『ライダーズ・オブ・ジャスティス』アナス・トマス・イェンセン監督 インタビュー

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アナス・トマス・イェンセン

北欧の最強タッグが復活! 盟友が語るマッツ・ミケルセンの素顔

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』
1月21日全国公開
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デンマーク・アカデミー賞で最多15部門ノミネートを果たし、4冠に輝いた話題作『ライダーズ・オブ・ジャスティス』。列車事故で妻を失った軍人と、事故は仕組まれたものだと主張する数学者たちが偶然に導かれて出会い、それぞれの正義へと立ち向かう姿が描かれている。

映画批評サイト「Rotten Tomatoes」をはじめ、海外メディアでも高く評価されているが、多くのファンを惹きつけているのは、“北欧の至宝”と称され、ハリウッドでの活躍も目覚ましい主演のマッツ・ミケルセン。コメディあり、アクションありの本作で、復讐に燃える軍人マークスを熱演している。そこで、本作で5度目のタッグとなる盟友アナス・トマス・イェンセン監督に、制作までの過程や現場の様子、そして名優の素顔について話を聞いた。

・マッツ・ミケルセンが凶暴軍人になって大暴れ!?『ライダーズ・オブ・ジャスティス』場面写真

──まずは、本作のストーリーをどのように構築していったのかを教えてください。

イェンセン監督:今回は、いろんな物語を1度にまとめて思いついたところがありましたが、スタート地点はマークスでした。彼は僕と同じように“中年の危機”の真っ只中にいて、娘や周りの人たち、そして自分の人生とうまく向き合えなくなっているキャラクター。でも、さまざまな経験をするなかで、生きる意味が何となくわかるようになり、人生だけでなく、世界というより大きなものと繋がっていけるようになるのです。そういったところと、人生における偶然というものを盛り込んでいったので、すごく重層的な物語になったと思っています。

──最強の軍人と理数系スペシャリストという組み合わせも、非常におもしろかったです。

イェンセン監督:彼らは真逆のようで、少し似ているところがあるんですよね。なぜなら、メインキャラクターは全員、家族を何らかの形で失ったことがあるので、人生において同じような道のりを経験しているからです。そういった彼らがひとつのファミリーになるというのは、この映画におけるテーマにもなっています。
ただ、同じ旅路の途中にいても、暴力や復讐といった表面的な行動に出る軍人のマークスと、科学的なアプローチをする数学者のオットーでは、人生の意味の見つけ方が大きく異なる。どちらが正しいとは言い切れませんが、少なくとも人生における偶然とどう向き合うかという部分に関しては、誰もが同じだと感じています。

──今回、マークス役にマッツ・ミケルセンをキャスティングしたのは、なぜでしょうか。

イェンセン監督:僕は彼が出演していない映画を監督したことがないくらいなので、脚本を書いてるときから、彼のことを考えていましたよ。最初はオットーとどちらでもいいかなと思っていましたが、これまで僕の作品では、エキセントリックな役が多かったので、それとは逆にマークスのようなマッチョな役を演じてもらったらおもしろいんじゃないかなと思ってお願いしました。

──本作のオファーをしたときのリアクションはいかがでしたか?

イェンセン監督:まずは、家族を扱っている物語であるところをすごく気に入ってくれました。というのも、僕にもマッツにも娘がいますし、大きな問題と向き合うときに家族との繋がりをしっかりと持ち続けることの難しさを2人とも経験したことがありましたからね。そういう心情には通じるものを感じてくれていたのではないかなと。あと、彼はアクションパートを演じるのが大好きなので、そういった部分も気に入ってもらえて、非常にうれしかったです。

──そのなかで、何か特別に演出したこともありましたか?

イェンセン監督:それは特にありませんでしたね。というのも、僕たちはすでに25年の付き合いがありますし、監督作と脚本だけを手掛けた作品を含めると、彼とは15本ほど一緒に仕事をしてきましたから。僕からすると彼は完成された役者なので、演出するよりも、渡した脚本に彼が何をもたらしてくれるのかを見るほうが好きなんです。もちろん、制作の過程でいろいろと意見を出し合ったこともありましたが、最初からこちらがこうして欲しいとお願いすることはありませんでした。

──長年ご一緒されている監督から見た俳優マッツ・ミケルセンの魅力は、どんなところでしょうか。

イェンセン監督:彼は自分の存在だけをいいものにしようとするのではなく、映画作りに責任を持って臨んでくれる人。チームプレーを重視し、みんなでいい作品を作るための努力を惜しまないので、共演者やスタッフが上手くいっていないときにはいつも助けてくれます。それによって、自分のキャラクターが一歩後ろに下がることがあったとしても、彼は他人を助ける道を選ぶでしょうね。これは本当に珍しいことだと思います。
あとは、彼の身体能力の高さも魅力的ですよね。元ダンサーということもありますが、セリフ回しも素晴らしいし、何と言ってもあの顔立ちですから(笑)。生まれながらにして役者になるべき人だと言えるんじゃないでしょうか。彼は世界最高峰の役者の1人だと僕は思っています。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』

──では、人としての魅力を挙げるとすれば?

