【週末シネマ】どんな素材でも独自の色に染め上げる大友啓史監督のブレない力強さ

『るろうに剣心』
(C) 和月伸宏/集英社 (C) 2012「るろうに剣心」製作委員会
『るろうに剣心』
(C) 和月伸宏/集英社 (C) 2012「るろうに剣心」製作委員会
『るろうに剣心』
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『るろうに剣心』
(C) 和月伸宏/集英社 (C) 2012「るろうに剣心」製作委員会
『るろうに剣心』
(C) 和月伸宏/集英社 (C) 2012「るろうに剣心」製作委員会

『るろうに剣心』

時代劇と呼ぶのは少し違うかも。刀に銃に跳躍、と活劇の要素をふんだんに盛り込んだアクション・エンタテインメントと捉えたい。幕末、少年時代を倒幕派の暗殺者として過ごし、維新後は流浪生活を続ける青年・緋村剣心を描く『るろうに剣心』は、シリーズ累計5700万部という大ベストセラーとなった和月伸宏原作のコミックを『龍馬伝』の大友啓史監督、佐藤健主演で映画化した意欲作だ。

剣心役は佐藤健しかいない! 原作者と意気投合したと『るろ剣』監督が明かす

物語は明治10年(西暦1877年)の東京が舞台。街に手当たり次第に人を斬殺して歩く者が現れ、“人斬り抜刀斎”を名乗る。かつて、幕末に大暴れした反幕府軍の暗殺者だが、1868年1月に新政府軍が勝利を収めたと同時に姿を消していた。しかし、再び姿を現したと思われたのは偽者。本物の抜刀斎は今は緋村剣心と名を変え、流浪の旅を続ける穏やかな物腰の青年だ。東京を訪れていた剣心は、亡父から “神谷活心流”の道場を継いだ少女・薫(武井咲)と共に偽者の正体を追い、その背後にいる実業家・武田観柳(香川照之)の陰謀と対峙していく。

「不殺」の誓いを立て、斬れない刀「逆刃刀」のみを携えて旅する流浪人・剣心は少年のような華奢な体つきで、明るい色の長い髪。頬に大きな十字の傷はあるが、常に柔和な笑顔を浮かべ、飄々(ひょうひょう)としている。ヴィジュアルからして、佐藤健はぴたりとはまる。だが、彼が真価を発揮するのは全編にわたって繰り広げられるアクション・シーンだ。速い。そして形が美しい。敵を前にすると目の色が変わる。「不殺」の誓いを守りつつ、その目には、やはりある種の殺気が漂う。血の騒ぎが感じられるのだ。それを瞬時に抑え、斬れない刀で相手の命をとらずに倒していく。そんな美学を観客に信じさせる引力がある。偽の抜刀斎を演じる吉川晃司や新選組の斉藤一役の江口洋介といった親子ほど歳の離れた大男たちが立ちはだかろうとも、悪役の香川照之がコントすれすれの狂気を振りまこうと、吹けば飛ぶように儚げな外見ながら、主人公は決して霞まず、透き通った強さで凛と立つ。剣心の味方となる相楽左之助役の青木崇高も大柄で、2人が並ぶと牛若丸と弁慶のようで、これまた絵になる。

人気コミックの映画化には、熱狂的なファンからの厳しいダメ出しはつきものだ。その高いハードルに果敢に挑んだ大友監督は昨年NHKを退局し、フリーの映画監督となった。それにしても『ハゲタカ』『白州次郎』『龍馬伝』、そして本作に至るまで、これほど表現のブレない監督も珍しい。その一貫性は物語の時代設定をも超え、どの作品をシャッフル状態にしても違和感なく1つの作品として成立してしまうのでは、と思うほどだ。この監督はどんな素材を渡されても大丈夫。自分の方へたぐり寄せ、独自の世界を確立する。その力強さは、何とも頼もしい。

『るろうに剣心』は8月25日より新宿ピカデリーほかにて全国公開中。(文:冨永由紀/映画ライター)

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