【あの人は今】早熟な天才女優から一転、万引き事件を経て異才を放つ存在に変化

『THE ICEMAN 氷の処刑人』のウィノナ・ライダー
(C) 2012 KILLER PRODUCTIONS, INC.
『THE ICEMAN 氷の処刑人』のウィノナ・ライダー
(C) 2012 KILLER PRODUCTIONS, INC.

ウィノナ・ライダー

こんなはずじゃなかった。誰よりも本人がそう思っているんじゃないだろうか。1980年代後半、まだ十代のウィノナ・ライダーはそれこそ無限の可能性を秘めた新星だった。

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小柄で大きな瞳が愛らしいお人形のような外見なのに、ティム・バートン監督の『ビートルジュース』(88年)で元祖ゴスロリみたいな少女を演じ、『ヘザーズ/べロニカの熱い日々』(89年)ではスクールカーストがはびこる高校生活の実態を暴いてみせ、あっという間に同世代の支持を得た。両親はヒッピー、後見人はLSD研究で知られる心理学者のティモシー・リアリー、好きな音楽はパンク……とサブカル色満載のバックグラウンドも注目されたが、とにかくスターとしての存在感、そして演技力がずば抜けていた彼女には、次々と主演作が用意された。

そのうちの1本が、前年から交際していた恋人、ジョニー・デップとの共演作『シザーハンズ』(90年)だ。ジョニーとティム・バートン監督の盟友関係はつとに有名だが、実はこの2人を繋げたのはウィノナということになる。いまや、ジョニーと交際の事実さえ知らない人も少なくないかもしれないが、当時は2人一緒に雑誌の取材に応ずるなど、かなりオープンに振舞っていた。ゴシップのネタ提供だけではなく、ジャームッシュ(『ナイト・オン・ザ・プラネット』91年)、コッポラ(『ドラキュラ』92年)、スコセッシ(『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』93年)等々、錚々たる巨匠、名匠の作品でヒロインを演じ、本業でも快進撃を続けていた頃は、まだ21か22という若さ。『エイジ・オブ〜』ではゴールデングローブ賞助演女優賞受賞、アカデミー賞助演女優賞候補にもなり、94年の『若草物語』ではアカデミー賞主演女優賞候補、と早熟な天才女優としてハリウッドに君臨していた。

婚約までしたジョニーとは93年に破局し、その後はいわゆる大作よりもドラマ性重視の作品にコンスタントに出演、99年には『17歳のカルテ』で主演と製作総指揮を兼ねた。ちなみに同作ではアンジェリーナ・ジョリーがアカデミー賞助演女優賞を受賞。ウィノナを取り巻く状況は、この頃から変化していったように思える。アンジェリーナやグウィネス・パルトロウなど、後進の同世代女優に活躍の場を奪われ始めたのだ。黙っていても、いい脚本は送られて来る。そんな時期はいつの間にか過ぎ去っていた。

30歳になった2001年12月、彼女はロサンゼルスで被害額5500ドル相当の万引き事件を起こし、逮捕される。このダメージは大きく、その後も映画出演は続けるも、作品の規模も演じる役も小さなものばかりになっていた。

久々に注目を浴びたのは10年の『ブラック・スワン』。ナタリー・ポートマンが新進バレリーナを演じてアカデミー賞主演女優賞に輝いた同作で、ウィノナは引退を迫られるプリマドンナ役で登場する。なんて残酷な役回り。まんまるの茶色の瞳も華奢な体つきも昔と全然変わらないのに、やつれきった表情。若さを妬みながら、同時に彼女たちの末路を呪って笑うことも忘れない執念は、演技であって演技ではない凄みを放っていた。

つくづくナイーブで、嘘がつけない人なのだと思う。クリスチャン・スレイターやダニエル・デイ・ルイス、マット・デイモン、大好きなロックのミュージシャンたちと次々と浮き名を流す惚れっぽさ、プレッシャーから神経衰弱になって『ゴッドファーザー PART III』(90年)を降板してしまう脆さ。自分の負の部分さえさらけ出し、傷だらけでふらつくように歩を進める危なっかしさ。昔のようにもてはやされなくとも、彼女は生き方がスターなのだ。

最新作『THE ICEMAN 氷の処刑人』の夫を盲信し愛し続ける妻役の説得力は彼女ならではのもの。壊れそうな繊細さとしぶとさが同居する。少女の感性を保ったまま40代を迎え、誰にも真似できないユニークな存在となった彼女が今後どんなキャリアを築くか、楽しみだ。(文:冨永由紀/映画ライター)

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