『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』ナオミ・スコット×池松壮亮インタビュー

「愛とは何?」という難問に2人は? ロサンゼルスと東京で共演の喜びを語り合う

#ナオミ・スコット#モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~#池松壮亮

『モダンラブ・東京~』池松壮亮&ナオミ・スコット

「役に自分自身を出して表現して」と言われてとても楽しかった(スコット)

ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事をもとに、現代の愛にまつわる物語を描いたAmazon Originalのドラマ『モダンラブ』(19年)。今回、舞台を東京に移した『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』が完成し、現在、配信中だ。

アメリカを拠点に映画『オー・ルーシー!』などで注目される平栁敦子監督がショーランナーを務めるオムニバス形式の7作の中で、平栁監督が脚本も務めた『彼は最後のレッスンを私にとっておいた』は、オンラインの英会話レッスンの講師と生徒の青年の物語。講師のエマを演じるのは、実写版『アラジン』のジャスミン役で知られるナオミ・スコット。オンライン英会話レッスンの受講者で、エマと愛について語り合うマモルを演じるのは池松壮亮だ。ロサンゼルスにいるスコットと東京にいる池松とzoomを介した取材は、まるでドラマの再現のようだ。時折、ジョークも交えた和やかな雰囲気で、画期的な作品について、共演の感想などを語ってもらった。

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──作品に出演が決まった時の心境をお願いいたします。

池松:『モダンラブ』のファーストシーズンを、コロナの時期にたまたま見ていたんです。まさか日本でそのシリーズの企画が立ち上がるとは思っていませんでした。僕が頂いたお話もすごく面白くて、素晴らしいこのシリーズの取り組みに、ぜひ参加したいと思いました。

スコット:私も敦子さんの『オー・ルーシー!』を見て、すごく良いと思いました。今回の登場人物2人が一緒に展開していくストーリーも大好きです。モダンラブ、つまり現代における愛の物語ですが、“本当にこの人が生涯の人なのか”と考えるところなど、共通点や共感を見つけることができました。それに日本も大好きなので、日本人のスタッフも多いこの作品に関われて本当に嬉しかったです。

Amazon Originalドラマ
『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』
Prime Videoにて配信中
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──ショーランナーでもある平栁監督とのお仕事はいかがでしたか?

池松:すごく面白かったですね。何年か前に『オー・ルーシー!』を見て、素晴らしくてとても印象に残っていました。日本で作品を撮ってくれないかな、と思っていたところで、今回出会えました。サンフランシスコ在住の方ですが、1人でアメリカに渡って逞しく生きて、国際結婚されていて、今回のストーリーと人生で通じる部分がたくさんあったと思います。アメリカで撮影したのですが、現地で戦っている姿というか、それを見られただけでも面白い経験になりました。

スコット:私も敦子さんと一緒に仕事ができて、本当に良かった。楽しかったです。オーセンティックな演出へのこだわりを感じて、彼女のテイストを信頼できました。すごく直感的な方だと思いました。
何を信じているか信じてないか、すごくはっきりしていて、彼女の直感を信じることができました。そしてコラボレーションというものを重視している方だと思いました。求めているものが明確で、エゴもない。私たち役者に「自分を出して。演じるこの役に自分自身を出して表現して」と言われて、とても楽しかったです。

池松:(何度も頷く)

──特に印象的だった監督とのやり取りは、どんなものでしたか?

池松:話した内容というよりも、一緒に笑い合った日々のことは覚えてるんですけどね。

スコット:難しい質問ですよね。特定の会話とか、これが記憶に残っている、というよりも、とにかく一緒にいることが楽しかった。何かを作りたいという人たちが集まっていたので、彼女のそばにいられたことが楽しかったです。ユーモアに溢れた人なんです。それってすごく重要だと思うんです。長時間セットにいて、みんなが疲れ果てている時はユーモアが大切なので。壮亮さんと同じで、一緒にいることが楽しかった。

──池松さんはいかがですか?

池松:今ちょっと流そうとしてました(笑)。この作品は全編ロサンゼルスでの撮影でした。互いに違う言語と国籍をもつマモルとエマを接続する役割を担ってくれて、2人を見事にサポートしてくださいました。ご自身もパワフルでユーモアがあって繊細で大胆でかつチャーミング。一緒に仕事ができてうれしかったし、僕は慣れない環境に飛び込んだので、平栁さんが真ん中にいてくれたことが、現場にとっても僕自身にとっても、僕たち2人にとっても、すごく良かった。2人を接続する役割として……(考え込んでから)すみません、ちょっとまだ起きてないんですよ(笑)。こっちは朝すごく早くて。(スコットに)そっちは夕方でしょ?

