塚本晋也監督「戦争を防ぐ力があると信じている」最新作に込めた反戦への思い明かす
#ジェフリー・ラッシュ#ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?#ロドニー・ヒックス#塚本晋也#第83回ヴェネチア国際映画祭
映画で「少しトラウマになるくらいの体験」を届けたいと語る
塚本晋也監督の最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、第83回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、現地時間9月4日にワールドプレミアを迎えた。会場には塚本監督をはじめ、主演のロドニー・ヒックス、アカデミー賞俳優ジェフリー・ラッシュらが登壇。公式記者会見やフォトコール、レッドカーペットも行われ、世界各国から集まった映画関係者やメディアの注目を集めた。
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公式記者会見には、塚本晋也監督、精神科医ニール・ダニエルズ役のジェフリー・ラッシュ、アレン・ネルソン役のロドニー・ヒックスらが出席。会場には世界各国から約100名の記者が集まり、事前に本作を鑑賞した記者からは、その衝撃の大きさを物語るように次々と質問が寄せられた。
まず、「戦争におけるPTSDを取り上げようと思った理由は?」という質問に対し、塚本監督は「10年前に『野火』(14年)の製作時に出会ったのが本作です」と語り始めた。「アレン・ネルソンさんというアフリカ系アメリカ人のベトナム戦争体験を描いた本だったのですが、その本に出会ってショックだったのは、戦争で起こることを正直に、そのまま赤裸々に語っていたことです。加害者側の目線で描かれていたことにも非常に大きな驚きがありました。それを映画にするのは非常に難しいと思いましたが、映画にして、なるべく多くの皆さんに見てもらうことは非常に大事なことだと思い、この映画を作りました」と映画化の原点を明かした。
出演者の2人には、原作からどのような人物像を見いだし、演じるにあたってどのように役と向き合ったのかという質問が飛んだ。ロドニーは、初めて脚本を読んだときから「この映画をやりたい」と思ったと話し、「これまで私たちがあまり目にしてこなかった(加害者)視点から、物語が描かれていたからです。アフリカ系アメリカ人の退役軍人が戦争から戻った後の物語を描いた作品は初めてです。また、PTSDというテーマがここまで描かれることもありませんでした。塚本監督がご自身の演出によって、フィルターを通さず、正直に物語を描いてくれました。本作においても、人間性というものが重要なテーマになっていると思います。何が正しく、何が正しくないのか。その根底にある問いを通して、私たちの日常をどのように見つめ直すことができるのか——。この映画には、そうしたことを考えさせる力があると思いました」と回答。

一週間という限られた撮影期間の中で、アレン・ネルソンの回復に挑むという密度の高い役に臨んだジェフリーは、「塚本監督から、演じる前によく質問をされました。50年役者をやっていますが、そうした質問から大きなパワーを感じました。撮影のリズムやペース、そして監督の純粋なオープンさが、素晴らしい環境を作ってくれました。カメラがまるで消えていくように感じられる環境で、撮影中は私たち二人だけでいるような感覚でした」と振り返った。
さらに塚本監督について、ロドニーは「まさに格別でした。丁寧で穏やかで、親切で禅の達人のようでした」、ジェフリーは「事前ミーティングであらゆる言語でやり取りを終えると塚本監督からは『おぉ!』という驚いたような声が聞こえてくるんです。その一声のトーンだけで、監督が何を考えているのかが伝わってきました。『ああ、あなたが探求しようとしている方向性がわかりました。撮影現場で、それを一緒にやっていきましょう』という反応を返してくれる。そんな監督とのやり取りが、とても印象に残っています」と答え、その人柄を称賛した。
塚本監督には、本作に込めた思いや、現在各地で起きている戦争についてどのような考えを持っているか、質問が集中した。「ドローンなどのテクノロジーによって、加害者側の意識や戦争との距離感が変わってきていることは、ひとつの恐ろしい出来事だと思います。ただ、よく考えてみると、加害者側のあり方が変わっても、被害者側は、内臓が飛び散り、目が飛び出し、家族が悲しむ。昔も現代も、その悲劇性は変わりません。いろいろなものが変化してきていますが、被害者がどのような思いをしているのかを想像することが、非常に大事だと思います。テクノロジーが進み、被害者との距離がどんどん遠くなることで、加害者側の意識が薄れてしまうことへの心配はありますが、被害そのものは変わらないということを、よく考えてほしい」と語った。

さらに「本作はベトナム戦争を描いていますが、私が描こうとしたのは、アレン・ネルソンさんの人生そのものです。アレンさんの話を聞いた時、もはや出身国の問題ではなく、どこの国だろうが戦争に行くとこんな恐ろしいことをしてしまう(そのことを)正直に語っていることに衝撃を受けた。とにかく、時代も国も越えて、どこの国の人であっても、戦争に行けば恐ろしい目に遭い、そして恐ろしいことをしてしまう。そのことを描きたかったのです」とコメント。
また、「この作品は、若い世代に戦争を防ぐ力があると思いますか?」という質問に対し、塚本監督が「どう思いますか?」と記者に逆質問すると、記者は「あると思います!」と即答。これを受け、塚本監督は「私も、それを信じてこの映画を作っています。若い人たちに頭でストーリーを追ってもらうというよりも、登場人物と同化し、実際に体験しているように感じてもらえる作品にしたかった。肌で、身体で感じてもらい、少しトラウマになるくらいの体験をしてもらいたいと思っています。そうすれば、戦争に行くことになったとき、身体が拒否反応を示すのではと思うのです。私が子どもの頃、父親や母親、祖父母は戦争について話してくれませんでしたが、戦争をリアルな映像や描写で描いた創作物がリアルで、それが私の心に小さなトラウマを生み、結果として戦争を憎むようになったのです。その小さなトラウマや、まるでその場にいるかのような臨場感を感じてもらうことは非常に大事だと思っています。それを感じてもらえれば、映画の力によって、いつか若い人たちがこの作品を見たときに“戦争の現場には行きたくない”と身体で感じてもらえるのではないかと思っています。だからこそ、なるべく多くの人にこの映画を広げていただきたいのです」と、本作が多くの人に広がることを願った。
また、「本作を回想形式にし、あの恐ろしいほどの苦しみとの対比を描いたのは、どのような意図があったのでしょうか?」という質問には、「最初は時系列に沿って脚本を書いていました。ただ、かなり膨大で重い物語だったため、映像としても少し重たくなってしまう可能性がありました。脚本を書き進める中で、物語が長く、扱う範囲も広すぎると感じ、短縮する必要があると考えました。そこで、アレンとダニエルズのセラピーのセッションの中に回想シーンを入れることで、物語の流れをスムーズにすることができました。映画の構成という観点からも、これは良い選択だったと思います」と、その構成に込めた意図を明かした。
記者会見終了の合図が出されると、各国の記者が塚本監督のもとへ一斉に駆け寄り、本作への関心の高さがうかがえる盛況ぶりとなった。国境を越えてさまざまな問いが寄せられる中、塚本監督は一つひとつの質問に真摯に答え、本作に込めた思いを丁寧に伝えた。
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は2026年9月11日より公開。
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