【日本映画界の問題点を探る】ラブシーンの調整役インティマシー・コーディネーターは「人間の尊厳に関わる仕事」

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インティマシー・コーディネーター
インティマシー・コーディネーター/浅田智穂
インティマシー・コーディネーター
インティマシー・コーディネーターは普及するか

「説得されて脱がされるのでは」と疑心暗鬼になる俳優も

【日本映画界の問題点を探る/インティマシー・コーディネーターは普及するか 2】「インティマシー・コーディネーターとは、極論で言えば、人間の尊厳に関わる仕事」と語る浅田智穂。それだけに、仕事を受けるうえでは、事前の確認と細部にわたるまでの入念な準備を怠ることはない。実際、どのような流れで取り組んでいるのかについても教えてもらった。

【日本映画界の問題点を探る/インティマシー・コーディネーターは普及するか 1】より続く

「基本的に私たちが関わるのは、インティマシー・シーンがある作品のみ。インティマシー・シーンというのは、俳優がヌードになったり、疑似性行為があったりするシーンのことだけでなく、服を着ていても相手の体を触ったり、キスをしたり、未成年が性的なシーンに関わる場合などもすべて含まれています。そこに調整役として入るわけですが、俳優の身体的かつ精神的安心と安全を守りつつ、監督の持っているビジョンを最大限に実現するのがインティマシー・コーディネーターの役割。それにプラスして、両者の間に存在する潜在的なパワーバランスがどちらか一方に偏らないように調整したり、LGBTQの方々が問題なく現場にいられるようにしたりすることにも対応するので、役割は多岐に渡ります」

浅田が取り扱うのはセンシティブな内容となるため、仕事の依頼が入ったときに必ず確認することがある。その確認事項を守ることが出来る現場であると確信したときのみ依頼を受ける、と決めているという。

「これはあくまでも私のやり方ですが、お話をいただいたときにはプロデューサーに、3つのことを確認させていただいてからお受けしています。というのも、私たちには何の権限もありませんし、アメリカと違って日本にはまだルールもペナルティもないので、誰にも言うことを聞いてもらえない可能性もありますから。ですので、私が提示するガイドラインをしっかりと守ると約束していただければ、脚本をいただいてお仕事に入るという流れです」

では、浅田が挙げる3つの条件とは一体どのようなものなのか。

「まず一つ目は、インティマシー・シーンにおいて何をするのかを必ず事前に俳優たちに知らせて同意を取ること。強制や強要は絶対にしないということです。二つ目は、いかなる場合でも性器は前貼りで隠すこと。これは衛生面と安全面のすべてを考慮したうえでのことでもあります。そして最後は、インティマシー・シーンの撮影は必ず最小限のスタッフだけのクローズドセットで行うこと。作品の規模や内容によっても異なるので、私のほうで人数は決めませんが、必要のない人が入っていないか、それぞれの方の役割を確認させていただくこともあります」

これらのことをすべて踏まえたうえで、浅田は各所との調整に入り、本番を迎える。

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「日本の脚本に書かれているト書きはアメリカに比べると曖昧なものが多く、『キスをする』『愛し合う』だけで、具体的にどのように表現すればいいのか脚本ではわかりにくいことがあります」

インティマシー・コーディネーターは普及するか

「ですので、脚本を読んでインティマシー・シーンと思われるものを自分なりピックアップして、まずは監督の考えを伺います。そのときに、できるだけ多くの情報を得てから俳優と面談をしますが、私がするのはどこまでできるかのヒアリングのみ。説得などをすることは一切ありませんが、俳優たちもまだ私の立ち位置がわからない場合もあるので、最初は『説得されて脱がされるのではないか』と構えている方が多い印象です。実際に始まればわかっていただけると思いますが、私がするのは、あくまでも俳優の希望を聞いたうえで監督に提案をしたり、監督の考えを俳優に伝えたりしながらすり合わせていくこと。そのうえで、俳優部が承諾した内容を制作会社の法務部などと協力して、同意書という形にしていきます」

浅田自身も「どんな仕事でも新規参入は難しい」と話していただけに、俳優や監督が戸惑うことに対しては、ある程度の覚悟はしていただろう。それでも自分の役割を理解してもらえなかったことがあり、そのときが何より難しかったと明かす。

「大変な現場はたくさんありますが、一番つらいのは、自分が何をする人なのか理解しようとしていただけず、仕事をさせてもらえないことです。ただいるだけでは意味がないですし、それではより良い制作環境に変えていくことはできません」

そんな葛藤に悩まされることは多いというが、一方で着実に手ごたえも感じ始めている部分もあると笑顔を見せる。

「1度目は半信半疑だった方から『ぜひ次もお願いしたい』と連絡がきたり、一緒に仕事をした俳優の方が他の俳優の方々にいい感想を伝えてくれたりするとすごく嬉しいですね。インティマシー・コーディネーターがいれば(インティマシー・シーン撮影の)当日まで何をさせられるかわからないことはありませんし、事前に監督が希望されていた内容以上の演出や露出などの表現を撮影直前にを求められたとしても、俳優にとって抵抗があれば私が間に入って『できません』と言えるので、そこの安心感は大きいのではないでしょうか。役割をわかっていただいたうえでスタッフのみなさんと協力し合えるようになると、現場はスムーズに進むと思っています」

(text:志村昌美/photo:小川拓洋)

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