五輪ファーストで消された庶民の生活…問答無用で排除された人々が悔しさを吐露

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青山真也監督、菊池浩司
左から元住民の菊池浩司さん、青山真也監督
(C)Shinya Aoyama

東京オリンピックの開会式が行われた7月23日、映画『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』の初日舞台挨拶に青山真也監督と元アパート住民の菊池浩司さんが登壇。五輪開催の裏で押し殺された声などについて、開会式直前の思いを語った。

・『パンケーキを毒見する』試写会で渦巻いた政治への不信、不満、失望……

五輪ファーストで排除された都営霞ヶ丘アパートの3年間を追ったドキュメンタリー映画

明治神宮外苑にある国立競技場に隣接した都営霞ヶ丘アパートは、10棟からなる都営住宅。1964年のオリンピック開発の一環で建てられ、東京オリンピックに伴う再開発により2016年から2017年にかけて取り壊された。本ドキュメンタリーは、強制退去させられた都営霞ヶ丘アパート住民の最後の生活の記録から、五輪ファーストの陰で繰り返される排除の歴史を描く。

平均年齢が65歳以上の高齢者団地であるこの住宅には、パートナーに先立たれて単身で暮らす人や身体障害を持つ人など様々な人たちが生活していた。団地内には小さな商店があり、足の悪い住民の部屋まで食料を届けるなど、何十年ものあいだ助け合いながら共生してきたコミュニティであったが、2012年7月、このアパートに東京都から一方的な移転の通達が来た。

2014年から2017年の住民たちを追った本作では、五輪ファーストの政策によって奪われた住民たちの慎ましい生活の様子や団地のコミュニティの有り様が収められている。また移転住民有志による東京都や五輪担当大臣への要望書提出や記者会見の様子も記録されている。

青山監督「他人事ではない」排斥の歴史に危機感覚えて映画を製作

冒頭で青山監督は「オリンピックの開会式がある日に集まっていただき、とても嬉しく思います」と挨拶。本作を作りたいと思った理由を聞かれて「人生で2回、オリンピックによって立ち退きを強いられる人がいるというニュースを聞きつけて、霞ヶ丘アパートに足を運びました。50年ぶりのオリンピックがあって立ち退きとなりました。そこに住んでいた方々は、高齢者の方が多く、もし50年後大きなイベントがまた東京で開かれるとすると、私が菊池さんのような高齢者の年で、他人事ではないと思いました」と説明した。

本作は、23日から1週間、アップリンク吉祥寺とアップリンク京都で緊急先行上映をすることになった。青山監督は「この映画はオリンピックの開発により立ち退きになった都営住宅をテーマにした映画です。都営住宅が残っている時から、多くの方が住んでいて、立ち退きに不満を覚え、眠れない日々を過ごし、結果的に住んでいた方々は皆立ち退きました。当時も『立ち退きとは何事だ』と、こういった問題に関心のある方が声をあげていたけれど、残念ながら、今の世論のような、オリンピックに対する批判ほど多くなかったと思います。」と悔しい想いを口にする場面も。

菊池さんは、東京オリンピックのために立ち退くよう言われた時のことを聞かれ、「僕は生涯を霞ヶ丘で過ごすつもりでいましたので、びっくりしましたし、僕は障害があるので、福祉関係や病院関係もあって簡単には動けないので、一時途方に暮れました。何人かのグループが反対運動を起こしたので、そこに入りまして、最後の最後まで国会議事堂に行ったり、いろんな方に相談しましたが、とにかくどうにもならないんです。一度決まったことはどんどん進められちゃうので、それに従うしかならなかった状態です。今まで一生懸命反対運動をして結局は何も報われなかった。みんな『頑張れよ』と言うだけで、どうにもならなかった。」と回想した。

菊池さん「飼い猫が野生化して住んでいる」新たな問題にも言及

23日当日、開会式直前に行われた本イベント。現在の気持ちを聞かれた監督は「バブルも本当に意味があるのかという報道もありますし、オリンピックを見る気にはなれないけれど、しっかり目撃したいと思います」と話した。

菊池さんは「現在、国立競技場の周辺は厳重に二重にも三重にも囲いがあって、絶対に中に入れない状態なんです。霞ヶ丘にいる時に皆が飼っていた猫たちを引っ越す際に放して、現在野生化して住んでいます。その猫たちに餌をやるおばちゃんたちも入れなくて今日も右往左往していました。『動物はどうでもいい』ではなく、もう少し思いやり・人間味を持って、考えて欲しいと思います。」と新たな問題についても言及。「いくら私が考えても、みんなに相談してもどうにもならないので、現在は、神頼みというか、因果応報が来るんじゃないかと、自分自身を慰めております」と現在の思いを吐露。

青山監督は「ここまでの話を総合すると、『オリンピックけしからん』という映画に聞こえるかもしれないんですけれど、決してそれだけの映画ではなく、住民がアパートで過ごすたわいもない日常だったり、一緒に掃除をしたり、引越しする場面も、普遍性があると思って撮影をしました。幅広く、いろんな見方ができる映画かと思いますので、しっかり見ていただければと思います」とあらためてメッセージを送った。

『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』は、7月29日までアップリンク吉祥寺およびアップリンク京都にて先行上映中。8月13日より全国順次公開。