『ひらいて』山田杏奈インタビュー

「奪いたい」という欲求って、多分みんな持っている

#ひらいて#小説#山田杏奈

山田杏奈

学校が社会の全てみたいになっちゃうから、必死になる

校内で目立つ存在で友人も多く、男子にも人気の高校3年生・木村愛には、人知れず恋焦がれているクラスメート、西村たとえがいた。だが、彼にもまた密かに心を通わせる秘密の恋人=新藤美雪がいて……。

『ひらいて』
2021年10月22日より全国公開
(C)綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

2人の関係を知っても、気持ちを抑えることのできない愛は、ある行動を起こす。それはやがて、思いも寄らない結末へと向かっていく。

綿矢りさの同名小説の映画化『ひらいて』で、主人公・愛を演じるのは、今年20歳になった山田杏奈だ。

恋愛感情をエネルギーに暴走し、周囲を巻き込むことも恐れない少女の激しさを全身全霊で表現した彼女には、愛とは似て非なる“ブレなさ”を感じる。語る言葉1つ1つにプロ意識と聡明さがある。

悩みながら演じた役柄について、仕事観、そして昨年から今も続くコロナ禍をどう過ごしているかを率直に語ってくれた。

[動画]山田杏奈インタビュー

山田杏奈「全然見えませんでした」ホラー映画の現場でガッカリ

──首藤凜監督は、愛というキャラクターはリアルに10代の人に演じてほしかったとのことですが、最初にお話が来た時どう思われましたか?

山田:愛という役をやるという前提で、原作と台本を読ませていただいたんですが、最初は本当に「分からない」となりました。お話として、愛の暴力的とも言える突っ走っている感じにはすごく引き込まれましたが、自分がやるとなると、もっと理解してやらなければ、と思ったので、「どうしよう」という思いが一番大きかったです。

──このストーリーが面白いと思ったのは、病弱な美雪(芋生悠)と彼女にずっと寄り添うたとえ(作間龍斗 HiHi Jets/ジャニーズJr.)が主人公の恋物語という視点に立つと、愛は一種の敵役のような存在であるところです。観客が共感しにくいタイプの主役に、どのようにアプローチされましたか?

山田:今回に関しては、あまり共感させようとは考えなかったです。いつもは確かに、例えば主人公だったら、見てる人が共感できることはある程度大事だなと思いますし、一般的な感覚に寄せて、それを基準でお芝居するほうが多いんですけど、今回は逆に外れていったほうがいいというか。
「奪いたい」とか「自分のものにしたい」という欲求って、多分みんな持っているものだと思うんです。私も持っていますし。でも、それを行動に移す愛に感情移入はなかなかできないと思うので、今回は根本的なところは大事にしつつ、振り切るところは振り切ったほうが、逆にそういう人物として、愛という人を楽しんでもらえるんじゃないかと思いました。

──監督には「分からないまま演じてほしい」と言われたそうですね。

山田:現場では「分からないままでいいよ」とは一言も言われてないんです。私は「分からないです」とずっと言ってたんですけど、監督は「うん」というだけで、考えさせる。監督は愛のことが分かる人なんです。「じゃあ、なんでこうしてると思う?」みたいな話をずっとしてくださって。私は分からないままでいいとは一回も思ってなくて、ずっと考えて考えていました。それが、終わった後に監督から「いや、分からないよね」と言われて、「えー!?」みたいな感じでした、実は(笑)。
今でも愛のことを分かったとは思わないですけど、分からないなりに、根本にある感情は持ってたので、そこを手がかりにやっていく感じでした。

──根本にある感情というのは何ですか?

