『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』エマニュエル・ベルコ インタビュー

官能的で鮮烈な愛描く話題作に主演した不美人女優!

#エマニュエル・ベルコ

主人公にはもっとかわいい女優がいいと監督に話したことも

激しい愛の痛みを鮮烈に描いた『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』。リュック・ベッソン監督の妻でもあった元女優、マイウェンが監督し、セザール賞8部門にノミネートされた愛の傑作だ。

ヴァンサン・カッセル演じる身勝手な男に翻弄される女を演じたエマニュエル・ベルコがカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞したのも話題のひとつ。『太陽のめざめ』などの監督としても知られる彼女に、映画について語ってもらった。

──マイウェン監督は当初からあなたに主人公を演じて欲しいと思っていたそうですね。

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
(C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL

ベルコ:最初はそんなことひと言も言ってこなかったわ。それがある日、脚本の一部を持って現れたの。理学療法センターでのシーンが書かれた脚本よ。そしてその映画の女性の主役を演じてほしいと言われた。死ぬほど驚いたわ。

──その時の感想は?

ベルコ:まずは興奮したわ。マイウェンと映画が作れるかもしれないっていうのは、俳優にとってはいつだってウキウキすることだから。同時に、現実だとは思えなかった。でも、彼女が作ろうとしているもののスケールを心から理解できたのは、最終版の脚本をもらったあとだったわ。

──理解した後、どんな風に感じたんですか?

ベルコ:しばらくは、トニーを演じるのは自分であるべきじゃないと思って、マイウェンにそう伝えたの。理由を何千も挙げたわ。「もっとかわいい女の子がいい、脚がもっと細い子のほうがいい」とか。そしたら彼女はぐうの音も出ない言葉を返してきたの。「私の決断を疑うのはやめて。あなたは今、まるで自分が監督であるかのように私に話してる。これは私の映画で、私のビジョンなの」って。それで落ち着いたわ。彼女とは映画『パリ警視庁:未成年保護特別部隊』ですでに一緒に仕事をしてたから、彼女が俳優をどれだけ愛してるか知っていたの。マイウェンは決して私任せにしたり見捨てたりせず、サポートしてくれるって分かってた。

恋愛においては加害者も被害者もない
『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
(C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL

──主人公のトニーは理知的な弁護士でありながらも、身勝手な男に翻弄される役です。どのように役作りしたのですか?

ベルコ:マイウェンは私に健康でいてほしがっていた。そのためにコーチをつけていろんなことに励んだわ。エクササイズや筋力トレーニングをたくさんして、そのおかげで自分の肉体を意識するようになった。これはトニーを演じるにあたって、特に理学療法センターでのシーンを演じるにあたっては大切なことだったし、撮影中も助けになったわ。マイウェンの演出スタイルだと、全身が枯渇したように感じることが時々あるの。スポーツの挑戦みたいなものよ。自分の限界を越えなければならないの。このトレーニングのおかげで、精神面が鍛えられたわ。それとマイウェンは、女性弁護士と短い期間、一緒に働くことと、2冊の本、ジョン・ファンテの「Full of Life」とアラン・ド・ボトンの「The Romantic Movement」を読むように言ってきたわ。たいしてつながりも分からないまま、私は何が彼女の目に留まって、何を演技に取り入れてほしがってるのかを読み取ろうとした。無意識のうちに、そういった準備作業の中から演技に取り入れたものがあったのは間違いないわ。マイウェンは配役する時、その俳優の人間性も捉えているの。トニーを演じるための役作りをするために、私は彼女らカップルについてたくさん考えて、私生活の記憶とか特定の心理状態も掘り下げたわ。そうすれば、演技で似たような場面がきた時に、可能なかぎり真実味のある生の感情を吐き出すことができるから。

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
(C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL

──トニーは被害者だと思いますか?

ベルコ:絶対に違う。カップルにおいては加害者も被害者もないの! トニーには我慢しなきゃならないことがたくさんあるけれど、決してあきらめない。彼女は自分の理想のために闘ってるの。家族を作って、わが子の父親と一緒に暮らすという理想のためにね。トニーは戦士だと思うわ。でもその男に依存してるせいで、彼とはうまくいかないという事実が見えないの。自分で自分をダメにしてるんだけど、それでも前に進み続けるの。自分ではコントロールできないのよ。

──相手役をヴァンサン・カッセルが演じています。演技について話し合ったりしましたか?

ベルコ:カップルをどう見てるかと男女関係については、たくさん話し合ったわ。でも、どうやって演じるべきかということで、お互いに意見を一致させようとすることはなかった。

──監督になる前は女優を目指していて、映画に定期的に出演してますね。

『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
(C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL

ベルコ:私は演じることが好き。役をオファーされれば、ときどき演じるけど、監督業を始めてからは二の次になってるの。この仕事に不満はないし、別に傷ついてもいないわ。トニー役はマイウェンからのすばらしい贈り物で、人生における驚くべき出来事の1つよ。

──カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した感想をお聞かせください。

ベルコ:すばらしいわ。私が多いに尊敬する人々に作品を認めてもらえたってことだから。それから、賞をもらうと私はいつもそれを客観的に見るの。もう1人の審査員としてね。今まで一度も、自分で自分に賞をあげたことはないわ。

エマニュエル・ベルコ
エマニュエル・ベルコ
Emmanuelle Bercot

1967年11月6日生まれ、フランスのパリ出身。ダンスを経て原激学校で演技を、それからFEMIS(フランス国立映像音響芸術学院)で演出を学ぶ。卒業制作の作品で注目を浴び、『ニコラ』(98年)、『今日から始まる』(99年)などに出演。01年、自ら監督・主演した劇場用長編第1作『なぜ彼女は愛しすぎたのか』で、13歳の少年と30歳の女性の恋愛を描いてカンヌ映画祭のある視点部門に招待され、衝撃を巻き起こす。続く『Backstage』(05年)では、人気歌手と彼女を神聖視するファンの少女との関係を描き、テサロニキ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞。13年にはカトリーヌ・ドヌーヴをヒロインに迎えて『ミス・ブルターニュの恋』を撮り話題に。そして『太陽のめざめ』(15年)で15年のカンヌ映画祭のオープニングを女性監督として史上2度目、28年ぶりに飾るという快挙を成し遂げ、本作でカンヌ映画祭の女優賞を、『キャロル』のルーニー・マーラとともに受賞という栄誉を受けた。