『記憶の技法』石井杏奈インタビュー

幼少期のつらい記憶持つ女性役「悩みながらの撮影でした」

#石井杏奈#記憶の技法

石井杏奈

女優業に対する思いは強くなっている

『記憶の技法』
2020年11月27日より全国公開中
(C)吉野朔実・小学館 / 2020「記憶の技法」製作委員会

ダンス&ボーカルグループ「E-girls」のパフォーマーとして活動する一方、確実に女優としてのキャリアを積み重ねている石井杏奈。最新作映画『記憶の技法』では、幼少期の記憶の断片に悩まされながらも、自身の過去と向き合おうと懸命に生きる高校生・鹿角華蓮を好演した。

シビアな過去を持ちながらも強く明るく生きようとする華蓮を演じたことで、どんな思いが胸に去来したのだろうか――石井が作品のこと、そして自身のことを語った。

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──台本を読んで鹿角華蓮という女性にどんな印象を持ちましたか?

石井:原作も読ませていただいたのですが、華蓮ちゃんが生きてきた環境が自分とはまったく違ったので、最初はなかなか理解できませんでした。ですが、台本を読み込んでいくうちに、ただ悲しい、辛いという感情だけではないのだなと感じることができました。(池田千尋)監督にも「あまり暗くならずに」とアドバイスをいただいたので、明るさや強さというのも意識しました。

──理解しづらい役を演じるというのはいかがですか?

石井:楽しいですが難しいですね(笑)。自分が経験してきたことはストレートに感情が湧いてくるのですが、どうしても理解できないことは想像するしかない。今回も、自分に置き換えて考えてみたのですが、そうするとどうしても辛くなり華蓮ちゃんのように笑えないんです。かなり悩みながらの撮影でしたが、終わったあとは充実感でいっぱいでした。

──撮影していたのは10代、映画公開されるときは20代になりました。作品の見え方も変わりましたか?

石井:そうですね。撮影のときに感じていた思いと、初号試写を見たときの印象は違った気がします。撮影中は華蓮ちゃんの苦しさや悲しさを受け入れることに必死でしたが、いまは彼女のなかにある前向きさや強さをより強く感じるようになりました。

──記憶にまつわる物語ですが、石井さんのなかで頻繁にフラッシュバックする記憶はありますか?

石井:あります。私は毎年夏に家族で佐渡島にキャンプに行っていたのですが、その光景はよく出てきます。でもあまり懐かしい記憶は好きではないんです。

──楽しい記憶なのですよね? なぜ好きじゃないのですか?

石井:羨ましくなってしまいます(笑)。あのころは無邪気にいろいろなことを楽しんでいたなーと。みんな大人になって休みもあわなくなりましたし、時間も自分のために使うようになるじゃないですか。毎年恒例でやっていたこともどんどん減ってきてしまう。楽しかったぶん「もうできないんだな」と寂しくなってしまうからだと思います。

──逆に言えば、それだけ子どものころが楽しかったということですよね。

石井:そうですね。私も家族を持ったら、自分の幼少期の思い出もまた違った感じになるのかもしれません。

──ご自身のなかで一番古い記憶は?

石井:私が5歳ぐらいのときかな。お母さんの誕生日の日に、お母さんがお風呂に入っている間に、お父さんと兄弟みんなで机の上に緑のガムテープで「お誕生日おめでとう」と書いて、ロウソクを立てて部屋を真っ暗にしていた記憶ですね。あとは、妹が生まれることになり、真夜中に急にお母さんがいなくなってしまったときの記憶も鮮明に覚えています。

──2015年に公開された映画『ソロモンの偽証』のとき「もっとお芝居を頑張りたい」と話していましたが、あれから5年経って女優業に対する思いは変化しましたか?

石井:より強くなっていると思います。もっとうまくなりたい、上を目指したいという気持ちがどんどん湧いてきます。

石井杏奈

──でも正解がない仕事。どんなところをよりどころに頑張っていますか?

