ジュリーの凄さとは? 沢田研二、主演映画の公開で振り返るポップスターとしての魅力

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『土を喰らう十二ヵ月』
(C) 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会
『土を喰らう十二ヵ月』
『G.S. I LOVE YOU』沢田研二
『MIS CAST』沢田研二
『彼は眠れない』沢田研二
土を喰らう十二ヵ月

『土を喰らう十二ヵ月』に主演&主題歌

【映画を聴く】沢田研二主演の映画『土を喰らう十二ヵ月』が公開中だ。原案は、1978年刊行の水上勉によるエッセイ『土を喰ふ日々ーわが精進十二ヵ月ー』。信州の山荘で暮らす老年の作家・ツトムは、四季折々の旬の食材を使って自炊し、食べることを通じて得た所感を雑誌の連載に綴る。編集者で歳の離れた恋人の真知子など、数少ない客人の訪問を除けば、特に何も起こらない毎日。移ろう季節の中で、ただ「食べること」に日々を捧げるツトムを、74歳になった沢田研二が等身大で演じている。1979年の『太陽を盗んだ男』、1991年の『夢二』と並んで、俳優・沢田研二の代表作に数えられる作品になることは間違いない。

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と言いつつ、ここでフォーカスしたいのは、俳優ではなく、シンガー/ポップスターとしての沢田研二の魅力。「全盛期のジュリーはすごかった」とよく言われるが、何がそんなにすごかったのか。「勝手にしやがれ」「サムライ」「TOKIO」といった、誰もが知る大ヒット・シングルはもちろん今聴いても素晴らしいけれど、たとえばここでご紹介する1980年代の比較的地味な3枚のアルバム『G.S. I LOVE YOU』『MIS CAST』『彼は眠れない』では、いずれも時代のトレンドや自分にマッチする作曲家をフックアップする沢田研二の慧眼が光る作品となっている。

◎アルバム『G.S. I LOVE YOU』(1980年12月23日リリース)

1980年12月リリースのアルバム『G.S. I LOVE YOU』は、60年代グループ・サウンズのリバイバル・ブームに呼応するように作られたコンセプト・アルバム。ザ・タイガーズのヴォーカルとして当時のブームを牽引していた沢田研二本人がセルフ・パロディを楽しむかのように、どこか懐かしいGS風の楽曲群を80年代ニューウェイヴ的な解釈で歌う。

収録曲を眺めると、同年の3月にソロ・アーティストとしてデビューしたばかりの佐野元春が「彼女はデリケート」「I’M IN BLUE」「THE VANITY FACTORY」の3曲を提供していることが何より目を引く。この3曲は、のちに佐野元春も自身のアルバムでセルフ・カヴァーしているが、両者のヴァージョンを聴き比べると、沢田研二と佐野元春の声質がとてもよく似ているのが分かる。

全曲の編曲を担当する伊藤銀次は、70年代に大滝詠一の周辺で音楽活動を始め、まだアマチュアだった山下達郎を大滝に紹介した人物としても知られる。伊藤は佐野元春のデビュー・アルバム『BACK TO THE STREET』の編曲も担当しており、それを聴いたナベプロの木﨑賢治プロデューサーが佐野をソングライターとして、伊藤をアレンジャーとして本作に招いたという経緯がある。大ヒットした1979年の『TOKIO』と1981年の『S/T/R/I/P/P/E/R』という2枚のアルバムに挟まれていることもあり、あまり顧みられることのないアルバムだが、当時の沢田研二が様々な才能や人脈を接続するハブのような役割を果たしていたことを端的に物語るアルバムである。

『G.S. I LOVE YOU』沢田研二

『G.S. I LOVE YOU』沢田研二 ※画像はライターの私物

◎アルバム『MIS CAST』(1982年12月10日リリース)

沢田研二にとって18枚目のアルバムとなる『MIS CAST』は、全10曲の作詞・作曲を井上陽水が担当している。日本の音楽市場で初めて100万枚を突破した1973年のアルバム『氷の世界』で最初のブレイクを果たした井上陽水が、シングル「ジェラシー」や「リバーサイドホテル」のヒットで二度目のブレイクを果たそうとしていた時期とも重なり、ジュリー&陽水のコラボレーションは大きな話題となった。

「背中まで45分」などの井上陽水らしいミステリアスな世界とムーンライダーズの白井良明と岡田徹が手がけるニューウェイヴ的な編曲が化学反応を起こし、その上に沢田研二の妖艶な歌声が重なる。シングルで言えば1977年の「勝手にしやがれ」から1981年の「ス・ト・リ・ッ・パ・ー」までがポップスターとしてのジュリーのピークにあたるが、このアルバムには音楽的な探究心をより強めた、脂の乗り切ったシンガーとしての沢田研二の姿が記録されている。現在の耳で聴いても少しも古さを感じない作品集である。

『MIS CAST』沢田研二

『MIS CAST』沢田研二 ※画像はライターの私物

◎アルバム『彼は眠れない』(1989年10月11日リリース)

40代を迎えた沢田研二が、BOΦWYのブレイクに象徴されるバンドブームを意識したかのような1989年作品。リード・トラックにはプリンセス・プリンセスの奥居香(現・岸谷香)が書き下ろした「ポラロイドGIRL」が選ばれているほか、大沢誉志幸、徳永英明、忌野清志郎、松任谷由実らがこぞって楽曲を提供した、今にして思えばかなり豪華なアルバムである。

ジャケットのアートワークを担当しているのは、70年代から沢田研二の衣装などビジュアル面を担当してきた早川タケジ。「日本のデヴィッド・ボウイ」の異名を体現するかのようなグラマラスで中性的な「ジュリー」のイメージの定着に貢献した人物だ。

この時期の沢田研二はヒット・チャートの世界からは完全に遠ざかり、世間的には「過去の人」と思われてもおかしくないほど露出は減っていたが、たとえば本作やそれに続く1990年の『単純(シンプル)な永遠』、1991年の『PANORAMA』、1992年の『Beautiful World』といったアルバムを改めて聴くと、ヴォーカルもサウンドも依然としてエッジーであり続けていたことが分かる。実際、この頃から沢田研二はライヴ活動に軸足を置くようになり、その姿勢は21世紀以降も変わらない。

『彼は眠れない』沢田研二

『彼は眠れない』沢田研二 ※画像はライターの私物

◎シングル「いつか君は」(2022年11月11日リリース)

ここ数年はライヴのドタキャン騒動など、そこへ至る経緯を踏まえない切り取り報道によってヘンな語られ方をされてしまうことも少なくなかったが、今も沢田研二はほぼ毎年のように新作をリリースし、アリーナクラスの会場でコンスタントにライヴを行なっている。今回の『土を喰らう十二ヵ月』のエンディング・テーマに選ばれた「いつか君は」は、1996年のアルバム『愛まで待てない』に収録されていたバラードで、映画の世界観にリンクする内容であることから主題歌に選ばれ、シングル・カットされたのだという。シングルとしてはなんと80枚目のリリースということで、さらなる活動の加速に期待しつつ、これを機に多くの人がシンガー/ポップスターとしての沢田研二の作品群に耳を傾けてくれるようになればと思う。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

土を喰らう十二ヵ月

『土を喰らう十二ヵ月』主題歌 「いつか君は」 CD
収録曲
1.「いつか君は」作詞/覚和歌子 作曲・編集/大村憲司
2. 「遠い夏」 作詞・作曲/沢田研二
11 月 11 日より発売中(ANIMA Publishing,inc.) 価格:1,200 円(税込)

『土を喰らう十二ヵ月』は、2022年11月11日より全国公開中。

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