イェンセン監督:とても好奇心があるところと、負けず嫌いなところですね。ただ、彼の負けず嫌いは、子どもっぽいなと思うくらいで、たとえば「あの箱をジャンプして乗り越えるのは絶対に無理だよ」と言うと、すぐに走り出して乗り越えようとするほど(笑)。どんなことも勝たなければ気が済まないんでしょうね。でも、50代になっても変わらないのはとても素敵だなと思います。

──本作のテーマには深刻な部分もありますが、ユーモアとのバランスが絶妙だと感じました。そのあたりは、どのように考えていましたか?

イェンセン監督:どんな作品でも、僕はつねにそのあたりのバランスを意識しています。というのも、ストレートにシリアスなテーマを描くよりも、スプーン1杯分の砂糖を混ぜるようにユーモアを入れたほうが観客に拒否されることなく、受け入れてもらえると考えているからです。そういう意味でも、僕はユーモアをとても大事にしています。ただ、バランスという面においては、今回ほど難しいことはいままでなかったかなと。それはキャラクターが人生の意味を見い出せず、喪失といった重いがテーマに背景にあったからだと感じています。

──なるほど。そのなかで、最終的にバランスを取るカギとなったのは何でしょうか。

イェンセン監督:構図としては、マークスとコンピューターオタクたちの真ん中にオットーがいるので、彼が2つの世界を繋ぐ“のり”のような役割を果たしています。そのために、脚本を書いているときも、撮影しているときも、編集中も仲介者であるオットーにかなり注目して作業を進めたほど。当初はオットーにも笑えるセリフは結構ありましたが、それらを削っていくことでバランスを取りました。

──本作で描かれているように、人生にはさまざまな偶然と出会いがありますが、監督自身もそういった人生の分岐点を経験されたことはありますか?

イェンセン監督:僕の経験からすると、人生とは偶然の出来事がランダムに続いていくもの。どの分岐点においても、そう言えると思ってます。たとえば、学生時代の学校もたまたま親がその地域で仕事を得て住んでいたから入っただけだったりしますよね? 僕たちは人生をコントロールしていると思いたがるところがありますが、意外と自分で選択することなく偶然によって道が決まることもあるんです。そう考えると少し怖いところもありますが、それを受け入れられると、これから起きることに対してオープンに生きているとも言えるので、ある意味素敵なことなんじゃないかなと。もちろん、いいものにするための努力は必要ではありますが、右を選んでも、左を選んでも、起こるべきことは起きるものだと僕は思っています。

──それでは最後に、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。

イェンセン監督:これはどの作品においても言えることですが、みなさん自身の人生を作品のなかに見い出していただきたいと考えています。僕は、もう少しで悪いことに巻き込まれていたかもしれないということがあった場合、起きなかったことに対する喜びを反芻するようにしていますが、人生においてはたとえ小さな出来事でも繰り返し考えることが大事なもの。そういったことがこの映画を通してできればうれしいですが、まずは何よりも楽しんでいただきたいです。

(text:志村昌美)

アナス・トマス・イェンセン
アナス・トマス・イェンセン
Anders Thomas Jensen

1972年4月6日生まれ。デンマーク・フレズレクスヴェアク出身。監督を務めた短編が1997年から3年連続でアカデミー賞短編映画賞にノミネートされ、『Valgaften(原題)』(98年)が第71回アカデミー賞短編映画賞に輝く。2000年に『ブレイカウェイ』で長編監督デビューを果たしたのち、『フレッシュ・デリ』(03年)、『アダムズ・アップル』(05年)、『メン&チキン』(15年)で監督・脚本を務め、本作が長編監督5作目となる。脚本を手掛けた主な作品は、『アフター・ウェディング』(06年)や『ある公爵夫人の生涯』(08年)など。最新作は、アントニオ・バンデラス主演のTVシリーズ『The Monster of Florence(原題)』の脚本を予定している。