『ザ・ブリザード』クリス・パイン インタビュー

トップスターが語る、死力を尽くすことの素晴らしさ

#クリス・パイン

この物語は、小型救命艇による救命活動として最高の成功例となっている

1952年2月、猛吹雪が吹き付ける極寒の海に沈没しつつある巨大タンカーと、その救助に向かった男たち。『ザ・ブリザード』は、不可能といわれた難事を乗り越えた男たちの死闘を描いたアクション映画だ。

荒れ狂う高波のなか、小さな木製ボートで救助に向かうこととなった主人公を演じたのはクリス・パイン。『スター・トレック』シリーズのカーク役や“新生”ジャック・ライアンとしても人気の彼に、本作の見どころなどを語ってもらった。

──自殺行為と知りつつも、嵐の中を救助に向かう沿岸警備隊員の一等水兵バーニー・ウェバーを演じていますね。実話を基にした物語だそうですが、演じた感想は?

『ザ・ブリザード』
(C)Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

パイン:これはシンプルなストーリーで、仕事をする男たちがいて、たまたまこの日、彼らに必要とされた仕事が、野獣の腹の中(一大窮地の中)に自ら入って行くことだったということさ。彼らはあれほどの危険に立ち向かったけれど、その後何年もの間、ずっと語られてきた当時の話しなんかを聞いていると、彼らが栄光のためにそれをやったわけではないこと、そこには自分の名誉を高めようという感覚が一切なかったことがよく分かるんだ。これは単に、男たちが自分の仕事をこなしたというだけの話しなんだ。物語のシンプルさに、僕はあらためて真の価値を見出しているよ。大々的な効果映像なんかない。モンスターが出てくるわけでもない。単に海に立ち向かう男たちの話しなんだ。

──バーニーのキャラクターについてはどう感じましたか?

パイン:彼は、今の時代の男とは違うね。とてもナーバスだよ。愛する女性がいて、自分の仕事が好きでたまらない。この仕事をしっかりとやりたいと思っている。仕事をして、愛する女性の元に帰る。この映画の終わりで、2人が素晴らしい家庭を築いて、この先ずっと幸せに暮らすだろうことは誰にでも想像がつくし、僕の知る限りの情報では、実際に2人はそうだったらしい。そういうところが僕は好きなんだ。繰り返しになるけど、この映画のスピリットはそういうこと、つまり、この映画は違う時代のものだということさ。ちょうど往年の大映画会社の映画のようなね。

──嵐のシーンの迫力に圧倒されました。

パイン:あれはひどい嵐だよ。アメリカ東海岸マサチューセッツ周辺を襲う多くの嵐の1つさ。あのエリアは難破船が多いことで知られているんだ。バーニー・ウェバーは、4名のクルーで、全長25フィートの木製救命艇に乗り込み、危険なことで有名なチャタム洲と呼ばれる洲を越えて外洋に出て行った。そして彼らは、羅針盤を失ってナビゲーションできなくなりながらも、真っ二つに裂けてしまったタンカー船から32名の乗組員を救出するんだ。
 この夜に真っ二つに裂けてしまったタンカー船は2隻あり、これはその内の1隻なんだ。戦後に造られたタンカーは、とても粗雑な鉄で造られていた。つまり、もともとしっかりと造られた船ではなかったんだね。そしてバーニーたちは32名の乗組員を救出して救命艇に乗せたものの、この救命艇は、本来は、確か、ちょっと僕の記憶が定かではないけど、12人とか13人乗りとして設計されたものだった。羅針盤もなしでなんとか帰還し、全員を無事に救出したんだ、うん、1人の男は船から飛び降りて死んでしまったけれどね。でも、沿岸警備隊の歴史において、これは小型救命艇による救命活動として最高の成功例となっているはずだよ。

人々があんな驚異的なことをやってのける姿に、偉大な物語性を感じる
『ザ・ブリザード』
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──過酷な撮影でしたか?

パイン:僕らは、冬になろうとしているマサチューセッツで撮影した。寒かったよ。僕らは海の中に入っているしね。スタジオの中のタンクだから、ハリウッド・スタイルの海の中だけど。うん、ものすごく寒くなるし、延々と続く長い一日にもなったけど、アンディ・フィッツジェラルドとバーニーの友人のガスがこの撮影現場を訪れて、あの日のことを僕に思い起こさせてくれたんだ。あの本物の男たちが姿を見せると、彼らが当時実際にあの嵐に立ち向かった人たちだということを知っているだけに、それまでの苦情は一気に止まったよ。あの撮影はとても良かったね。彼らが実際に経験したことに近い体験をしたことで、あのシチュエーションにリアリティを持たせて演じることができたんだ。

──本作のテーマは何ですか?

パイン:これは希望と勇気と無私の物語だけど、それらはどれも、僕らがストリーテラーとしてずっと語り続けていることだ。なぜなら、それが人間を形成する要素の一部だからさ。しかも、それらを見せるためには、必ずしも、カッコいいコートを羽織ったり、マントをたなびかせたり、そういうことをする必要はないんだ。この世には実際にそういう行ないをしている人々がいるんだからね。

──最後に作品の見どころをお願いします。
1952年に起きた石油タンカー救出劇を知る2人とクリス・パイン

パイン:人間と母なる自然が激しくぶつかりあう姿を見ると、とても興奮を覚えるよね。というのも、母なる自然は、その相手がどんな人間であるとか、名前は何だとか、どこの出身だとか、一切気にかけることなく、ただありのままの姿を見せるだけなんだ。だからこそ、あの男たちが、ものすごい嵐に、まったくの暗闇に、想像を絶するほど恐ろしい夜に出かけて行き、あんな驚異的なことをやってのける姿には偉大な物語性を感じる。そしてこれは愛の物語であり、人々は、暗いトンネルの向こう側には本当に明るくて素晴らしいものがあることを知っているからこそ死力を尽くすということを描いた物語なんだ。

クリス・パイン
クリス・パイン
Chris Pine

1980年8月26日生まれ、アメリカ合衆国ロサンゼルス州生まれ。祖母、両親が俳優という芸能一家に育つ。テレビドラマ『ER/緊急救命室』や『CSI:マイアミ』などにゲスト出演した後、『プリティ・プリンセス2/ロイヤル・ウェディング』(04年)で映画デビュー。さらに『スター・トレック』(09年)で主役のジェームズ・T・カーク役に起用され、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(13年)で再び同役を演じる。また、『エージェント:ライアン』(14年)では“新生”ジャック・ライアンに扮した。舞台でも活躍している。主な映画出演作は、『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』(07年)、『アンストッパブル』(10年)、『Black & White/ブラック & ホワイト』(12年)、『イントゥ・ザ・ウッズ』(14年)など。