『BLUE/ブルー』木村文乃インタビュー

大人だからこそじれったい…三角関係の微妙演じる

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木村文乃

吉田監督にいじくり倒されたら面白いだろうとワクワクした

 

『BLUE/ブルー』
2021年4月9日より全国公開中
(C)2021『BLUE/ブルー』製作委員会

誰よりもボクシングを愛し、努力を重ねているのに負け続きのボクサー・瓜田を主人公に、挑戦者の象徴である“ブルーコーナー”でもがき続ける男たちを描く『BLUE/ブルー』。自身も30年以上ボクシングを続けてきた吉田恵輔監督のオリジナル脚本による本作は、松山ケンイチが演じる瓜田と後輩で日本チャンピオン目前の小川(東出昌大)、不純な動機で始めたボクシングにのめり込んでいく新人・楢崎(柄本時生)が壁にぶつかりながら夢を追う姿をつぶさに描いてく。

そんな彼らを見守っているのが、小川の婚約者・千佳だ。瓜田の初恋の女性でもあり、今も気の置けない友情を築いている。命を削る男たちを複雑な思いを抱えながら見つめるしかない葛藤を演じた木村文乃に話を聞いた。

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『BLUE/ブルー』予告編

──瓜田と小川は、何よりも“ボクシングありき”の2人ですが、彼らにとって誰よりも大切な存在なのが千佳です。そんな女性を演じてみて、いかがでしたか?

木村:私は、千佳は“受け”というふうに見ました。最初から目的があって頑張ってる人たちのそばにいて、見守ることしかできなくて。本当はもっと言葉にして、止めるとか、背中を押すとか、そういうこともできるのに、あえて直接には何も言わずに、思うことがあっても見ている。もどかしいなと思いながら、演じてました。

木村文乃

──千佳と瓜田と小川は、言うなれば三角関係ですが、リアルに表現されていると思いました。3人とも、お互いがどう思っているか勘づいていながら、あえて触れないようにしている。3人の関係についてどう思われましたか。

木村:みんな、ちゃんと大人だから。幼いころの恋愛じゃないですよね。言葉にしない、あえて出さない大切さがあったと思うんです。直接的なこと言うと、何かが崩れたり、バランスがおかしくなったりするのではないでしょうか。だから、小川とのシーンも、瓜ちゃんとのシーンも、本気で向き合うというよりは、優しい、澄んだ水の中みたいなシーンが多かったですね。あまり三角関係ということは意識せずに、ただ私が瓜ちゃんとどういるか、小川とどういるか、を考えていました。

──同じ話題を続けて恐縮ですが、私は千佳が瓜田に示す優しさや言葉、一言をかけるタイミングが時々ちょっと酷に感じたりもしました。

木村:瓜ちゃんが、例えばボクシングジムで会うだけの人だったら、「どういうことなの?」となるかもしれません。でも、幼なじみだし、千佳の瓜田への甘え方を見てても、ずっとお兄ちゃんなのか弟なのか、兄弟みたいに過ごしてきた感じがあるんですよね。

──吉田監督とのお仕事をすごく楽しみにされていたそうですが、一緒にお仕事をされてみて、いかがでしたか?

木村:実は、条件がいろいろ厳しい中で撮影をされていて、やっぱりボクシングに重点がありました。なので、人間関係のパートはお任せされている感じがありましたね(笑)。
でも、試写を見たときに、これまで見てきた自分として一番好きかもしれないって、純粋に思えたんです。最初は、吉田監督にいじくり倒されたら面白いんだろうなというワクワクのほうが大きかったですけど、すてきな時間を過ごせたんだと思いました。

木村文乃

──千佳は観客と同じ立場というか、観客が共感できる存在だと思いました。

木村:いや、もがいてる人たちのほうが共感できる人が多いんだろうなと思います。千佳はそれこそ、さっき仰ったように「なんでそのタイミングで、そういうこと言えちゃうの?」とか、それを受け入れられちゃうの? というところがあると思います。
たぶん、本当に千佳が2人を意識して接してたら、ちょっとドロドロしちゃうと思うんですよね。それは絶対にやってはいけなくって。あくまで2人が、同じ人生というリングに上がってることが大事だから。

──現場の雰囲気はいかがでしたか? 松山さんも東出さんも、やはり役に入り込んでいらしたんでしょうか?