石井:台本に書かれていることをしっかり理解して演じることは当たり前なのですが、そこからもう少し飛び出たというか……例えば、台本にないのに、ふと感情的になって涙が流れてしまったり、自分の気持ちでコントロールできないような声が出てしまったり……。自分の想像を超える予期できない感情が湧いてきたときなどは、すごく手応えを感じます。あとは、家族や友人がお芝居を見て、心が少しでも動いてくれたと言ってもらえると嬉しいですね。

──華蓮は自らの過酷な過去から逃げずに向き合おうする女性です。そういった心の強い人物を演じて、なにか自身の変化はありましたか?

石井:先ほどもお話しましたが、華蓮ちゃんを演じていると意に反して涙が止まらなくなるほど悲しい気持ちになってしまうことがありました。しっかり抗うようにお芝居をしていたのですが、そういうことを経験するなかで、私自身も少し感受性が豊かになったのかなと思っています。

──石井さんは困難に直面したときは逃げないですか?

石井:私は、辛いことや悲しいことがあると、落ち込むし涙も出るのですが、尾を引かないんです。だいたい次の日には気持ちが切り替わっています(笑)。

──誰かに相談することはないのですか?

石井:事後報告はしますが、基本的に人には相談しません。「ただ聞いて欲しい」というだけで相談するのも相手に失礼かなと思ってしまうので。

──なかなか達観していますね。

石井:兄弟が多かったので、その都度お母さんに相談しても、さばききれないだろうなと自主規制していました。そうしているうちに一人で解決することが多くなり「あれ、意外と一人で解決できるかも」と思うようになりました。

いつか、大好きな「ONE PIECE」の世界に入ってみたい

──現在22歳ですが、今後の自分に期待していることは?

石井:『記憶の技法』は高校生の役ですが、最近大学生の役をやることも増えてきました。年を重ねるごとに役柄の幅も広がっていくのかなと思うので、感受性を豊かにしっかりと日常生活を過ごしていきたいです。

──チャレンジしたい役柄はありますか?

石井:役柄ではないのですが、私は「ONE PIECE」がとても大好きで、通行人Aでもなんでもいいので、いつかあのアニメの世界観に入ってみたいという思いはあります。自粛期間中も全巻読み返して浸っていました(笑)。

石井杏奈

──自粛期間はどんなお気持ちで過ごされていたのですか?

石井:時代は移り変わっていくものなので、良い悪いはあまり考えずに過ごしました。どんな状況になっても、ネガティブに考えるのではなく、順応していきたい。今回、みな同じ思いをしているので、一緒に一歩を踏み出せたらなと思っています。映画もたくさん観ました。でもあまりはまると昼夜逆転してしまうので、しっかり朝早く起きてトレーニングで汗をかいて、規則正しい生活を送っていました。

──印象に残った作品は?

石井綾野剛さん主演の『そこのみにて光輝く』はすごく印象に残りました。ああいった日常を切り取った作品のなかでしっかり魅せる芝居をいつか演じてみたいなと思いました。

(text:磯部正和/photo:小川拓洋)
(ヘアメイク:八戸亜希子/スタイリスト:粟野多美子)(衣装協力:Ameri[Ameri VINTAGE]/ETRE’ TOKYO/RANDA)

石井杏奈
石井杏奈
石井杏奈
いしい・あんな

1998年7月11日生まれ、東京都出身。ダンス&ボーカルグループE-girlsのパフォーマーとして活動しながら、2012年放送のドラマ「私立バカレア高校」で女優デビュー。その後も『仰げば尊し』(16年)、『チア☆ダン』(18年)、『東京ラブストーリー』(20年)などのドラマ、『ソロモンの偽証』(15年)、『ガールズ・ステップ』(15年)、『四月は君の嘘』(16年)、『心が叫びたがってるんだ。』(17年)の映画などコンスタントに映像作品に出演しキャリアを積んでいる。