スコット:今、何時なの?

池松:9時。

スコット:(笑)。朝の5時とか言うのかと思った(笑)。

小さな愛の物語の結晶が一人一人の心に届くことを願っています(池松)

──監督が執筆した脚本を読んで、どう思われましたか? 私は『オー・ルーシー!』の設定を裏返したみたいな面白さも感じました。

池松:今回もニューヨーク・タイムズに載った実話コラムをもとにしたストーリーで、実際は韓国の方なんですけど、ベースとなったそのお話もとても良くて、それを見事に30分程度という時間に切り取ってあって、これは面白いなと思いましたね。日本で恋愛ものというと、ティーン向けのものが量産されてますけど、この作品は恋愛ものというよりも本来の意味を持ったラブストーリー、人を想うことについて、30分という時間で正面からやり切ろうとしていて、そこにとても好感を持ちました。世界の転換点において、愛とは何か? What is love for you? を、小さな、けれども確かにある物語の力を借りて、フィクションとして問い直す。そのことに、この作品の可能性を感じていました。

スコット:脚本の中ですごく惹きつけられたのは「愛は努力だ」と言うマモルのセリフです。エマが置かれた状況を反映していると思います。彼女は正しい選択をすることや誰かにコミットすること恐れている。彼女が学ぶのは、おとぎ話や完璧なラブストーリーはないということです。愛について、自分と同じぐらい努力したいと思っている人を選ぶことが大切。もちろん、直感や絆も重要だし、これもマモルの言葉ですが、何かを育てる時には水やりをしなければいけないということ。欧米で愛を話題にするときにはない感覚で、そこはすごく際立ったと思います。

私たちは間違いたくないから、選択すること自体を恐れる。でも、いずれ何かを選ばなければいけない。そのアイディアと自分自身につながりを感じることができました。期待と現実が行き交う描写も楽しかった。エマが空港に降り立ったシーンである映画の引用がありますが、敦子さんはあれをやりたかったんですよね(笑)。すごくロマンティックな期待と現実の落差が面白かった。映画みたいにキラキラしていないのが現実だけど、だからと言って価値がない訳じゃない。むしろ、だからこそ突きつめるべきだと思わせてくれます。

『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』

──愛は努力という話が出ましたが、私もマモルと同じ質問をしたいです。お二人にとって、愛とはなんですか?

スコット:壮亮さんが話そうとしてる。先にどうぞ。

池松:してないしてない(笑)

スコット:私はエマなのでわかりません(笑)。壮亮さん、お願いいたします。

池松:……。フリーズしてます(笑)。

スコット:壮亮さん? フリーズしてる? 答えたくないから、フリーズしたふりをしてる(笑)? じゃあ私から。英語ではミリオンダラー・クエスチョンと言いますけど、本当にそれがわかれば誰も困らないですよね(笑)。愛というのは、本当にいろんなこと。自分の人生のステージで変わっていくものだと思います。例えば私は子どもがいませんけど、子どもを持ったら愛の意味は変わると思いますし、また違う愛の形になっていくんだと思います。私は夫になる人と長く交際していたので、結婚した時すでに彼のことをよく知っていました。ただし10年後、愛はさらに育って違う形になっているのかもしれない。より深いものになっているかもしれない。常に形は変わっていく。変容していく、ということかな。ごめんなさい。難しくて答えられません。

池松:いや、とてもちゃんと答えてる。

スコット:そう? ありがとう。

──池松さんは、いかがですか?

池松:朝9時から答える質問ですか、これ(笑)?

