に、それらの条件を奇跡的に揃えて、人気漫画の映画化を有名俳優で撮れたとする。それでも、問題は山積み。製作費を出した会社がさまざまな注文をつけるからだ。「主題歌は人気バンドに歌わせろ」「相手役は今、CMで人気の***にしろ」「うちの商品を劇中に出してほしい」「泣ける作品にしろ」。

なので、監督が「この作品をこう撮りたい!」と思っても、注文をこなすことが第一の課題。こっちの会社の意見を立てると、もう一方が立たずみたいなこともあり、最大公約数的な演出となる。結果、無難な映画になりがちだ。しかも、前回も書いたが、人気俳優が合ってない役を演じたりするのだ。いいものができる訳がない。

黒澤明監督が晩年、こんなことを言っていた。「その昔は世界に通用する日本映画がたくさんあったのに、なぜ、今は駄目になのか? あの頃は映画会社が監督に本当に撮りたい作品を撮らしていたからだよ」。なるほど、その通りだ。主役を押し付けられ、あれこれ注文をつけられて素晴らしい作品ができるはずがない。

だからといって、オリジナル脚本で、人気俳優が主役ではない映画では金が集まらない。では、本当に監督が撮りたい映画を作るには、どうすればいいのか? そこで僕が実践しているのが地方での映画作りである。今回は浜松でスタート。新作映画『青い青い空』のシナリオ(もちろん、オリジナル)を持って地元に行き、「この映画を作りたい。協力をしてほしい」と訴えた。

1つ間違えば単なる詐欺師。無名の監督がそんなことをいっても怪しいだけ。それでも「子どもたちに見せたい作品」とテーマを説明。すると、いろんなところで賛同を得ることができた。思いを理解してくれる人は必ずどこかにいるのだ。1年ほどかかり輪が広がる。そしてグループとなり、市民協賛を集めてくれた。1口1000円から。簡単にいうと寄付。大手企業も回る。僕も地元の方を走り回る。結果、2年間。毎月、浜松に通った。通常、このようなやり方をしても、地方ではうまくいかないことが多い。だが、浜松は違った。熱い人々がたくさんいて、みんなで走り回ってくれた。

東京の企業は入れず、ビデオメーカーやテレビ局には声をかけない。それらが参加すると結局、「有名タレントの***を使え」ということになる。俳優ありきで映画を作ってもいいものはできない。いろいろと口出しをして映画を歪めてしまう。こうして1年がかかりで協賛金を集めてから、映画製作がスタートした。

本当に時間がかかった。撮影まで3年かかった。途中何度も製作がストップ。あわや中止か?ということも何度かあった。でも、だから、物語にふさわしい俳優を選ぶことができた。僕も本当に描きたいテーマを描き、撮影することができた。その結果。映画は大ヒット。3カ月のロングランとなった。単に映画の舞台が地元だからではない。そこに感動があったからだ。

大きな反響があり東京公開も決まる。ロサンゼルスの映画祭Japan Film Festivalへの参加も決まった。作品が高い評価をされたのは僕の力ではない。大勢の応援と地元の理解があったからだ。

監督が本当に作りたいものを、全身全霊で撮れば、観客に感動が伝わる。でも、それが今の日本映画では難しい。いろんな注文がついて、作品を駄目にしてしまう。そんな枠組みから飛び出して作ったのが『青い青い空』だ。そしてついに、3月5日にお台場、シネマメディアージュにて公開初日を迎えた。現在、同劇場にて上映中。ぜひ、見ていただきたい。

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