【日本映画界の問題点を探る】生身で挑む俳優の安全を考えると「予算が厳しいから前貼りはやめます」とは言えない

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インティマシー・コーディネーター
浅田智穂/インティマシー・コーディネーター
インティマシー・コーディネーター
インティマシー・コーディネーター

安全のための予算は削れない。インティマシー・シーンについても同じ

【日本映画界の問題点を探る/インティマシー・コーディネーターは普及するか 3】浅田智穂がインティマシー・コーディネーターとして活動を始めてから、今年で2年。経験も周りからの理解も、まだまだ足りていないところはあるというが、問い合わせ件数は日に日に増えていると話す。それだけでも、いまの日本映画界にとっては大きな変化の兆しと言えるだろう。

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「私自身は、自分が入る前と後を比べることができませんが、各現場にあるスタッフリストのなかに『インティマシー・コーディネーター』という名前が入っているだけでも何らかの刺激にはなっているように感じています。誰もが『この組のプロデューサーや監督は、安全や安心に対する配慮がある人たちなんだな』と潜在的に考えるはずなので。それだけでも、意識は変わると思っています」

そこで大きな壁として立ちはだかるのが、予算の問題。インティマシー・コーディネーターを入れたいと思っていても、低予算の作品が多い現状では厳しいと言わざるを得ない。しかし、浅田はこう訴える。

「確かに、予算の関係で入れたくても入れられない作品があるという話はたくさんあります。ただ、そういう場合でも、『まずは相談してください』と伝えるようにしています。作品の規模や予算などを聞いたうえで、提案できることもあります。私からすると、連絡をくださる時点で“より良い環境を作りたい”という思いがある現場という認識なので、何とか協力したい気持ちになります」

おそらく、現場のなかには「これまでなかったポジションなのだから、導入しなくても問題はないだろう」という考えの人もまだまだいるかもしれない。

「予算が厳しい作品は多いですが、こちらから丁寧に必要性をお伝えします。アクションシーンがある場合にアクション・コーディネーターを入れる前提で予算を組むのと同様に、インティマシー・シーンが作品にとって必要であればインティマシー・コーディネーターに予算を割こうとしてくださる方は多いです。他にも、『予算が少ないから、(安全のために必要な)アクションのマットレスを1枚削ります』というアクション・コーディネーターがいないように、私も『予算が厳しいから前貼りはやめますということはありません』と伝えます。どのプロデューサーも、予算が厳しくても作品にとって必要なことには予算を割くという考えの方が多いので、必要性さえ理解していただければ低予算の作品だとしても私から提案できることは必ずあると思っています」

現在、日本におけるインティマシー・コーディネーターは浅田を含めて2名のみ。世界規模で見ても100名ほどしかいないというが、年間に制作される映画やドラマの本数から考えてみると、明らかな人員不足と言えるだろう。しかし、急激に需要が増えたアメリカでは、新たな問題が勃発しているのだと眉をひそめる。

インティマシー・コーディネーター

浅田智穂が所属するIntimacy Professionals Association(IPA)

「そもそも国家資格ではなく、民間の資格ということもあって、“似非(えせ)インティマシー・コーディネーター”が出てきていると聞きました。たとえば、1~2日ほどのワークショップを受けただけで、インティマシー・コーディネーターだと名乗る人がいるとか、そんな状況です。ただ、全米映画俳優組合と私が所属しているIPAなどの団体がすぐにこの事態を問題視し、昨年の秋には認定制度を開始。現在は、映画俳優組合が認めた機関でトレーニングを受けること、年間に規定の日数以上稼働していないと登録が継続できない、というハイレベルな条件が付くようになりました。いまでは、そういった規定を作らなければいけないほどの状況になってしまったようです」

メディアで取り上げられる機会が増えたこともあり、浅田のもとにも「インティマシー・コーディネーターになりたい」という問い合わせが多数来るようになった。

「興味を持っていただけることはうれしいですが、いますぐに日本でトレーニングができるようになるのは難しいと感じています。その理由としては、まず私自身の経験が十分ではないため、まだ人に教えられるところまで来ていないということ。そして、今の日本映画界ではインティマシー・コーディネーターだけで生活していくのは厳しい状況なので、仕事の保証がない人を増やしてもいいのだろうか、と考えているからです。しかも、英語版しかないカリキュラムを日本語にするには膨大なお金と時間が必要。そういう意味でも、なかなか今すぐにとはいかない事情があるのが正直なところです。ただ、私としては将来的にインティマシー・コーディネーターの需要がもっと増え、人数が増えることを願っていますし、そのために私自身も動いていかなければならないと考えています」

(text:志村昌美/photo:小川拓洋)

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