──確かに、何時にお聞きしても難しいです。すみません。

池松:(笑)いえいえ、でも答えは出ないですよね。人類史も未だ答えを見つけていません。そして永遠にひとつの答えは出ないと思います。

スコット:私もその通りだと思う。

池松:愛とは何ですか……。愛とは、いわば概念ですよね。人によって、捉え方も対象もいろいろあるでしょうし、1人1人にとって様々なもの。例えば“映画とは?”または“神様とは?”と聞かれるくらいひとつの答えがないものです。先程この物語の可能性が愛とは何かを問い直すことにあると言いましたが、このモダンラブシリーズ全体においての可能性は、愛はそれぞれ様々な形があれど、わたしたちは繋がっているんだよということを教えてくれることにあると思います。愛というその一点において。世界の分断が極まる中、この小さな愛の物語の結晶が、一人一人の心に届くことを願っています。

壮亮さんがスクリーンに出てくると、みんな恋に落ちるんです(スコット)

──共演してみての感想をお聞きしたいです。撮影する前に想像していたイメージと、撮影が終わる頃に印象が変わったりしたでしょうか。

池松:2週間という短い時間を共にしましたが、出会ってから最後まで印象は変わらなかったですね。最初から本当に素晴らしい方でしたし、今取材をしていて、彼女が答えている様子や態度、言葉でわかると思うんですけど、芯からヒューマニストというか。現場ではものすごい明るくて、ずっと歌っていて。

そうだ、印象が変わったといえば、僕はナオミさんが女優に加えてプロのシンガーでもあることを知らなくて、現場で歌ってる彼女に日本語で「めちゃくちゃ上手いじゃん!」とか言っていたんですけど、彼女から歌の仕事もしていると聞いて、「プロに向かって言ってたんだ……」と(笑)。あとは繰り返しになりますが、1番近くでお芝居を交わして、ナオミさんの愛情深さ、お芝居の素晴らしさ、人としての心の広さ、深さに日々感銘を受けました。こんなことははじめてです。

スコット:壮亮さん、すごくスイートな褒め言葉をありがとうございます。私たちには言葉の壁が多少ありましたが、彼が魂のこもった演技をしているのはわかります。言葉の壁があるからこそ、お互い目と目を見て、意図を理解し合える。言葉がないところでも繋がられるんです。言葉がなくても理解し合えるし、キャラクターのことをお互いがちゃんと理解してたし。

壮亮さんがスクリーン上に出てくると、みんな恋に落ちるんですよ。マモルのキャラクターが前面に溢れ出てくるので、すごくスイートなんだけど、優しいだけじゃなくって、ちょっと皮肉屋さんなところがあるんですよね(笑)。言葉は通じないんだけど、相手を少しずつ知っていくと、セットで「今、皮肉屋さんの彼になってたでしょ」とわかるんです。それが楽しかったです。今もほら、見てください、この美しい顔。誰もが恋に落ちるのが当然でしょ(笑)?

『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』

Earthの発音とか、50回ぐらい教えてもらったような気がする(池松)

──池松さんは共演する中で、発見や学んだことがありましたか?

池松:ナオミさんという人に日々感動がありました。そのことが発見であり学びでした。言葉がわからないし、全部通じ合えるわけではないんですけど、それでもナオミさん自身が、仕事相手だろうが誰であろうが人として向き合っていることが分かったし、僕が英語を喋れない中……

スコット:喋れるでしょう(笑)。英語を話せないとはもう言えないですよ。

池松:いやいや(笑)。でも、そんなふうに僕が迷子になってる中で、ものすごく助けてくれました。とても感謝してます。

──ナオミさん、池松さんの英語について、英会話教師でもあるエマの厳しい目で見ると、いかがでしたか?

池松:(笑)

スコット:彼が英語の演技をしているのをずっと見てきました。その日に学んだフレーズでも、すごく自然に見せる。それがすごいと思いました。ある意味で完璧だったんですよね。マモルは英語を学んでいるという設定なので、それがうまく作用して、キャラクターにも肉付けされて、現実に根付いたオーセンティックな彼がキャラクターとして浮き立っていたことに感動しました。だから私の方こそ、一緒に仕事しやすかったです。本当に言葉だけが人と繋がる方法じゃないんだと学びました。

池松:本当に逐一教えてくれました。Earth(地球)の発音とか。何回も何回も、50回ぐらい教えてもらったような気がする。

スコット:英語は私にとって母国語だから、お役に立てればと思いました。でも決して手取り足取り教えた訳ではなくて、準備は万端でいらしたと思います。一番努力をしたのは壮亮さんです。仮に私が彼の立場だったら、彼と同じことはできなかったと思うんです。違う言語で演技しなさい、セリフを言ってみて、と言われたら、自分ができるかどうか自信ないです。

