紛争と分断に翻弄された故郷、家族の愛、ブラナーの自伝的映画が胸に響く
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ケネス・ブラナー自身の少年時代を投影した『ベルファスト』
【週末シネマ】ケネス・ブラナーが製作、脚本、監督を務め、第94回アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞など7部門にノミネートされた『ベルファスト』。ブラナー自身の少年時代をもとに、紛争で大きく揺れた故郷とその地に生きる人々を、ある家族を中心に描いた。
舞台は1969年、北アイルランドのベルファスト。主人公のバディは9歳の少年で、労働者階級でプロテスタントの一家の次男だ。父はイギリスに出稼ぎ中で、母と10代の兄と暮らし、同じ街には祖父母もいる。
住民は皆、顔見知りで助け合って暮らし、通りでは子どもたちが元気よく遊んでいる。だが、その頃の北アイルランドはプロテスタントとカトリックの争いが激化し、同じ通りに暮らしながら違う信仰を持つ者同士の分断が深まっていた。
モノクロ映像に滲む生々しい憎悪、一方で愛に満ちた家族の物語
1969年8月、バディたちが住む通りにもアルスター・ロイヤリスト(アイルランドのイギリスからの独立に反対するプロテスタント)の集団がやって来て、カトリック信者の家や店を破壊した。
突然の暴力の波に呑み込まれるような感覚は、当時バディと同年齢だったブラナー自身が体感したものなのだろう。映像はモノクロだが、襲ってくる側の憎悪がそのまま突きつけられるような生々しさだ。
軋轢は同じプロテスタント信者同士の中にもある。バディの父親は暴走する一派に加わることを拒み、母親も平和な日常を求めている。愛してやまないベルファストだが、ここに留まるべきなのか、それとも新天地を目指すべきなのか。悩む大人たちと、それよりも学校の同級生でカトリック信者の少女への淡い恋心で頭がいっぱいのバディ、わが子とその家族を見守る祖父母の織りなす物語は真摯で温かさに満ちている。
生活は決して豊かではないが、大人は子どもに精一杯の愛情を注ぎ、子どもは子どもらしくいられる。家族みんなで劇場に出かけて映画や芝居を楽しむシーンに漂う幸せな空気と、荒れる現実のコントラストにも説得力がある。
素直な演技の新星ジュード・ヒル、ジュディ・デンチら名優が支える
バディを演じるジュード・ヒルは本作で長編映画デビューを果たした。素直な演技で波乱の日々を生き抜く少年を演じ、クリティックス・チョイス映画賞最優秀若手俳優賞をはじめ、多くの映画賞で新人俳優として評価されている。
ブラナーとは多くの作品で共演し、彼の監督デビュー作『ヘンリー五世』以来、監督と俳優としても年月を重ねてきたジュディ・デンチが茶目っ気と慈愛あふれる祖母を演じ、『裏切りのサーカス』などのキアラン・ハインズが一見いかつい風貌に優しさが滲む祖父を魅力的に演じ、共にアカデミー助演賞にノミネートされている。
TVシリーズ『アウトランダー』のカトリーナ・バルフと『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』シリーズのジェイミー・ドーナンがバディの両親を演じるが、美女と美男のオーラを抑えて、慎ましく勤勉な市井の人としてのリアリティを感じさせる。
いつの時代も苦難を強いられるのは罪なき人々
ロシアのウクライナ侵攻が激しさを増しているこの時期に日本で公開されるのは偶然とはいえ、深く考えさせられる。
どの戦争も紛争も同列に語るべきではない、それぞれの問題と悲劇がある。ただ、いつでも理不尽な苦難を強いられるのは無辜の人々だ。故郷の愛おしい思い出を、今という時間を思い起こさせながら描く『ベルファスト』は、郷愁という普遍性で多くの人の胸に響く(文:冨永由紀/映画ライター)
『ベルファスト』は、2022年3月25日より全国公開。
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