ワーママ友だちとの交流で気づいた業界のおかしさ「ヤバいけど仕方ない」と諦めていた過去

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撮影現場で小道具担当として活躍中のSAORI
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【日本映画界の問題点を探る/映像業界で働く女性たちの挑戦 2】『TRICK劇場版2』や『ALWAYS 続・三丁目の夕日』、『八日目の蝉』などの話題作で、小道具として活躍してきたSAORI。映画の現場に足を踏み入れたのは、高校時代のことだったと振り返る。

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「お小遣いやバイト代のほとんどを映画のチケットにつぎ込んでいたので映画は好きでしたが、映画業界に入りたいと思ったことはありませんでした。そんなときに、私が通っていた学校の講師がある映画監督と知り合いで、2人のトークイベントを訪れた際に紹介してもらったのがきっかけです。最初はミーハーな気持ちもありましたが、あるインディーズ映画でボランティアスタッフを経験させてもらい、現場の楽しさを感じました。それから色々な部署の手伝いをしましたが、そのなかでも小道具をやりたいと思い、映画業界に入ることに決めました。専門学校に通ったこともないので、まさに現場での叩き上げ。仕事のやり方も電話のかけ方も確定申告の方法も、誰も教えてくれないのですべて独学で習得しました」

18歳の時にフリーランスとして仕事を始めたというが、いきなり単身で業界に飛び込むことへの不安はなかったのだろうか。

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「若いうちはギャラが安いので、特に営業をしなくてもどんどん仕事を回してもらうことができました。そうやって働いているうちに、フリーランスの大変さも何も知らないまま気が付いたらフリーランスになっていたという感じです。ちなみに、一般的にフリーランスというと、会社で何年か働いてスキルを身につけた人が独立してなるものというイメージだと思います。でも、映像業界の場合は、私のように最初からフリーランス以外の選択肢がないような人も多く、スタッフの大半がフリーランス。みなさんが考えるフリーランスとは、ちょっと違うかもしれません」

そこから映画やドラマの現場で多忙な日々を送っていたが、29歳で出産を経験した際、キャリアにおいて大きな転機を迎えることとなる。

「現場に復帰しようとしたとき、最初は『夜も遅くまでやっている保育園にお願いできるので大丈夫です』とか『子どもは実家に預けられます』といった感じでとにかく業界のペースに合わせるようにがんばっていました。でも保育園を通じて、それまで関わることのなかった一般企業に勤めるママ友たちと交流するようになって、おかしいのは映像業界のほうなのではないかと思うようになったんです。世間では働き方改革や女性活躍が叫ばれているのに、映像業界はフリーランスの集まりであるがゆえに、そういったこともまったく意識していなかったことに気づかされました。もちろんどの業界でも、子どもができた女性が働きにくくなる問題はあると思います。でも、辞めるしか選択肢がないような持続可能じゃない業界は、やっぱりおかしいと考えるようになりました」

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この業界がヤバいことはみんなわかっている。でも…

そして、SAORIはさらにフリーランスであることの“弊害”を突き付けられることとなる。

「若い頃は『業界に入りたい』という思いだけだったので、フリーランスが嫌だという発想もありませんでした。ただ、子どもができてわかったのは、フリーランスには産休も育休も復帰できる保証も何もないので、現場から離れてしまえばただの無職。しかも、保育園にも入りにくい。ママ友たちと接しているうちに、一般企業にはいろんな手当があることもわかり、改めて外の世界を知らなすぎたんだなと思いました」

映像業界で働く人たちに問題意識がまったくなかったわけではないとも話すが、すぐに改善へと動けない根深い理由もあると付け加える。

「現場に入っているときは休みが全然なく、とにかく忙しいので、そういうことを考える余裕すらないというのが現実。でも、この業界がヤバいことはみんなわかっているんですよ。私も『ヤバいけど楽しいし、やりがいはあるし、こういう業界だからしょうがない』みたいな感じで、当時は変わってほしいと思うこともありませんでした。そこから、このままではいけないという気持ちになるまでにかかった時間は3年くらい。そんなふうに、いま現場にいる人たちは、忙しすぎて問題について考えることも外からの情報を得る時間もないくらいの状態です」

業界全体がある種の麻痺状態に陥っているのだと思うが、現場から距離を置き、幅広い業種の人たちと触れ合うなかで、SAORIのなかで使命感のような思いが強くなっていくことに。そのなかで感じた現場が抱える問題点についても、掘り下げていく。(text:志村昌美

【映像業界で働く女性たちの挑戦 3/「面倒くさいヤツ」と思われることへの恐怖】に続く(2023年6月1日掲載予定)

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