【日本映画界の問題点を探る】我慢を強いられてきた製作現場、労働環境の改善こそが未来を変えるチャンス

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インティマシー・コーディネーター
浅田智穂/インティマシー・コーディネーター

クリエイティビティをつぶさない健全な環境作りが良作を生む

【日本映画界の問題点を探る/インティマシー・コーディネーターは普及するか 4】アメリカの青春映画に魅了され、16歳で単身渡米をした浅田智穂は、大学では舞台芸術を専攻。当初は舞台照明を目指していたというが、たまたま頼まれた通訳の仕事でやりがいを感じて本格的に通訳として活動することになり、インティマシー・コーディネーターとしての今に至る。そんなふうに、人生の大半をエンターテインメント業界と共に生きてきたからこそ、現在の映画業界が置かれている状況にはさまざまな思いと葛藤が湧き上がるのも無理はない。

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「それまでも色々な話を耳にしたことはありましたが、私がインティマシー・コーディネーターのお話をいただいた2年前は、ここまでの危機感はなかったかもしれません。でも、多くの方が声を上げるなか、この職業も必然性があって日本に入ってきたのではないかと今では感じています。映画業界において、本当に今が過渡期だと思っているので、ここで変えないとこの先はもっと厳しくなるのではないでしょうか」

様々な根深い問題があることを知りつつも、誰もが見て見ぬふりをしてきたところがあったと言わざるを得ない。浅田の言う通り「ここで変われなければ先はない」という危機感はあるが、それはつまり、「ここで変われれば映画界の未来が開けていくチャンスになる」とも考えられる。とはいえ、問題は山積み状態。そんななかでまず浅田が変えていきたいと訴えているのは労働環境だ。

「労働時間が長すぎることと休みがなさすぎること、そして、それに見合った賃金ではないというなかで働いている人を数多く見てきました。やはり、まずはここから変えていくべきではないでしょうか。海外の制作環境を調べてみたり話を聞いてみると、面白い作品が数多く作られている背景には、クリエイティビティをつぶさない健全な環境作りがしっかりされているという話をよく耳にします。あと、これはよく言われていることでもありますが、日本では契約書ではなく口約束で仕事をすることがほとんど。それでは産業としても成り立っていかないので、そういったところもいずれ変えていけたらと思っています。私自身は、なるべく最初に条件の話はしっかりして、最低限メールに詳細を残すという対応を、今はしています」

一児の母としても多忙な日々を送っている浅田だが、子育てと両立できずにやめていく女性たちの姿をたくさん見てきた。それだけに、現在は女性が働きやすい現場を作る活動にも取り組み始めているという。

「女性が働きやすい現場というのは、男性やそのほかのジェンダーにとっても働きやすい現場になるのではないかと思っています。現に、『子どもに顔を覚えてもらえない』と嘆いている男性の声を聞くこともありますから。そういう意味でも、何かできることを考えていくべきではないかなと感じています。実は私も以前は、仕事をもらいたい気持ちから、子どもがいることをあまり積極的に話していませんでした。ですが、最近は子どもがいることをあえて伝えるようにしています。そのことを知ってもらうだけでも意味がある、という考え方に変わりました。実際、スケジュールの話をしているときに子どものことを気にかけてくださる方もいますし、不必要な拘束時間を避けてもらえることもあります。それだけでも、母親にとってはありがたいことですよね」

こういった現状は映画界に限った話ではなく、どんな業界においても言えることではあるが、エンターテインメント業界が変わっていくさまを見せられれば、日本全体の変化にも繋がっていくのではないだろうか。

「これまでは多くの人が我慢を強いられてきたと思いますが、(Metoo運動などでの)勇気ある告発と共に、思っていたことを言ってもいいんだという時代に変わってきたのではないでしょうか。そういう流れになっていかないと、せっかく業界に入ってきてくれた若い人たちが夢も希望も抱けずに、やめてしまう事態を招きかねません。そんな中で、うれしいことに高校生や大学生から『インティマシー・コーディネーターについて研究したい』といったお話をいただく機会が最近は増えました。敏感にアンテナを張っている次の世代の人たちに、どうやって広げていけるかについては私もしっかりと向き合っていけたらと思います。彼らがプロとして活躍するときに、みんながインティマシー・コーディネーターと仕事をしたいと言ってくれるようになれば、きっとより良い現場になると思うので。そのためにも、私自身も1本1本を丁寧に、そして現場では100%の力を出せるようにしっかりとがんばりたいです」

(text:志村昌美/photo:小川拓洋)

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