『スティーブ・ジョブズ』マイケル・ファスベンダー インタビュー

“現実歪曲フィールドの中の天才”について吐露

#マイケル・ファスベンダー

スティーブ・ジョブズが我々の生活のすべてを変えた

人々の暮らしに“革命”をもたらした天才スティーブ・ジョブズ。これまで何度も映画化されてきた男の姿を、『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル監督が映画化した『スティーブ・ジョブズ』は、プレゼンの名手ともうたわれたジョブスの伝説的プレゼンの直前の舞台裏を描くことで、たぐいまれなる男の横顔を浮かび上がらせる作品だ。

卓越したビジネスセンス、強烈な個性、そして娘リサとの“確執”……。主演したマイケル・ファスベンダーに、本作について語ってもらった。

──スティーブ・ジョブズの業績について、どう思いますか?

ダニー・ボイル監督(左)とマイケル・ファスベンダー(右)。撮影中の様子

ファスベンダー:コンピューターというものが趣味人のためばかりでなく、万人のためにあるべきだというのが、スティーブ・ジョブズの着想だね。当初から彼が情熱を注いだのは、コンピューターは恐れるべきものではなく、我々が日常的に使うべきものだという直感的なコンセプトだった。スティーブ・ジョブズが我々の生活のすべてを変えたからこそ、このストーリーは大事なんだ。彼は世界の動き方を、コミュニケートの方法を、個々のやりとりの方法を、映画の見方や音楽の聴き方や商品の買い方を、がらりと変えた。それほどの影響力があった人物は、やはり、顧みる価値があると思う。

──一方で、彼の独裁的な手法を避難する人もいます。

ファスベンダー:確かにマキャベリ的な側面があったと強く思う。残酷な一面もあっただろうね。でも、そんなふうに人を貶める必要があるだろうか? たぶんないと思うんだけど、個性と業績がごっちゃになることがあるよね。人は挑発されたり、操られることを必要とする時もある。役者として言わせてもらうと、監督たちは時として同じ手を使うものだよ。仕事ばかりしてると、我慢の限界は絶対に短くなってくるし、彼は何時間も何時間も続けざまに仕事ばかりしてきたんだろうね。Macintoshの発表の直前の数週間、ジョブズたちは1日20時間は働いてたと思う。どんなビジネスでも、じっとしていたら競争相手に追い抜かれてしまうからね。スティーブ・ジョブズは、常に前進していないといけないとすごく意識してた。40年間で、彼はいったい何日休みをとっただろう? きっとそんなに多くないはずだ。
 Macintoshのオリジナルのデザイン・チームの1人が、ジョブズは「現実歪曲フィールド」の中で動いてたって言ったけど、彼が空が緑だと言えば、まわりの人間はみんな彼の言う通りだと信じ始めたという意味らしい。彼がパーソナルなコンピューターというアイディアが実現できると信じ込んだのは、その意志の力のおかげであって、我々が彼らに共感して同様に信じ込んだのもそのおかげなんだ。あの意志力がなかったら、果たして彼が成し遂げたことが完遂できただろうか? それは僕には分からない。でも、彼らの意見はこれで一致しているような感じだった。つまり、彼は複雑な人物だったとね。

ジョブズはいつも心を閉ざしていた
マイケル・ファスベンダー(左)とダニー・ボイル監督(右)。撮影中の様子

──ジョブズと同じレベルで対等にやり合い、たまに言いくるめられる唯一の人間が、マーケティングのトップのジョアンナ・ホフマンでした。ジョアンナをケイト・ウィンスレットが演じていますが、感想は?

