トム・クルーズの超人ぶりが際立つ『ミッション:インポッシブル』シリーズを振り返る
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クルーズにとって大きな転機となった『ミッション:インポッシブル』
【この俳優に注目】トム・クルーズ
いよいよシリーズ最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が日本で公開されたトム・クルーズ。新型コロナウイルスのパンデミックによる撮影中断を挟みながらも妥協なし、リミットレスなアクション満載の超大作は劇場の大画面でこそ楽しめるスケールだ。映画を劇場で見るという体験を重視し、そのためにこれ以上ない快作を作り続ける俳優・映画製作者としてのトム・クルーズの歩みを、すべての始まりである『ミッション:インポッシブル』シリーズに絞って振り返ってみよう。
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シリーズ第1作の『ミッション:インポッシブル』(96年)はクルーズが初めて映画プロデューサー業に取り組んだ作品。彼にとって大きな転機となり、その後のキャリアをこのシリーズと共に歩み続けている。
人気TVシリーズ『スパイ大作戦』を大きく改変して新たな傑作に
クルーズは大手エージェンシー「クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー(CAA)」で彼を担当していたポーラ・ワグナーと共に、製作会社「クルーズ/ワグナー・プロダクションズ」を1993年に設立した。80年代から『トップガン』(86年)やアカデミー主演男優賞候補になった『7月4日に生まれて』(89年)で人気・実力ともにトップの座にいたクルーズにとって、演じる以外の形で映画作りに挑戦することは子どもの頃からの夢の1つだったという。
パラマウント映画と提携し、数多くの候補の中からプロデュース作の第1作として選んだのは、1960年代から70年代にかけての人気TVシリーズ『スパイ大作戦』の映画化だった。監督を任されたのは『キャリー』(76年)や『アンタッチャブル』(87年)など、ホラーやサスペンス作の名手、ブライアン・デ・パルマだ。
オリジナルのシリーズは、アメリカ政府が手を下せない極秘ミッションを遂行する組織IMF(Impossible Mission Force)の活躍を描く群像劇だったが、映画版はクルーズが演じるエージェント、イーサン・ハントが主役となっている。実はイーサンはTVシリーズには登場しない。シリーズでマーティン・ランドーが演じた変装の達人、ローラン・ハンドをモデルにしたキャラクターであり、映画化に際してのもう1つ大きな改変は、IMFのリーダーであるジム・フェルプス(ジョン・ヴォイト)を敵役にしたことだった。
他にヴァネッサ・レッドグレーヴやエマニュエル・ベアール、ジャン・レノらが出演した第1作は、イーサンがCIA本部に侵入して機密データをコピーする際に天井から宙吊り状態になったり、巨大水槽の爆破など記憶に残る名シーンの数々が誕生した。英仏を繋ぐ高速鉄道TGVの列車の屋根の上で強烈な風圧を受けながらのフェルプスとの対決、ヘリコプターも絡んでのアクションの迫力に当時の観客は誰もが息を呑んだ。
新作ごとに新たな監督を迎えて独自のスタイルを打ち出した
前作から4年後に公開された第2作『M:I-2』(2000年)は、90年代にハリウッドでも活躍した香港の巨匠ジョン・ウーが監督を務めた。クルーズはアメリカ映画に大きな影響をもたらしたウーとの仕事を切望し、続編の監督を渋るウーに「ジョン・ウーの『ミッション:インポッシブル』がどうなるかを見たい」と説得したという。タイトルに“M:I”という表記を用いたのも、続編のイメージを薄める目的もあったようだ。ウー作品のトレードマークであるスローモションを用いたアクション・シーンや鳩が飛ぶシーンも盛り込まれ、ロッククライミングやカーチェイスなどはクルーズのアイディアによるものだった。
『ミッション・インポッシブル』シリーズには、作品ごとに新しい監督や脚本家が参加し、イーサン・ハントとIMFの物語を、それぞれ独自のスタイルを打ち出していく面白さがあった。
第3作『M:I III』(06年)はTVシリーズ『エイリアス』や『LOST』で超売れっ子だったJ・J・エイブラムズが監督を務め、イーサン・ハントというキャラクターの物語に重点を置き、ドラマも充実させた。今は亡きフィリップ・シーモア・ホフマンが演じた敵役とイーサンの心理戦も見どころだ。サイモン・ペッグが演じるイーサンの良き相棒、ベンジーは本作から登場する。
第4作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11年)は『Mr.インクレディブル』などアニメでヒットを飛ばしていたブラッド・バード監督の初の実写映画。ジェレミー・レナーが演じるIMF分析官のブラントが加わり、コメディタッチの描写を活かしてチームワークや絆が描かれた。ドバイの超高層ビル、ブルジュ・ハリファの外壁をイーサンがよじ登るシーンはもちろん吹替なしでクルーズ本人が演じ、シリーズ屈指の名シーンとなった。
5作目以降は同じ監督と作品を掘り下げるスタイルに
1作ごとに監督が変わるスタイルから、同じ監督と『ミッション:インポッシブル』の世界を深めていく形に変わったのは第5作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15年)でクリストファー・マッカリーが監督を務めた時からだ。
クルーズとは、彼の主演作『ワルキューレ』(08年)の脚本家として出会い、『ゴースト・プロトコル』ではクレジット無しだが脚本に参加し、クルーズ主演の『アウトロー』(12年)の監督や『オール・ユーニード・イズ・キル』(14年)の共同脚本を経て、『ローグ・ネイション』で監督を務めた。2023年の時点で過去10年間、『オブリビオン』(13年)と『バリー・シール/アメリカをはめた男』(17年)を除く全てのクルーズ主演作に関わるマッカリーは、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(18年)も手がけてシリーズ異例の監督続投となり、さらに『デッドレコニング PART ONE』と次作の『PART TWO』も監督する。
それまで1話完結に近かったシリーズは、より大きなうねりを持つ物語を紡ぐようになったが、クルーズ&マッカリーの作風の特徴は、観客がシリーズ過去作を見ていることを前提とせずに作品単体を楽しめるようにしている点だ。
今回も、第1作からイーサンをサポートし続けるルーサー(ヴィング・レイムス)や、ベンジー、イルサ(レベッカ・ファーガソン)といったお馴染みのメンバーも登場するが、ヘイリー・アトウェル、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフなど新しいキャストも魅力的だ。揺るぎないスターの座にいるからこそ、ストーリーを語るために、クルーズはシーンの主役を相手役に譲ることを厭わない。そして映画はより面白くエキサイティングなものになる。
断崖絶壁からバイクでダイブ! 命がけのアクションさえ楽しむクルーズ
1作ごとにアクションのスケールも格段に上がっている。離陸する飛行機にしがみつく(『ローグ・ネイション』)、全力疾走でビルの屋上から隣りのビルへとジャンプし、足首を骨折するアクシデントも発生(『フォールアウト』)したが、勢いは収まるどころか、『デッドレコニング PART ONE』では断崖絶壁からバイクでダイブという空前絶後の命知らずのスタントをやってのけた。
撮影風景の動画は映画封切りに先駆けて公開されているが、誰よりもクルーズ本人が楽しんでいること、気が気でない様子で見守り続け、成功時に安堵するマッカリーの表情を見るにつけ、エンターテインメントの頂点を更新し続けるコンビの向かう先に期待が募る。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は、2023年7月21日より公開中。
・[動画]トム・クルーズ61歳、またも限界を超えるアクションに挑戦/映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』特別映像
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