活弁シネマ倶楽部 水俣曼荼羅
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原監督が最新作『水俣曼荼羅』について刺激的なトークを展開

“映画を語る”配信番組『活弁シネマ倶楽部』に、原一男監督と小林佐智子プロデューサーが登場。映画評論家の森直人がトークMCを担当し、原監督の最新作『水俣曼荼羅』をはじめ、監督自身が「エンターテインメント・ドキュメンタリー」と称する諸作品についてトークを繰り広げている。

・いまなお拡がり続けている…切り捨てられた被害者たちに15年密着した渾身のドキュメンタリー

『水俣曼荼羅』は、デジタルリマスター版Blu-ray特別限定BOXが発売されたばかりの『ゆきゆきて、神軍』(87年)などを手掛けた原監督が、20年もの歳月をかけて作り上げた三部構成・372分の叙事詩的作品。

タイトルの通り、テーマは「水俣病」問題。 穏やかな湾に臨み、海の幸に恵まれた豊かな漁村だった水俣市は、化学工業会社・チッソの城下町として栄えた。その発展と引きかえに“死に至る病”はいまなおこの地に暗い陰を落としている。

しかし同時に、患者さんとその家族が暮らす水俣は、喜び・笑いに溢れた世界でもある。本作品でも、豊かな海の恵みをもたらす水俣湾を中心に、幾重もの人生・物語がスクリーンの上を流れていく。そんな水俣の日々の営みの20年にわたる記録である。

長くかかることは“方法論”…複雑な背景や群像ドラマ描くには尺がいる

『活弁シネマ倶楽部』のトークでは、まず最初にMCの森が、「『ニッポン国 VS 泉南石綿村』は3時間35分、『れいわ一揆』が4時間8分。どんどん長くなってますよね」と、372分の『水俣曼荼羅』をはじめとする作品の尺について言及すると、原監督は次のように答えた。

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森直人

「素っ気ない言い方になってしまいますが、デジタルなので経費の面での安心感があるのが一つです。 もう一つは、私が撮る映画は、特別に強いエネルギーを持った人を主人公にした作品ではありません。そういった作品の場合は、その主人公の周辺部の、エネルギーの弱いところを削り落としていく作りになるじゃないですか。そうすると全体的に、短くしようと思えばできる。しかし私の映画の場合、特別な強さを持った主人公たちではないので、群像ドラマにせざるを得ない側面があります」

原監督はさらに次のように説明する。

「群像ドラマとはどういうことかというと、登場人物のエネルギーが強くない分、一人ひとりの感情を描くには、その感情の周辺部を丁寧に描かなければなりません。“感情のピーク”も低いですしね。特に日本人の場合は、感情をぶちまけるというような国民性でもありません。一人の感情のピークを描こうとすると、その前後も描かなければならず、どうしても尺が長くなる。それに加えて“群像”なので、必然的に長くなるんです。『長くなってもいいや』と腹をくくっているからこそ、普通の人々が持っている感情を描けると思っています。今回の『水俣曼荼羅』はこれまでで一番長いのですけど、この尺がないと、水俣という小さな地域で起きた問題に、実は国レベルの問題が眠っているという複雑な事実は描けないんです」

原一男がドキュメンタリーで重視する「映画ならではのエンタメ性」

そんな本作品のクランクインは、2004年10月15日、関西訴訟の日。当時の原監督は、大阪の大学に教授として赴任していた。

「教授というポストなので、『授業をきちんとやる』という前提がありました。水俣までは遠いため、授業との兼ね合いで夏休みと冬休みに集中的に通ったんです。『水俣曼荼羅』は、取り組む前から長くかかることを覚悟していましたね。ただ、長くかかるということを“方法論”として描ければと考えていました」

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小林佐智子

このように、今回のトークでは、原監督ならでは映画制作の姿勢──社会問題を描いたドキュメンタリーを、暗いものでなく、まず面白いものとして生み出すべく、小林プロデューサーとは『さようならCP』のときから“エンタメ性”を意識してきたこと──がうかがえるほか、過去作との関連や最新作『水俣曼荼羅』の魅力まで明らかにされた興味深い内容となっている(https://youtu.be/-wyIPaOileQ)。

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土本典昭の遺志を継ぎ、水俣にあたたかい眼差しを向ける

『水俣曼荼羅』は、原が監督、撮影、プロデューサーを務めた最新映画。

04年10月15日関西訴訟最高裁判所判決で「国・熊本県の責任を認める」判断が下ったのをきっかけに、原告団と支援者たちの裁判闘争はふたたび熱を帯びる。

「末端神経ではない。有機水銀が大脳皮質神経細胞に損傷を与えることが、原因だ」という、これまでの常識を覆す、あらたな水俣病像論が提出される。

わずかな補償金で早急な解決を狙う県と国。本当の救済を目指すのか、目先の金で引き下がるのか。原告団に動揺が走る。

そして、県と国を相手取った戦いは、あらたな局面を迎える──。

『水俣曼荼羅』は全国で公開中。

INTERVIEW