山田:三大欲求に近いぐらいの大ざっぱなものなんですけど、自分のものにしたいとか、社会的なことを何も考えなかったら私だってできる、みたいなことです。そこから広げていきました。愛としても、たぶん100パーセント整理はついてない行動だろうとは思ったので、そこは突き詰め過ぎずにやろうというところに落ち着きました、最終的には。
できる努力は全てして、でも「分かんなかったから、もうしょうがない」となりました、今回は。だって人殺す役に共感できないじゃないですか。
全部理解することは難しいと思う。共感じゃなくても想像というか、なるべく寄り添ってあげる作業は絶対にいつもするんですけど、今回はそれが結構難しかった役でした。
首藤さんに「思い切りがいいね」と言っていただけたんですけど、私自身は周りの同世代の人よりは落ち着いちゃってるところもあると思うんです。それを逆に、もっと必死に考える方向に持ってくのもお芝居の中ではしてましたね。学校が全て、みたいな。私はもう、学校が全てじゃなくなっちゃってましたが、まだ記憶に新しい部分ではあったので。

──それを聞いてみたいと思ってたんです。10代前半からお仕事を始めていた山田さんの目には、愛たちはどういうふうに映っていたんでしょうか。

山田:必死だなって。私の場合は、救いだったのが仕事です。仕事と学校と2つ世界があったので、学校が全てじゃなかったんですよね。
でも、高校生を演じる上でいつも忘れないようにしなきゃと思うのは、高校生にとっては高校が全てになってしまうことです。学校が社会の全てみたいになっちゃうから、それだけ必死になるんですよね。だから、愛を演じる上でも、もっと必死に、パワフルでいなきゃいけない、ということはすごく考えてました。

──撮影は昨年、足利で行われたそうですね。現場の雰囲気はいかがでしたか?
山田杏奈

山田:和やかでした。スケジュール的にはあんまりゆったりではなかったんですけど、みんな優しい方でしたし、一個一個順番に撮っていくって感じでした。

──コロナ禍の最中で、撮影現場の雰囲気も以前とは違いますよね。例えばみんなで一緒にご飯に行くこともできないし、コミュニケーションを取るのに苦労したりはなかったですか?

山田:今回は、みんなでご飯とか、もちろんできなかったですし、打ち上げもないですし。でも、みんな仲良かったです。ただ、そんなにベタベタ仲良くなる必要はなかったというか。役的にもそうだったし、3人それぞれマイペースな人たちだったので。現場の空き時間だけでも十分、必要なコミュニケーションは取れていました。ワイワイはしゃぐわけではないですけど、根本の部分の共通認識みたいなものは現場の中ではもう十分できていました。

──むしろ純粋に作品に打ち込める環境だった?

山田:そうですね。あまり現場の外での時間が長くなっちゃうと、ちょっと違う関係性が生まれちゃうというか。お互いに対して違う時間軸を過ごして、みんなフラットな状態になると、私は特に、ちょっと変わってきちゃう部分もあるかと思うので。今回はすごく心地のいい関係性でしたし、現場の雰囲気もすごくやりやすい、お芝居しやすい環境でした。

──現場で話すのは、やっぱり役についてだったりするんですか?

山田:いや、もう全然関係ないこと話してました。芋生さんは撮影が先に終わったときに「残り、頑張ってね」みたいなメモを置いてくれたり。多分、美雪が手紙を書くから、それでやってくださってたんですけど、そういう優しいコミュニケーションを取ってました。
何よりお芝居しやすい環境だったなって、今になって改めて思います。

お芝居が好きで楽しいから、続けられている

──首藤監督は26歳で、年齢もかなり近いですよね。

山田:単純に世代の近い会話ができるのは、かなり大きかったなと思います。女性同士というのもありました。年齢とは関係ないですけど、首藤さんが同じ熱量で話してくださったのは、ほんとにありがたくて。首藤さんと話す中で、愛をちょっとずつ作っていきました。

──首藤さんは原作小説がすごく好きで、思い入れもとても強かったようですね。

山田:「私はこの映画を撮るためにここまでやってきた」と聞いた時は、「どうしよう……私、でも分かんない」と。でも、逆に一番思い入れがあって、愛のことを分かってる人がすぐそばにいたので、心強かったです。あれだけ思い入れがあったら、「こうしたい」とある程度決まってると思うんですけど、それだけじゃなくて現場で生まれるものもすごく大事にしてくださったので。お芝居しながら変わってくものとか生み出されるものもすごく大事にしてました。

──何か具体例があったら、教えていただけますか?

