『ロード・オブ・カオス』ジョナス・アカーランド監督インタビュー

若者たちの狂気によって生まれたブラック・メタルの軌跡

#ジョナス・アカーランド#ロード・オブ・カオス

ジョナス・アカーランド

彼らを恐ろしいモンスターではなく、普通の若者として描きたかった

『ロード・オブ・カオス』
2021年3月26日より全国順次公開
(C)2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC

19歳のギタリスト・ユーロニモスは、ボーカルのデッドたちとともに“真のブラック・メタル”を追求するバンド「メイヘム」の活動に熱中していた。ライヴ中に自身の身体を切り付けるなど、過激なパフォーマンスは熱狂的なファンを生む。さらにユーロニモスは“誰が一番邪悪か”を競い合う集団「インナーサークル」を結成。メンバーのヴァーグが起こした教会放火を機に、彼らの過激さは増し、誰もとめることができない狂乱に陥っていく。

サタニズム(悪魔崇拝主義)を標榜し、過激なライヴパフォーマンスとコープスペイント(死化粧)で世界のメタル・シーンを席捲した実在のバンド「メイヘム」。ノンフィクション「ブラック・メタルの血塗られた歴史」を原作に、邪悪で切なく、痛々しい若者たちの青春を鮮烈に描いた『ロード・オブ・カオス』は、世界をリードした音楽と、いまだ解明されていない事件にも迫っている。自身もブラック・メタル・バンドのドラマーとして活躍し、ミュージック・ビデオ監督を経て映画デビューしたジョナス・アカーランド監督にお話を伺った。

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──当時の関係者への取材と映画化の許諾について、どうアプローチをしましたか?

監督:映画化するにあたり、特に誰かを説得する必要はなかった。このストーリーはパブリック・ドメインだからね。だけど、私は彼らに敬意を表して、全員とコミュニケーションをとったんだ。彼らがどう感じているかを聞き、また私からもなぜこの映画を作るのかを説明する機会を作るべきだと思ったから、ファウストや(ユーロニモスの)両親にも連絡をとった。唯一連絡しなかったのはヴァーグ。初めから彼はこの映画を気に入らないとわかっていたから、わざわざ連絡を取る必要はないと思ったんだ。それから、殺されてしまったゲイの男性の遺族にもコンタクトしようとしたのだけれど、見つけられなかった。それ以外は全員と連絡をとった。さっきも言ったように、彼らの気持ちを伝える、映画化への心構えをする場としてね。誰も驚かせたくはなかったから、彼らには台本を送り読んでもらった。できるかぎりの敬意を表したかったから。
音楽に関しては、使用許可が必要だったけれど、ユーロニモスは曲のクレジットを色々な人に与えていたから、多くの人からサインをもらう必要があった。メイヘムのメンバーはもちろん、彼の両親からもね。彼らは最初からとても協力的だったよ。そうではないなんていう噂もあったけれど、音楽に関しては協力的だった。メイヘムの音楽なしには、この映画は作れない。ごく初期の段階で、彼らからの許可は得ていたんだ。

ジョナス・アカーランド

ジョナス・アカーランド監督

──撮影期間はどのくらいでしたか?

監督:撮影はたった18日で行ったんだ(笑)。でも、ヴァーグとデッドのラストシーンに2日間もかけたよ。ロケはだいたいブタペストだね。ブダペスト在住のアッティラ(メイヘムのメンバー)も毎日のように顔を出してくれたよ。ノルウェーでは、街並みの撮影などで2日間。この映画は低予算だったし、ノルウェーはとても撮影コストが高いから。ブダペストがメインロケ地になったんだ。

──この映画でメタルの印象が悪くなる、また、現在は普通の生活をおくっているバンド関係者を傷つけるのではないか、という否定的な声に対してどう答えますか?

