【映画を聴く】今を生きるバンド、サニーデイ・サービスの31年。解散、再結成、死別を経て

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『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
(C) 2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS


『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
『ドキュメント サニーデイ・サービス』
大工原幹雄
(C) 2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS

濃密なバンドの軌跡『ドキュメント サニーデイ・サービス』

作られるべくして作られたドキュメンタリー映画だと思う。1992年に結成され、1994年にメジャー・デビュー。2000年に解散して、2008年に再結成。2018年にメンバーの丸山晴茂が急逝し、2020年に新メンバーの大工原幹雄が加入。本当に濃密なキャリアを重ねてきたバンドだから、145分の上映時間もあっという間に感じる。日本のバンドを扱ったドキュメンタリー映画としては、2021年の『映画:フィッシュマンズ』と同じぐらいずっしりとした重みのある作品だ。監督はカンパニー松尾、ナレーションは小泉今日子が担当している。

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(C) 2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS
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<ポスト・フリッパーズ>から<ポスト・はっぴいえんど>へ

サニーデイ・サービスが結成された1992年の日本の音楽シーンといえば、前年に解散したフリッパーズ・ギターのフォロワーが次々と登場した時期にあたる。1993年のインディーズ盤『COSMO-SPORTS e.p.』や1994年のメジャー・デビュー盤『COSMIC HIPPIE』の路線がそのまま続いていたら、サニーデイ・サービスもそんなポスト・フリッパーズ組のワン・オブ・ゼムとして記憶されるに留まったかもしれない。しかしバンドは、1995年のアルバム『若者たち』で大きくシフト・チェンジ。はっぴいえんどに代表される70年代の日本語ロックを下敷きにした世界観を打ち出すようになる。この路線変更についても、フリッパーズ解散後に大きく音楽性を変えた小沢健二に呼応しているという意地悪な見方をするリスナーが少なくなかったが、すでにこの頃からフロントマン・曽我部恵一のソングライティングにはそういった粗探しをフォローして余りある魅力が備わっており、バンドは翌1996年の名盤『東京』で早くも最初のピークを迎える。

『DANCE TO YOU』が幅広い世代に支持され復活

この『東京』から1997年にリリースされた『愛と笑いの夜』と『SUNNY DAY SERVICE』までが、ある意味でサニーデイ・サービスというバンドの<青年期>にあたるのかもしれない。劇中で当時を振り返るメンバーや関係者の表情も穏やかだ。その後もバンドは『24時』『MUGEN』という、それぞれに方向性のまったく異なる充実作をリリースするが、次第にメンバーやスタッフが曽我部の熱量に応えきれなくなり、バンドは2000年の『LOVE ALBUM』リリース後、12月のライヴをもって解散。やついいちろうの「見てても仲悪いなあって感じでしたね」という劇中のコメントの通り、極めて歯切れの悪い最後だった。サニーデイ・サービス解散後、曽我部恵一はソロ・デビュー。自身のレーベルを立ち上げ、曽我部恵一バンドや曽我部恵一ランデヴーバンドなど様々なプロジェクトをパラレルで稼働させながら、サニーデイ時代をはるかに上回るペースで作品のリリースとライヴ活動を展開していく。

2008年の再結成から2018年の丸山晴茂との死別までの10年間は、とりわけバンドにとってハードな日々だったに違いない。再結成してはみたものの、今この3人で奏でるべきサウンドは、いったいどんなものなのだろうか。それが本人たちにもつかめていなかったのだと思う。2010年の『本日は晴天なり』や2014年の『Sunny』を聴くと、曽我部恵一バンドなどの活動を通じてラウドな作風に傾いていたこの時期の曽我部が自ら<サニーデイらしさ>を模索しつつ演じているような印象がある。

丸山晴茂
(C) 2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS
丸山晴茂
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度重なる丸山の体調不良による離脱もあり、「このままではマズい」と曽我部が感じたのかもしれない。試行錯誤を経て完成された2017年の『DANCE TO YOU』は、再結成後の彼らしか知らない世代のリスナーにも支持される重要作になった。この時期のメンバーの思いは本作ではあまり多く語られていないが、本作にも証言者として出演しているライター・北沢夏音によるサニーデイ・サービスのバイオグラフィー/インタビュー本『青春狂走曲』(2017年/スタンド・ブックス刊)にて詳しく語られているので、未読の方はぜひこの機会に。

新メンバーの加入で<第二の青年期>に突入

新メンバー・大工原幹雄の加入により、サニーデイ・サービスはバンドとして<第二の青年期>に突入した。どこか達観した丸山晴茂のシンプルなドラムに対して、大工原幹雄のドラムにはグイグイと曲を牽引する力強さがある。まったく個性の違うドラマーを迎えたことは、ソングライター/ヴォーカリストである曽我部恵一にも少なからぬ影響を与えたはずだ。2020年の『いいね!』や2022年の『DOKI DOKI』には、そのタイトルが示す通りのヴィヴィッドな煌めきが詰め込まれている。

(C) 2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS
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コロナ禍まっただなかの2020年4月、曽我部恵一はホームタウンである下北沢に「カレーの店・八月」をオープンした。10人も入れないほど手狭な店内には、イラストレーター・永井博の描いた『DANCE TO YOU』のジャケットの原画が飾られている。あらゆるミュージシャンがライヴ活動の自粛を余儀なくされたこの時期、曽我部は自ら店頭に立ってカレーを売り、同じビルの上階にオープンした中古レコード店「PINK MOON RECORDS」でレコードを売っていた。

悩みや弱みは隠さないが、弱音は吐かない。考えるより、とりあえずやってみる。近年のサニーデイ・サービスや曽我部のソロ作品には、そうしたリアルな都市生活者としての曽我部恵一の生き様がストレートに反映されている。ポスターに書かれた「すべての若者たちへ。」というキャッチ・コピーに込められた31年分の汗と涙を、ぜひとも映画館の大画面で味わってほしい。(伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

『ドキュメント サニーデイ・サービス』は、2023年7月7日より公開中。

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(C) 2023 ROSE RECORDS / SPACE SHOWER FILMS
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