山田:たとえを夜の教室に呼び出すところ。実際の場所の温度感もありますし、首藤さんとも本番前にいろいろ話したんですが、全然用意してたものとは違うというか、全然想定してなかった気持ちにもなって。お芝居としてもすごく新鮮な感情でやったなという感覚がすごくありました。

山田杏奈

──愛のようなキャラクターを演じると、役にうまくハマればハマるほど、ご本人と役柄を混同して受け取られたりすることもありませんか?

山田:それは今まで思ったことがないかもしれないです。でも、そういう印象を与えられたのなら、それは役としては成立しているということなので、逆に良かったと思います。山田杏奈自身と役は、当たり前ですけど違うので、お芝居はお芝居という感じです。それが恋愛物だろうと、サスペンスやホラーだろうと、やりたい、やりたくないを考える時に、どういう役か?ということはあまり考えないかも。脚本の面白さとか、そういう方を考えます。

──お話を聞いていると、演じることが本当に好きなんだな、と伝わってきます。このお仕事を目指したきっかけは何ですか?

山田:10歳の時にオーディションを受けたんです。ゲーム機が賞品で、それが欲しくて応募したのが最初のきっかけです。表に出る仕事がしたいとは全然思っていなくて、お芝居も事務所のレッスンで初めてやりました。そこから今まで続けられているのは、ほんとにお芝居が楽しくなったからです。15歳ぐらいから現場でお芝居させてもらう機会が増え始めて、それからちょっと感覚が変わった記憶はあります。

山田杏奈

──主演の機会も増えてきて、責任も増してきましたね。

山田:今はいい意味で、「仕事」という感覚になりました。昔はそれこそ、習い事みたいな気持ちでやっていました。仕事してやってはいるけど、「好きだからやってる」だけだった時期もあります。でも今はダイレクトに生活に関わってきて、生きるためにやっているという自覚も強くなっています。でも、それだけじゃやっていけないな、無理だな、とも思います。私はあくまで、お芝居が好きで楽しい、というのがあるから、続けられているんだと思います。

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──最後に、昨年からコロナ禍が続いて、いろいろなことが大きく変わりました。山田さんはこの2年近くをどう過ごしてきたか、そして今後どのようにしていきたいかを教えてください。

山田:ちょっと時間がたって、こういう状況が日常の一部になりつつあるじゃないですか。でもやっぱり、何年後に振り返ったときに、この期間はそれこそ教科書とかに載るようなことになってると思うんです。誰も体験したことがないような、で探り探り生きている。私は役者という身なので、とりあえずちゃんと覚えておこうという感覚はあって。今どれだけ不自由な思いをしてるか、とか、どれだけもやもやしたものをみんなが溜め込んでいるのか、とか。人間はこういう状況になったらどう動くんだろうとか、そういうことを私はちゃんと記憶しておきたいなとも思います。
今できることって……、当たり前が当たり前じゃなくなってる日々なので、親にもよく連絡取るようになりましたし、ちゃんと伝えられるときに伝えるのはすごく大事だな、と思います。こういう環境になると、身をもって「そうだよね」と思ってる人も多いんじゃないかなと思います。

(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)

山田杏奈
山田杏奈
やまだ・あんな

2001年1月8日生まれ、埼玉県出身。2011年に開催された「ちゃおガール☆2011 オーディション」でグランプリを受賞し、デビュー。『ミスミソウ』(18年)で映画初主演。『小さな恋のうた』(19年)で第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞受賞。ドラマは『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(20年)でW主演を務め、『書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜』(21年)などに出演。映画は『ジオラマボーイ・パノラマガール』(20年)、『樹海村』(21年)にW主演し、『名もなき世界のエンドロール』(21年)、『哀愁しんでれら』(21年)、主演作『ひらいて』(21年)に続いて『彼女が好きなものは』(21年)にヒロイン役で出演。2022年は5月に放映開始のNHK総合 土曜ドラマ『17才の帝国』、WOWOWオリジナルドラマ「早朝始発の殺風景」に出演。