話題の小説「滅びの前のシャングリラ」の凪良ゆうはBL作品も秀逸!

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滅びの前のシャングリラ
『滅びの前のシャングリラ』凪良ゆう・著 中央公論新社 刊

本屋大賞受賞後初の作品として注目を集める「滅びの前のシャングリラ」

2020年本屋大賞を受賞した「流浪の月」の凪良ゆうによる新刊「滅びの前のシャングリラ」が話題だ。凪良ゆうは2006年に中編の「恋するエゴイスト」が「小説花丸」に掲載され、2007年に長編の「花嫁はマリッジブルー」で本格的にデビューし、以降BL小説を数多く手がけている人気作家だ。「美しい彼」シリーズや「セキュリティ・ブランケット」などBL小説のヒット作が多くある。

・BL系ホラーミステリー「さんかく窓の外側は夜」の楽しみ方

一方で2017年には一般小説の「神さまのビオトープ」を発表し、2019年8月に「流浪の月」、2019年12月に「わたしの美しい庭」といったBL以外の小説を上梓している。そして、2020年10月8日に発売されたのが「滅びの前のシャングリラ」だ。

“全国書店員が選んだいちばん!売りたい本”のキャッチコピーで知られる本屋大賞受賞後に初めて発表される作品とあって注目を集めた同作。書店で平積みされたり、コーナーが設けられているのを見かけた方もいるのではないだろうか。情報バラエティ番組「王様のブランチ」で紹介され、凪良のインタビューも放送されたことで同作を知った方も多いだろう。

「滅びの前のシャングリラ」は、1ヵ月後に小惑星が衝突する地球を舞台に描いた人間ドラマだ。いじめられっ子や人を殺したヤクザなどの4人を中心に、生きる意味とは、幸せとは何かを真摯に見つめて描いていく。その内容に発売前より書店から絶賛の声が上がり、事前注文が殺到。大型重版が決定して、累計10万部を突破している。

凪良ゆうのBL小説でおすすめは「おやすみなさい、また明日」

過酷な状況に身を置く人間を描くのは、凪良の得意とするところだ。さらに凪良は普通の人よりも生きるのが下手で生き辛い思いをする人々を見つめ、的確な言葉で心情を描き出すのが上手い。筆者が凪良ゆうの作品でとくに気に入っているのはBL小説の「おやすみなさい、また明日」だ。

10年来の恋人にふられた小説家・つぐみと便利屋をしている青年・朔太郎を描いている。つぐみは傷心の自分を下宿に置いてくれることにした朔太郎にほのかな恋心を抱く。朔太郎はつぐみの作品を以前から大好きだといってくれる良き理解者だ。しかし、朔太郎は自分はもう誰とも恋愛はしないという。戸惑うつぐみだったが、朔太郎にはある秘密があった。

ネタバレなしで読んで欲しいから多くは語れないが、読めば何気ない日常の挨拶であるタイトルにそんな意味があったのか…と噛みしめることになる。凪良は登場人物に試練を与えることが多い。こんなにしんどい状況、どうすればいいの…? と読者は途方に暮れてしまう。

それでも凪良はそんな人間たちを見捨てることなく、静かに優しく見つめていく。読んでいると胸がギュウッと痛くなるほど切なくて、涙を禁じ得ない。それでも辛いだけじゃない優しくて温かい気持ちになって、なお涙があふれてくるのだ。

一般小説でもBL小説でも読み応えのある作家

「おやすみなさい、また明日」には後日談があり、好き嫌いが分かれるところではあるが、ファンはこの後日談こそ「凪良ならでは!」と絶賛している。筆者もこの後日談があってこそ2人の愛は完成されたと言えると思うし、人生賛歌にもなっていると感じる。読み終えると悲しみの涙ではなく、熱い感動の涙が止まらなくなるのだ。

BL小説で培ってきたとも言える凪良の実力がこうして広く世間に認められるのはBLファンとして嬉しいことであるし、一般小説で凪良ゆうを知った読者にもぜひ彼女のBL作品を読んで欲しい。一般小説と遜色ない、ずっしりと読み応えのある凪良の作品に魅了されることだろう。(文:牧島史佳/ライター)