『ワン・モア・ライフ!』ダニエーレ・ルケッティ監督インタビュー

92分だけ寿命が延長!? 人生最後のやり直しコメディ

#イタリア#イタリア映画#コメディ#ダニエーレ・ルケッティ#ワン・モア・ライフ!

ダニエーレ・ルケッティ

人生の残り時間を知る、終わりがあるからこそ物語が生まれる

『ワン・モア・ライフ!』
2021年3月12日より全国順次公開
(C)Copyright 2019 I.B.C. Movie

パオロはいつものようにスクーターで帰宅途中、トラックと衝突し即死、天国に送られる。短い寿命に納得がいかないパオロは、天国の入口にいた役人に猛抗議。すると“寿命計算システム”にミスが発覚し、92分間だけ寿命が延長されることに! 地上に戻ったパオロは愛する妻と2人の子供と過ごそうとするが、これまで好き勝手に生きてきた彼に家族は冷たい態度。最期の時が迫るなか、家族との絆を取り戻すため、92分一本勝負のやり直しに挑む。

イタリア・シチリア島のパレルモを舞台に、中年男が人生を見つめ直し、家族の愛を取り戻すまでをテンポ良くユーモラスに描いたコメディ『ワン・モア・ライフ!』。本作のメガホンを取ったダニエーレ・ルケッティ監督にインタビューした。

『ワン・モア・ライフ!』予告編

──本作を作ったきっかけを教えてください。

監督:原作者のフランチェスコ・ピッコロが書いた短編集がベストセラーになり、プロデューサーがこの本を映画化しないか? と自分のところに持ってきたのがきっかけです。しかし、ピッコロが脚本を書きたくないタイプの人間で、この本自体も筋がある物語でもなく主人公もいない話なので、そこから映画を作るのは難しいだろうなと思っていました。
それでも一度彼に会ってみようということになり、実際に会ってみると楽しく会話することができ、数日のうちに、男が1時間だけ生き返る寓話的コメディにしようと決まりました。ちょうど彼も私もシリアスな作品ばかり作っていたので、この作品はある意味では2人にとって解放の作品。遊びの感覚があって、恐れることなく自由に作ることができました。

ダニエーレ・ルケッティ

『ワン・モア・ライフ!』撮影中のピエールフランチェスコ・ディリベルト(パオロ役/左)とダニエーレ・ルケッティ監督(右)

──原作にはない、映画オリジナルで加えられたエピソードはありますか?

監督:自分の体験をエピソードとして加えるというよりも、面白いのに入れられなかったエピソードの方が多かったです。実際に撮影したシーンもあったんですが、本のような面白さが引き出せず、泣く泣くカットしたエピソードもあります。

──「92分間だけ生き返ることができる」という設定にはどのような意図があるのでしょうか?

監督:誰もが自分の生きている人生が終わるということは知っていても、いつ終わるかは分からない。それを逆手に取り、普通は知ることのできない自分の“人生の残り時間”というデータを知ることによって、生き直すことができるというのがこの映画のポイントです。残り時間を知るからこそ形が作られる、終わりがあるからこそ物語が生まれ、映画を作ることができるのです。

──本作の舞台にパレルモを選んだ理由は?

監督:パレルモはこれまでも、犯罪やマフィア映画の舞台としてはよく使われる場所だったけれど、今度はもっといい街、優しい街として映画に登場させるのにいい機会だと思いました。実際にパレルモに行ってみると、観光も盛んで非常に明るく色彩豊かで、暮らしやすい街だと感じます。この映画で主人公が死ぬ場所としては、悲惨な場所でなく、むしろこういった賑やかで華やかな場所の方がいいのではとも思いました。

ダニエーレ・ルケッティ

──パオロ役のピエールフランチェスコ・ディリベルトとのお仕事はいかがでしたか?

監督:ピフ(ディリベルトの愛称)は監督でもあるし、TVの司会者もやっていて、基本的には役者ではありません。その「俳優ではない」ということがポイントでした。俳優という立場からではなく、外の立場から持ち込んでくれるものを彼には期待していました。また、ピフ自身がパレルモの出身なので、パレルモがどんな街なのか、街の性格について詳しく教えてくれたのは非常に参考になりましたね。ピフ自身は非常に真面目な性格で、パオロとは全くちがいます。しかし映画ではキャラクターを完璧に演じ、人生を謳歌するタイプの人間をきっちりと作り上げてくれました。

・教皇フランシスコの知られざる激動の半生を描いた『ローマ法王になる日まで』、出産間近の妻を亡くした男が遺されたふたりの子供を守る『我らの生活』。ダニエーレ・ルケッティ監督の人間ドラマを見るならTSUTAYA DISCASで! 30日間無料視聴!!

──本作を通して観客に伝えたかったことは?

監督:些細な瞬間に生きていることの大切さを感じる、そのことの大事さを、映画の技法を使って表現しました。またこの映画は、自分たちの不完全さは許すことができるということも伝えています。楽しげなコメディタッチで描いていますが、メッセージとしては真面目なもので、「自分たちが不完全であるということを許した方がいい」という思いを込めた映画なのです。

ダニエーレ・ルケッティ
ダニエーレ・ルケッティ
Daniele Luchetti

1960年、イタリア・ローマ生まれ。友人のナンニ・モレッティが監督した『僕のビアンカ』(83年)にエキストラ出演後、同監督のベルリン国際映画祭審査員グランプリ受賞作『ジュリオの当惑』(85年)で助監督をつとめる。
まだ映画デビュー間もないマルゲリータ・ブイを起用した長編デビュー作『イタリア不思議旅』(88年)でイタリアのアカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の最優秀新人監督賞を受賞、第41回カンヌ映画祭「ある視点」部門ノミネートを果たす。ナンニ・モレッティを主役の一人に起用した、長編3作目『Il portaborse』(91年・未)では、ドナテッロ賞の最優秀脚本賞を受賞、第44回カンヌ映画祭コンペティション部門にノミネートされた。その後も『マイ・ブラザー』(07年)で第60回カンヌ映画祭「ある視点」部門出品。『我らの生活』(10年)では第63回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品、主演のエリオ・ジェルマーノに男優賞をもたらした。同作はドナテッロ賞で8部門にノミネートされ、監督賞など3部門で受賞を果たした。教皇フランシスコの知られざる激動の半生を、事実に基づいて描いていた『ローマ法王になる日まで』(17年)は日本でも公開され好評を得た。