マンガの映画化急増のビジネス事情。少女マンガ原作台頭の理由は製作費低下

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少女マンガを映画化し大ヒットした『ホットロード』
(C) 2014『ホットロード』製作委員会 (C) 紡木たく/集英社
少女マンガを映画化し大ヒットした『ホットロード』
(C) 2014『ホットロード』製作委員会 (C) 紡木たく/集英社

『るろうに剣心/京都大火編』『伝説の最期編』が2部作合計で興収90億円を突破、『ルパン三世』『ホットロード』が20億円超。今年後半もマンガ原作の実写映画化の大ヒットが相次いでいる。

「ヤンキーものはローカルで強い」を実証した『ホットロード』

数年前からマンガ原作の実写映画化が増えているが、「観客は映画を見る際に損をしたくないので、『売れている原作』などの拠り所を必要としている。だから製作サイドもマンガ原作に行きやすい」(ある映画プロデューサー)という実情がある。

最近の傾向が、テレビアニメを実写の前に“挟む”という戦略だ。まずはテレビアニメ化で、マンガ読者の延長線にいる若者層へアピール。最終的に実写映画化という“イベント化”で幅広い層へ浸透させる。冬から来年にかけてはこの戦略を取っている作品が多い。11〜12月にかけては『寄生獣』『アオハライド』、来年は『暗殺教室』『進撃の巨人』『信長協奏曲』が控えている。

アニメ&実写映画の製作元の組み合わせは様々で、『暗殺教室』『信長協奏曲』がフジテレビ、『アオハイライド』が東宝というように1社で両方製作するケースもあれば、『進撃の巨人』はアニメがポニーキャニオン/実写が東宝、『寄生獣』はアニメが日本テレビ/実写が東宝、と別々に製作するケースもある。

アニメが当たると原作マンガが売れるので、アニメと実写映画の連動は出版社が求めていることでもある。さらに、アニメ&実写映画化のセットは原作者対策でもある。実写映画は上映時間などの関係で内容を変更せざるをえないが、アニメは原作に忠実に作ることができる。両方をセットにすることで「実写は原作と別物だが、アニメは原作準拠で作っています」と出版社が原作者を納得させやすい。

アニメ&実写映画化で先陣を切っているのが日本テレビだ。2006年『DEATH NOTE デスノート』で初めてテレビアニメと実写映画化を連動。映画は2部作で公開され、前編28.5億円、後編52億円の大ヒットを記録し、その後も『カイジ』『君に届け』と連動してきた。同局ならではの強みが、映画とアニメの制作チームの“横のつながり”だ。以前は映画事業部の下に実写映画部門とアニメ部門があり、アニメと映画のプロデューサーが一緒になって原作権獲得のプレゼンテーションに行く。出版社側から見ると、1社に権利を預けた方が連動しやすい面がある。ただし、『寄生獣』の場合は出版元の講談社がアニメ化を日本テレビに働きかけたようだ。

一方、『るろうに剣心』を大ヒットさせたワーナーブラザースではこれまでアニメと実写映画化の連動はなかったが、今後はできるよう社内体制を変更。5月からジャパン・コンテンツ事業グループを立ち上げ、その下に邦画事業部と、ホームビデオのアニメ部門を連ねる組織にしている。

ところで、最近増えているのが少女マンガの実写化だ。「パッケージ市場が縮小しているので、製作予算が下がっている。大作の実写企画が減り、予算が少なくて済む少女マンガ作品にスポットが当たっている」(映画関係者)からだ。今年後半を見ても、『好きっていいなよ。』『ホットロード』『近キョリ恋愛』『クローバー』『アオハライド』と55本が製作されている。(文:相良智弘/フリーライター)

相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。

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