前編/モブには見えない大泉洋、原作とは違いジャンルムービー極めた『アイアムアヒーロー』

#元ネタ比較

『アイアムアヒーロー』
(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館
『アイアムアヒーロー』
(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

【元ネタ比較】『アイアムアヒーロー』前編

丁寧な日常描写が
衝撃を生むはずなのに

青年漫画誌「ビッグコミックスピリッツ」で2009年から連載中の大ヒットコミック「アイアムアヒーロー」が実写化された。原作は、ダメ男がもがく姿を描いて映画化もされた「ボーイズ・オン・ザ・ラン」の花沢健吾によるものだ。

映画版はそのものズバリのジャンルムービーとして売り出しているし、ファンタスティック系の海外映画祭で受賞もしているし、何系なのか内容は知られているだろうが、原作は単純なジャンル漫画だとは思ってほしくはない。単行本の1巻では終盤にならないと、そのジャンルにたどり着かないぐらいなのだから。

単行本1巻分を使って描かれるのは主人公の日常だ。鈴木英雄という名前負けの主人公は普通のサラリーマンなどではなく、35歳にしてうだつの上がらない売れない漫画家。漫画家アシスタントをしつつ編集部に新作を持ち込むくすぶった生活ぶりが、独特のテンポと緻密な描き込みで丁寧に展開されていき、鈴木英雄というキャラクターの魅力とドラマに引き込まれていく。

だからこそ、原作者である花沢健吾がこの作品で描きたかったという“日常の崩壊”というテーマが際立ってくる。それまでひとつひとつ日常が積み重ねられてきたために、“ジャンル”にたどり着いてパニックが訪れたときの衝撃が半端ないのだ。

この丁寧に描かれる日常を映画版でも大切にしてほしかった。でも、映画版はのっけからジャンルムービーの臭いが漂っていて、何かが起こりそうな、何かが起こるのを待っているような空気を感じさせる。パニックが起こるまでの助走でなく、もうちょっと時間を割いて鈴木英雄の個性あふれる日常を描いてくれるとよかったのに。(中編「そこ、あっさり切り捨てる?」へ続く…)

『アイアムアヒーロー』は4月23日より公開中。

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