監督:この映画がメタルの印象を悪くするかについてはわからない。これ(ブラック・メタル)はとても小さなジャンルでしかないし、世界的規模のムーヴメントになったものの、最初は20人程度だけが関わっていた小さなグループでしかなかった。彼らがその方向性を決めていたんだ。20人でやっていたことがビッグになって、今では自分もその一部という人がたくさんいる。それは仕方ないし、よくあることで、ロンドンで生まれたパンクも同じさ。すべてのサブカルチャーとはそういうもの。だから私は心配していないというか、すべてのことは、この映画のずっと以前にすでに起こっているのさ。この映画のずっと前からブラック・メタルはコマーシャル化されて、世界中で知られている。間違って伝えられていたことを訂正したり、より多くの情報を与えたりというのはあるかもしれないけれど、この映画で何かが変わるということはない。これが私の考えだよ。
逆に質問をしたいのだけど、インターネットで検索するよりも、この映画の方が彼らのことを傷つけると思うかい? 私はそうは思わない。YouTubeやネットで彼らの名前を検索すると、ダークな音楽が流れて、スモークや森が出てきて、おどろおどろしい声がモンスターについて語る、みたいなものばかりが出てくる。この映画を見てみれば、彼らが1人の若者として描かれているのがわかるはず。彼らは怖いモンスターではなく、普通の若い青年だったということを伝えたかった。人間らしさの部分。それは監督である僕の責務でもあった。それに、これは実際に起こった事件だからね。

──リドリー・スコット監督の会社(RSA)がプロダクションとしてクレジットされていますね?

監督:ロンドンにあるリドリーの会社・RSAとはもう20年ほど一緒に仕事をしている。RSAには映画部門もあって、私は長い間この映画を作ろうとしていて、初期の段階でリドリーに台本を渡したんだ。彼は会社の名前を使う恩恵を与えてくれて、部下たちにこの映画の実現をサポートするよう言ってくれた。とても助かったよ。彼は映画も見てくれて、「とてもリアルで、作るのは大変だっただろう。気に入ったよ」とコメントをくれた。インディペンデント映画を作るのは大変だから。こういうダークな内容だと特にね。彼の助けはプライスレスだったよ。1つトリビアを教えよう。ブダペストで教会が燃えるシーンを撮る際に、教会を組み立てる木材を調達する資金がなくてね。ちょうどその時ブダペストで『ブレードランナー2』の撮影をやっていて、その古いセットをくれたんだよ。あの教会は、実は『ブレードランナー』用のセットだったんだ。

──映画の核となる音楽についてこだわったことを教えてください。

監督:映画の音楽の大半がブラック・メタルになるであろうことは予想がついていたから、可能な限り、初期のメタル・シーンの本物のリアルな音楽を使いたかった。基本的に3種類の音楽が使われることになった。まず、当時彼らがプレイしていたメタル。特にメイヘム。それから当時、彼らが実際に聴いていた音楽。そして、映画のスコアとなる音楽も欲しかった。ブラック・メタルとは違う、でもノルディックな色合いを持った、そして映画でとても重要な若者同士の関係のエモーショナルな部分を損なわない音楽がね。
劇中で使われたメイヘムの音源は、本物と再録したものとがミックスされている。映画の最初の方では、彼らの演奏は下手くそだよね? リハーサルをやりながら、曲を仕上げている感じ。それは再録したもので、彼らの演奏がうまくなるにつれ、本物のメイヘムのレコーディングを使うようになっている。大変だったよ、あのサウンドを再現するのは容易ではないからね。

ジョナス・アカーランド
ジョナス・アカーランド
Jonas Akerlund

1965年、スウェーデン生まれ。83〜84年、ブラック・メタルの父ともいえるバンド「バソリー」のドラマーとして活躍。キャンドルマスの「Bewitched」でMV監督デビュー。98年にマドンナの「Ray of Light」でグラミー賞最優秀短編ミュージック・ビデオ賞を初受賞。その後、マドンナの「The Confessions Tour」でグラミー賞最優秀長編ミュージック・ビデオ賞を、ポール・マッカートニー の「Live Kisses」でもグラミー賞最優秀ミュージック・ビデオ賞を受賞した。本作で音楽を担当したシガー・ロスをはじめ、オジー・オズボーン、ポール・マッカート ニー、ローリング・ストーンズ、レディー・ガガなどのMV監督として活躍。また、本作撮影中にメタリカのラーズ・ウルリッヒからの依頼で、メタリカの「ManUNkind」のMVが『ロード・オブ・カオス』の映像とキャストで制作された。『SPUN/スパン』(02年)で映画監督デビュー。その後も『ホースメン』(09年)、『スモール・アパートメント ワケアリ物件の隣人たち』(12年)、『ポーラー狙われた暗殺者』(19年)などを手掛ける。名前の正式な読みは“ヨーナス・オーケルンド”だが、日本ではジョナス・アカーランドとして知られている。