『世界で一番美しい少年』クリスティーナ・リンドストロム監督&クリスティアン・ペトリ監督 インタビュー

とある映画によって破壊された“世界で最も美しい少年”の人生――空白の50年間、一体何があったのか?

#クリスティーナ・リンドストロム#クリスティアン・ペトリ#世界で一番美しい少年

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「世界一美しい少年」だと宣言され人生が一変した少年の物語

“世界で一番美しい少年”と呼ばれその後の人生を運命づけられてしまったひとりの人間の栄光と破滅、そして心の再生への道のりを映しだした衝撃のドキュメンタリー『世界で一番美しい少年』が12月17日より公開される。

“世界で一番美しい少年”と称賛され、一大センセーションを巻き起こした少年がいた。巨匠ルキノ・ヴィスコンティに見出され、映画『ベニスに死す』(71年)に出演したビョルン・アンドレセン。来日時には詰めかけたファン達の熱狂で迎えられ、日本のカルチャーに大きな影響を及ぼした。だが彼の瞳には、憂いと怖れ、生い立ちの秘密が隠されていた…。そして50年後。伝説のアイコンは、『ミッドサマー』(19年)の老人ダン役となって私達の前に現れ、話題となる。彼の人生に何があったのか。今、ビョルンは、熱狂の“あの頃”に訪れた東京、パリ、ベニスへ向かう。それは、ノスタルジックにして残酷な、自らの栄光と破滅の軌跡をたどる旅――。

本作の監督を務めるのは、3部作の“Silence”(20年)でもタッグを組んだクリスティーナ・リンドストロムとクリスティアン・ペトリ。ドキュメンタリー映画監督だけでなく、ジャーナリストなど幅広い顔を持つ2人が、本作の見どころについて語ってくれた。なお、今回は2人の共同作品ということで、どちらの発言かは名言しない形でのインタビューとなっている。

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──本作の発想に至る経緯を教えてください。

監督:この映画は、私たちのこれまでの人生でずっと目の前に存在していた、とてもパワフルで、力強くて、感動的なストーリーです。私たちは、ビョルン・アンドレセンがかつて“世界で最も美しい少年”と呼ばれていたのを知っている世代です。クリスティアンは20年以上前にビョルンと監督として仕事をしたことがあって、友情関係を築いていました。それがこの映画の始まりでした。

左からクリスティーナ・リンドストロム監督、クリスティアン・ペトリ監督
『世界で一番美しい少年』は12月17日より全国公開
(C)Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

──この映画が伝えているのはどんなことですか?

監督:この映画は美への強迫観念について、欲望と犠牲について、映画監督ルキノ・ヴィスコンティがビョルンこそ「世界一、美しい少年」だと宣言したとき、人生が一変した少年についての物語です。この少年は何者で、彼に何が起こったのか。これはある1人の人間の人生を破壊した映画についての物語であり、そして、家族の秘密の物語でもあり、真実を探す物語でもあります。

──撮影はどのように行ったのでしょうか?

監督:私たちは5年間、ビョルン・アンドレセンの軌跡をたどってストックホルム、コペンハーゲン、パリ、ブダペスト、ベニス、東京で『世界で一番美しい少年』を撮影しました。また、彼の母親の死と父親の身元について真実を知るため、アーカイブ映像を調べ、親しい家族とのインタビューを重ねて彼と一緒に探りました。数十年に渡って彼と接点のあった人々を探しましたが、50年という年月のために、見つけることが困難な人も当然いました。しかし、奇跡のように大半の人々に連絡が取れ、進んでカメラの前で語ってくれました。この過程を通して見つけた豊かなアーカイブ素材は、私たちにとって、作品を完成されるためには有意義なものでありました。

──この映画をどんな思いで作ったのでしょうか?

監督:本作を完成するためには、お互いの信頼があり、そしてビョルン自身の勇気と自らのストーリーを語りたいという願いからきているのです。私たちは単純な返事よりも興味深い問いかけを信じ、これは簡単な物語ではないことも理解しつつ、魅惑的なものとなっていることを心から願っています。そして、多くの層が重なった物語を伝えることで、ビョルン自身の複雑で深みのある人間性がさらに前に向かっていくことを信じているのです。私たちはビョルンの物語を描きたいと思いました。私たちは、他人によって作られたイメージ、アイコン、ファンタジーとなり、青年期の人生を奪われることになった一人の少年の物語に耳を傾ける機会を、観客の皆さんに届けることができればと願っています。

(C)Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021

──本作を通じて伝えたいテーマは何ですか?

監督:この映画は、私たちの社会の美に対する執着の物語です。大人の欲望がルールを決める世界に引きずり込まれた若者や子どもにどんなことが起こるのか? ビョルン・アンドレセンがアイコンという存在、つまりファンタジーや男性、女性、少女の夢を投影する存在になったのは、わずか15歳の時でした。私たちは観客の皆さんにこの少年、この子ども、あの人間の姿を見てほしいと思います。エンターテイメント業界にいる若い人たちは、知らないことには「イエス」と言ってしまうと思います。周囲を喜ばせるために。そして自信がないから。こういう事例はたくさん目にしますし、現代の若いセレブたちもビョルンと経験を共有できると思います。

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──最後にメッセージをお願いします。

監督:2021年は『ベニスに死す』のワールド・プレミアで、映画監督のルキノ・ヴィスコンティがビョルン・アンドレセンを「世界で一番美しい少年」と高らかに宣言してから50年となる年です。その年に、あの少年が真の姿で帰ってきたのです。

クリスティーナ・リンドストロム
クリスティーナ・リンドストロム

映画監督としてだけでなく、ジャーナリスト、作家としても活躍する彼女は、ゴールデン・ビートル賞(スウェーデンの映画賞)2部門を受賞した『パルメ』(マウド・ニカンデルと共同監督、12年)、3部作の『The Era-Punk』(17年)、『Silence』(クリスチャン・ペトリと共同監督、20年)など評価の高いドキュメンタリーを手掛け続けている。作家として、若い女性の視点からスウェーデンの歴史をとらえた3部作がスウェーデン国内ではロングセラーとなっている。国営放送SVTの文化事実プログラムの責任者も務め、多数のドキュメンタリー番組等の開発も手掛ける。その他ストックホルム文化賞等も受賞。

クリスティアン・ペトリ
クリスティアン・ペトリ

映像監督、脚本家、文化ジャーナリストと幅広いジャンルで活躍。監督作の短編『Once Upon a Time』(91年)と『The Crack』(92年)はカンヌ国際映画祭批評家週間のコンペティション部門に出品。初の長編映画『Between Summers』(95年)はゴールデン・ビートル賞を受賞、ゴールデングローブ賞、ヨーロッパ映画賞作品賞の候補にもなり、カンヌ国際映画祭監督週間にも選ばれた。その他の作品に、高い評価を得ていくつものスウェーデン国内外の賞の候補や受賞となった『The Well』(05年)、『Tokyo Noise』(02年)など多数。イングマール・ベルイマンの神話的映画『冬の光』(62年)のドラマチックな製作についてのドキュメンタリー『L136』(18年)なども手がけている。