木村:役者さんとしてのストイックさんはもちろん映像に出ているとおり、磨き上げられた体だったり、技術だったりというところにもあると思います。ただ、それ以上に柄本時生さんも含めたメインのお三方と監督が、ちゃんとボクシングを愛していたんです。現場でみんなボクシングの話しかしないんですよ、本当に。例えば、柄本さんがちょっとできないことがあったら、「もうちょっとこうしたらいいよ」と松山さんが自然にアドバイスされてたり。それって、(柄本が演じる)楢崎と瓜ちゃんとの関係性そのまんまだなって思いました。撮影現場のだけではなくて、普段から積み重なってきた関係性があって、みんながリングに立っているのを私は近くで見て知っています。それがカメラの前であってもなくても、このままの関係性で撮影していた、生きていた、と思います。

──カメラが回ってないときでも関係性は続いている感じですね。

木村:そうです。バンテージはどれがいいとか、本当にそういう話ばっかりされていました。

──ちょっと疎外感を感じたり?

木村:畑が違うので、キャベツ畑から、ニンジンおいしそうだねって言ってるみたいな感じでした(笑)。

誰が一番好きかといわれたら、断然瓜ちゃん

──松山さんと、東出さんとは、以前にも共演されていますが、今回改めての共演はいかがでしたか?

木村:初日の松山さん演じる瓜ちゃんとのシーンは、それまでの関係性があった上での会話、相談をするシーンだったんです。初日って、ただでさえ緊張しているし、すでに関係性が出来上がったうえでの会話って難しい。そう思いながら現場に行ったんですけど、松山さんの雰囲気が、「あ、ずっとこうやって瓜ちゃん、瓜ちゃんって相談してきたんだろうな」と思える佇まいでいてくださったので、臆せず飛び込むことができました。前に共演させていただいているとはいえ、それ以上の松山さんの懐の深さと広さを知れた気がしますね。

──東出さんはいかがですか。

木村:以前に共演をしたのは2013年頃だと思います。 そのときはイケメンの好青年役だったので、今回のずっと目がギラついている姿は、違う方と共演したような新鮮な気持ちになりました。ある意味、それまで自分が知っていた東出さんと違うから、いい意味でその感覚を生かせるというか。ボクシングに打ち込んで、どんどん鋭く尖っていく小川をただ見守ることが最善だと思って、一歩下がる千佳との関係に使えるのかなと思いました。

──立ち入ったことになりますが、木村さんは最初にデビューされた後、一時お仕事を休んで再開されています。夢を諦めない瓜田と重なるように感じました。

木村:登場人物で誰が一番好きかといわれたら、断然瓜ちゃんが好きですね。
たぶん、何かをやる上で一番もったいないことって、嫌いになっちゃうことだと思うんです。きっと瓜ちゃんはずっとボクシング好きなんだろうなと思えるんですよね。私は、最近やっと、いい意味で「これは仕事ですから」とは割り切れなくなってきているところなので。瓜ちゃんのほうが。ずっと人間的に先をいっている気がします。
とはいえ、私の仕事はひとりでできるものではないので、似て非なるもので、瓜ちゃんは憧れの背中っていう感じですね。というのも、ボクシングはすごく孤独な作業です。減量も、リングの上に立って戦うときも。それでも、ただ勝ち負けじゃなくて、自分と戦ってる背中がめちゃくちゃかっこよくて。そういうふうになれたらいいな、と思います。

(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)

木村文乃
木村文乃
きむら・ふみの

1987年10月19日生まれ、東京都出身。2005年にオーディションで映画『アダン』のヒロインに選ばれ、女優デビュー。14年に第38回エランドール新人賞を受賞。15年に『マザー・ゲーム〜彼女たちの階段〜』でドラマ初主演し、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では主人公・明智光秀の正室・煕子を演じた。近年の主な映画出演作は『ピース オブ ケイク』(15年)、『RANMARU 神の舌を持つ男』(16年)、『追憶』(17年)、『火花』(17年)、『羊の木』(18年)など。今年は『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』が公開待機中。