ファスベンダー:ジョアンナはジョブズにかなりのインパクトを与えたと思う。ジョブズがAppleを追われた後、ひきこもってNeXTに没頭するくだりでは、彼女はジョブズに一切攻撃を加えてないよね。彼女のおかげでジョブズは素直になるわけで、ケイトの演技はそこをよくつかんでると思う。映画の中での描かれ方からすると、彼に手を引かせたのはジョアンナ以外にいないね。我々がいっしょに仕事をする上で、それは一つのダイナミックな部分だね。間違いなくジョブズの中にある人間的部分をすべて引き出せるのは彼女だけで、それは隠れてるんだよ。僕から見ると、スティーブは四六時中ガードを張ってて、時としてそれが、ほとんどご乱心という形になって噴き出してくるんだ。心をブロックしているので、人に対して感情的な弱さを見せたり、打ち解けたりできないんだ。僕は彼のインタビューを何度も見たけど、いつもそういう鎧のようなものでガードしてるのが見えたね。彼にはそういう鎧の光沢があった。

──原作は、スティーブ・ジョブズ本人が全面協力し、100万部のベストセラーとなったウォルター・アイザックソンの「スティーブ・ジョブズ」で、脚本を『ソーシャル・ネットワーク』のアーロン・ソーキンが担当しています。かなり早口の軽妙洒脱な脚本ですが、いかがでしたか?

ファスベンダー:流れるようなテンポのセリフで押しまくる197ページの脚本だった。アーロンはある種の抑揚を軸にして書いているので、僕はうんと時間をかけて脚本に取り組んだ。先の見えているダニー・ボイル監督は、ありがたいことに、一幕ごとに撮って行く撮影の合間にリハーサルの期間を作ってくれて、それはとても珍しいことで、万に一つもないケースなんだ。それに関しては永遠に感謝するだろうね。だって、あれがなかったら、これだけのペースの撮影には望めなかっただろうから。

左からマイケル・ファスベンダー、ケイト・ウィンスレット、ダニー・ボイル監督

──ソーキンの早い流れの脚本に、ダニーはどんな味つけをしたのでしょう?

ファスベンダー:ダニーはポジティブで激励してくれるし、エネルギーの塊のような人でね。語り口にも同じようなエネルギーを吹き込んでくれていると思う。彼がカメラに注ぎ込むエネルギーは、こういう作品ではすごく重要だね。本質的に2時間近くしゃべりまくりの映画だからね。ダニーは演劇畑の人で、お弟子さん時代もそこからスタートした人なんで、その世界のことは熟知してるんだ。いろんな面で、この脚本はとても演劇的なストーリーだよね。登場人物が袖から入ってくることが多いし、この作品が一つの演劇として演出されてるのは、とてもはっきりしてるよね。

──スティーブ・ジョブズが亡くなった時、地球規模で悲しみが広がりました。まるでロックスターや有名な世界の指導者が亡くなったような悲しみの広がり方に驚いた人もいました。ジョブズがそれほどまでに人の心を動かしたのは、なぜだと思いますか?

ファスベンダー:彼はいろんな意味で間違いなくビジョンの人だったんだ。パーソナル・コンピューターに関してだけでなくね。ジョブズは人がパーソナルな関わりを持つ道具としてコンピューターを考えてた。オーウェルの小説に出てくるような部屋の片隅にある無機質な恐ろしいものではなくね。今、人はどこへ行くにしても、iPhoneを見ながら街を歩いてる。録音に、写真に、メールに、eメールに、ツイートに使いながらね。このiPhoneというミニチュアのコンピューターは、人間のもう一つの手と言ってもよくて、持ってない人を見つけるほうがむずかしいぐらいだね。無数に増殖したフォード車みたいなものだと思う。彼のやったことは、我々の生き方を変えた。シンプルだけど、普遍的なんだ。

マイケル・ファスベンダー
マイケル・ファスベンダー
Michael Fassbender

1977年4月2日生まれ、ドイツのハイデルベルク出身。01年、テレビシリーズ『バンド・オブ・ブラザース』で注目され、『300〈スリーハンドレッド〉』(07年)で映画デビュー。『SHAME-シェイム-』(11年)でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。主な出演作は『イングロリアス・バスターズ』(09年)、『それでも夜は明ける』(13年)、『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(11年)、『X-MEN: フューチャー&パスト』(14年)、『スティーブ・ジョブズ』(15年)、『X-MEN: アポカリプス』(16年)、『FRANK-フランク-』(15年)など。