家族のために体を売る男娼、それなのに一族の恥と見なされ… 『マネーボーイズ』C.B.Yi監督が語る社会の矛盾

#C.B.Yi#LGBTQ+#クー・チェンドン#クロエ・マーヤン#マネーボーイズ#ミヒャエル・ハネケ#リン・ジェーシー#映画

『マネーボーイズ』
(C)KGP Filmproduktion, Zorba, ARTE France Cinéma,Flash Forward Entertainment, La Compagnier Cinematographique&Panache Productions 2021
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息をのむほどの映像美で紡ぐ、都会の片隅で愛を求めもがく若者たちの物語

田舎の両親に仕送りを続けるため男娼として生きたフェイと、その恋人の葛藤を描き出し、2021年カンヌ国際映画祭のある視点部門に正式出品されたC.B.Yi監督の長編デビュー作『マネーボーイズ』。本作より、監督のオフィシャルインタビューと、「ゲイ風俗のもちぎさん セクシャリティは人生だ。」「夢的の人々」などで知られるゲイ作家・望月もちぎのコメントを紹介する。

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中国で幼少期を過ごし、オーストリアに移住後ウィーン・フィムル・アカデミーにて巨匠ミヒャエル・ハネケに師事したC.B.Yi監督(シー・ビー・イー)。彼の長編デビュー作である本作は、中国の田舎出身の若者を待ち受ける経済的・社会的な葛藤、そして彼らの存在を否定する保守的な共同体の二面性という、世界中のどこでも起こりうる普遍的な人間関係を見事な映像美で描き出す

主演フェイを演じたのは、日本でも話題となった『あの頃君を追いかけた』(11年)のクー・チェンドン。シャオレイ役には、ドラマ『お仕事です!〜The Arc of Life〜』のリン・ジェーシー。そして『3人の夫』(18年)のクロエ・マーヤンが1人3役を務め、圧倒的な存在感を放っている。

ゲイ作家の望月もちぎは、本作に対し以下のコメントを寄せている。

不幸を美談にしたり、マイノリティの生き様を美学にしたり、犠牲や弱さを美化してはならないけど、この映画は美しかった。
―――― 望月もちぎ(ゲイ作家)

インタビューの中でC.B.Yi監督は、ウィーン・フィルム・アカデミーで出会ったミヒャエル・ハネケ監督について、そしてセリフ以上にこだわった本作の映像美について語っている。

──幼い頃に中国の田舎からオーストリアのウィーンへ移住したと伺いました。そこでハネケ監督に師事したのですね。

C.B.Yi:中国にいた時から私はひとりでいることが多い10代だった。学校へはたまに行って、どこへ行っていいのか、居場所が定まらない感覚があり、心の中ではあらゆることに反抗していた。

13歳でオーストリアに移住し、ウィーンでの学生時代に、幸運にも映画という言語に出会わせてくれた人々と出会った。映画という言語は、言葉の言語よりも難しくなかった。その後、ウィーン・フィルム・アカデミーでハネケ教授の監督クラスに入り込むことができた。

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『マネーボーイズ』

1年目、私はたくさんのことに追いつかねばならず、ロベール・ブレッソン、アンドレイ・タルコフスキー、スタンリー・キューブリック、イングマール・ベルイマン、今村昌平、小津安二郎、ホウ・シャオシェンなど巨匠たちの作品と出会った。

私には映画理論の知識が全くなく、ハネケのディテールに対する誠実なまなざしに驚かされた。彼の鋭い目は、映画の惰性をすぐに明らかにしてしまう。数年後に気づいたのだが、数ある技術のなかでも、ハネケの厳しい授業が私にたたきこんでくれた重要なことは、あらゆる状況で一貫性をもつことだった。

──中国で映画を撮ることは監督にとってどんな意味を持ちますか?

C.B.Yi:『マネーボーイズ』は、中国の田舎出身の若い男の移住という非常に限定的な状況を描いているけれど、世界中のどこでも起こりうる人間関係を描いた普遍的な物語だと思う。理想のため、故郷のため、家族や友達のために自分を犠牲にする人たちがいる。フェイは家族と友達のために自分を犠牲にするけれど、体を売っていることで法律と家族から蔑まれてしまう。

フェイは自分を締め出した人々からの承認と愛を求めている。こういった問題は中国だけでなくヨーロッパを含むすべての社会で起こっている。

物語の舞台を中国にしたのは、他でもない個人的な理由のため。中国で育ったことは、ヨーロッパでの暮らしでは見えてこなかったたくさんの経験とリンクしているのだけれど、それらは自分にとっての母国語と同じように長い間、私の中にずっと閉ざされてきた。故郷の世界を描くことは、映画を撮るにあたって私に自信と安心を与えてくれた。芸術家のキャリアにおいて、自分の原点を少なくとも一度は扱うことは重要なことだと思う。

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『マネーボーイズ』

──俳優陣はどのように選びましたか?

C.B.Yi:本来中国で予定していた撮影が変更となり、私は初めて台湾を訪れ撮影が終わるまでそこにいることになった。台湾の俳優クー・チェンドンのことは前から知っていたけれど脚本を読んだ後、出演を決めてくれた。

彼はすばらしい才能をもった俳優。彼の役柄について話し合ったら、撮影中に彼が私の助言を求めることはほとんどなかった。撮影開始30秒前まで撮影仲間たちとジョークを言っているけれど、「アクション」の呼び声がかかると瞬時に自分の役に没頭できてしまうタイプの俳優だ。ファーストテイクがいつも素晴らしい。

リン・ジェーシーとクロエ・マーヤンも同様に才能豊かで、私が多く介入せずとも自立して役に取り組むことができる俳優たちだ。クロエは『マネーボーイズ』では3つの役を演じている。観客がどういう反応をするかが今から楽しみだよ。

──セリフに比べて、多くをビジュアルに託しています。これについて教えてください。

C.B.Yi:本作品の雰囲気を作り出すときに、他の要素には極力頼らずに、カメラでの撮影と照明で作り上げることについて全てを知りたくなった。ハネケの下で学んでから1年後、撮影監督のクリスティアン・ベルガーの特別クラスを受けた。

ひとつのシーンでカメラに動きを出して頻繁にカットを入れてしまうと、人工的で表面的なシーンになってしまうことが多く、本来なら人の心をつかむような瞬間を台無しにしてしまう。そこで、ひとつのシークエンスで登場人物たちを配置していくことのほうがもっと面白いということに気がついた。

私の映画では静寂が大きな役割を果たしている。人との絆というのは、いつも喋っていては生まれない。たわいもないことをペラペラ喋るのをやめて、アイコンタクトを取り相手をきちんと感じた時に生まれるものなんだ。

『マネーボーイズ』は、4月14日より全国順次公開。

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