『ホビット 決戦のゆくえ』ピーター・ジャクソン監督インタビュー

最新作もヒット中! ファンタジー映画の巨匠が映画作りの苦悩を激白

#ピーター・ジャクソン

『ホビット』を先に撮らなくてよかったと思っている

『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督が手がけた『ホビット 決戦のゆくえ』がヒット中だ。

「指輪物語」のJ・R・R・トールキンの「ホビットの冒険」を映画化した『ホビット』シリーズ三部作の最終話となる本作。『ロード〜』シリーズへと続く壮大な物語で、主人公ビルボ・バギンスと仲間たちの冒険と戦いを描き出す。

今やファンタジー映画の巨匠となったジャクソン監督が、作品に込めた思いを語った。

──『ホビット』シリーズの完結編ですが、感想は?

監督:そうだな。『ホビット』は関わり始めてからずっと興奮しているよ。『ロード・オブ・ザ・リング』のリピートにはしたくないと思っていたんだ。『ホビット』は違う角度を持っているし、新鮮でキャラクターも新しい、物語の筋も違うよね、でも僕は『ロード・オブ・ザ・リング』と『ホビット』のエレメントを結びつけるのを楽しんでいるんだよ。映画を撮った順序だけど、『ホビット』を先に撮らなくてよかったと思っているんだ。だって原作通りに映画を制作したとしたら、子ども向けの映画になっていたと思うんだよ。原作は子ども向けの作品だからね。
『ホビット』『ロード・オブ・ザ・リング』の順に制作した場合、かなり違うものになってしまっていたと思うんだ。突然暗い世界に入っていくというような。でも、僕らは逆から作ったから面白いんだよね。物語が進むにつれて、後に続く『旅の仲間』に繋がるようになるんだよ。最終的には、数年後にはこれらの作品が6本セットで箱に入っていると思うんだ。だから、一貫性は大切に考えているよ。

『ホビット 決戦のゆくえ』メイキング
(C) 2013 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.The Hobbit: The Desolation of Smaug and The Hobbit, names of the characters, events, items and places therein, are trademarks of The Saul Zaentz Company d/b/a Middle-earth Enterprises under license to New Lin

──完結編は、世界を二分する戦いが大きな見せ場ですね。

監督:原作者のトールキンは、この合戦の戦略をとても詳しく表現しているんだよ。だから僕らは彼の描いた青写真に沿って作業している感じなんだ。
『ロード・オブ・ザ・リング』のヘルムズディープやミナス・ティリスで経験したんだけど、戦いのシーンを編集していて強く感じたことは、闘争シーンの2〜3カットに1回はメインのキャラクターが登場しないと飽きてしまうということだったんだ。エキストラやスタントマン、またはCGキャラクターばかりが戦って、戦って、戦って……こういったシーンを2、3カット見たら、ストーリーに戻りたくなるんだよ。それにキャラクターたちがストーリーを引っ張っているんだからね。僕らが試みているのは、戦いの最中でも物語の本筋が繋がっているということなんだ。突然、猛烈な戦闘に巻き込まれてもストーリーの本筋がずれないということなんだよ、そこにはそれぞれのキャラクターが体験している旅、お互いの関係、対立などがあるからね。

全てのエンターテイメントが家のなかで楽しめるというのはあり得ない
──スティーヴン・スピルバーグ監督が、ハリウッドにはブロックバスター(超大作)しか生存できないと言っていたそうです。近いうちにハリウッドが崩壊するようなことは起こると思いますか?
『ホビット 決戦のゆくえ』メイキング
(C) 2013 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.The Hobbit: The Desolation of Smaug and The Hobbit, names of the characters, events, items and places therein, are trademarks of The Saul Zaentz Company d/b/a Middle-earth Enterprises under license to New Lin