──マモルは、エマの友人から「ミスター・コーニー(Corny:陳腐)」と呼ばれるくらい、すごくベタなセリフを次々とエマに投げかけます。英語とは言え、口にするのが難しいようなセリフでした。

池松:確かに日本語だったら無理だったかもしれないですね。逆にいうと、英語だから言えるという言葉はわりとある気がします。

スコット:(笑)

池松:ちょっと話は戻りますが、コロナという未曾有の体験を経て、今もそうですが、この3年で人との距離や壁を今までになく体感しました。それをどうやったら超えられるんだろうと、俳優として僕が出来ることは何なのか、散々考えました。そして、もう飛び越えてしまえという気持ちになりました。そういう姿勢を示さないと、というか、リスクを冒してでも、フィジカルなことを選ぶしかないと思って渡米して。ものすごく苦労しましたけど(笑)。言葉に関しても、普段は絶対言葉にしないことかもしれないけれど、そういう壁をどんどん超えていくことで、相手を理解しようとすること、理解されようとすることに逃げずに待たずに自らが努力し続ける。そういうことがこの役を作っていけるんじゃないかなと思いながら、やりました。とはいえ英語でも恥ずかしいことは結構ありましたね。

──どんなことを意識されましたか?

池松:普通の回答になるんですけど、目の前のエマを信じること、そのキャラクターを信じさえすれば、人前で言えないことも真実になります。2人の間で真実になれば、物語は成立します。そこにリアリティを築きあげることが出来れば、言えたりするんです。やっぱり彼女の存在に随分助けられたと思いますね。互いに虚構の中でちゃんとキャラクター同士の物語を積んでいけたんだと思います。ナオミさんのおかげです。

──ナオミさんは、日本にまで飛んでくるエマの行動力について、どう思いますか?

スコット:衝動的ですよね。エマは本来、もうちょっと臆病だと思います。でも行かなければいけないと思った。失敗してもいいから、自分の直感を信じて、従ってみようということだと思います。私は彼女に比べると衝動的ではないかもしれません。自分の勘を信じないで、失敗したと後悔することも多くて。どちらかという考えすぎるタイプですね。エマの本来の姿と似ていると思います。でも私も新しいこと試すのが好きだし、人に会うのも好きだし、結構冒険もするし。少し傷ついてもいいから、やってみたいと思うところがあるし、それは役者としてはすごく重要な要素だとも思います。誰もそうですけど、私も失敗することは恐れます。それでも、少しずつ自分をさらけ出すことはうまくなってきてると思います。この数年間は、苦手なものに挑戦したり、得意なことだけをする安全圏に留まらないようになってきた。そういうところはエマと似ているかもしれません。

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(text:冨永由紀)

<作品概要>
Amazon Originalドラマ『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』Prime Videoにて配信中
Amazon作品ページ(https://www.amazon.co.jp/dp/B0B6T3R3TL)

ナオミ・スコット
ナオミ・スコット
Naomi Scott

1993年5月6日生まれ、イギリス出身。2009年にディズニーチャンネルUKのTVドラマ『Life Bites(原題)』でデビュー。アメリカのSFドラマ『Terra Nova ~未来創世記』(11年)、映画『レモネード・マウス』(11年)や『チリ33人 希望の軌跡』(15年)、キンバリー・ハート/ピンクレンジャーを演じた『パワーレンジャー』(17年)などを経て、2019年の実写映画版『アラジン』でディズニープリンセスの1人であるジャスミンを演じた。同年には『チャーリーズ・エンジェル』で3人のエンジェルの1人を演じた。ほかに『ある告発の解剖』(22年/Netflix)などに出演。

池松壮亮
池松壮亮
いけまつ・そうすけ

1990年7月9日生まれ、福岡県出身。2003年にトム・クルーズ主演の『ラストサムライ』で映画デビューを果たす。同作では主人公と心を通わす少年を演じて第30回サターン賞若手俳優賞にノミネートされた。その後も映画、ドラマで活躍し、海外作品への出演も多い。近年の主な映画出演作は『宮本から君へ』(19年)、『アジアの天使』(21年)、『ちょっと思い出しただけ』(22年)など。出演した中国映画『柳川』が12月30日から全国順次公開されるほか、2023年公開予定の映画『シン・仮面ライダー』では主演を務める。