監督:そうだな、面白い質問だね。映画業界の将来は予知できないけど、ブロックバスターは今まで通り続くと思うよ。『十戒』や『ベン・ハー』が作られたときから続いているように、映画館の大きなスクリーンで映画を見ることはなくならないと思うんだ。でも低予算の小規模な映画がどうなるかが問題だよね。これはホーム・エンターテインメントと直接関係してくると思うんだ。
 アメリカのケーブルテレビのチャンネルなどは、かなり鋭い(視点の)ドラマをやっているよね。少し前まではこのジャンルは低予算の映画が占めていたんだけど、今ではテレビで高品質な物が見られるからね。だから、そのレベルのものを足を運んで劇場で見てくれるのか、どうなるのか、興味深いよね。僕は、映画は不滅だと思うんだ。劇場で映画を見るためには、外に出て親しい人と食事をしたり、友だちと待ち合わせて、大スクリーンのある暗い大きな部屋に入って……これだけでも素敵なことじゃないか。僕は映画はなくならないと思うよ。出かけるという行為が楽しいんだよ。この先、映画を見る形態がどう変わっていくのかは、わからないけど。僕はどんなに便利になっても、人は家のなかだけでは満足しないと思うんだ。全てのエンターテインメントが家のなかで楽しめるというのはあり得ないと思うんだよ。

ハリウッド・ウォーク・オブ・フェイムでのハリウッド殿堂入りの際のピーター・ジャクソン監督

──撮影中、あなたはどんな1日を過ごしたのですか?

監督:全て撮り終えられるかどうか心配でいつもストレスを感じていたよ。監督だからスケジュールも管理しなくてはいけないし。1本の映画を撮る為には必要な時間があるんだよ。1日の終わりまでには、脚本にあるシーンを全て撮り終えてなくてはいけないんだ。
 僕は朝起きて現場に行くまで、またはベットで横になったまま、「オーケー、これには何ショット必要だろう?」と考える。現場がロケーションなのかスタジオなのかで影響されるし、シーンがどれほど複雑な物なのかによって、1日、6、7カットしか撮れないこともあるんだ。でも日によっては、10〜12カット撮れることもある。それらを総合的に考えて「オーケー、どうやって撮影しようか? オーケー、 5ショットでできそうだな。オーケー、よし、5ショットだ」と決めるんだよ。だから僕にはどれくらい時間がかかるのかがわかっているんだ。午後3時にはどのシーンを撮っているかなどプランを立てているんだ。現場に着いたらすぐにペースを調整しながら始めるんだよ。つまり……結構つらい作業なんだ、だっていつも時計を見ながら、「これは20分前に終わってなければいけなかったのに。次のショットに移らなければ」と思っているんだよ。その上、常に全て撮り終えることも意識していなければならない、1日が終わって撮り漏れがあったら大変なことだからね。難しいよ。

ピーター・ジャクソン
ピーター・ジャクソン
Peter Jackson

1961年10月31日生まれ、ニュージーランド出身。子どもの頃から短編映画を作るなど映画に親しむ。イブニング・ポスト社で写真技術見習いをしている時に「指輪物語」に魅了され、これを基にした『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(01年、02年、03年)を手がけ、アカデミー賞監督賞・脚色賞を受賞、世界的監督となる。その他、『乙女の祈り』(94年)、『キング・コング』(05年)、『ラブリーボーン』(09年)、『ホビット』シリーズ(12年、13年、14年)などを監督。『第9地区』(09年)では製作を務めヒットさせた。

ピーター・ジャクソン
ホビット 決戦のゆくえ
2014年12月13日より公開
[監督]ピーター・ジャクソン
[原作]J.R.R.トールキン
[出演]マーティン・フリーマン、リチャード・アーミティッジ、イアン・マッケラン、オーランド・ブルーム、エヴァンジェリン・リリー、、リー・ペイス、ルーク・エヴァンズ、ベネディクト・カンバーバッチ
[原題]The Hobbit: The Battle of the Five Armies
[DATA]2013年/ワーナー・ブラザース

(C) 2013 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.The Hobbit: The Desolation of Smaug and The Hobbit, names of the characters, events, items and places therein, are trademarks of The Saul Zaentz Company d/b/a Middle-earth Enterprises under license to New Lin