韓国映画の鬼才が描く究極の純愛『別れる決心』
【週末シネマ】『オールド・ボーイ』『お嬢さん』など衝撃的な作品のイメージの強いパク・チャヌク監督による新作。これまでの彼の映画の特色である“エロス”と“バイオレンス”を覆すような作品であった。
中年男性が山頂から転落死した事件で出会った敏腕刑事チャン・へジュン(パク・ヘイル)と被害者の若き妻ソン・ソレ(タン・ウェイ)。取り調べが進むうち、疑惑と共にお互いに特別な想いを抱き始める。やがて事件は解決したかと思われたが、新たな事件で再会した2人は……。
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美しき容疑者と聞くだけで、男ウケする小悪魔的な女性を想像していたものの、その概念も見事に覆された。介護人をしているだけあり気遣い&世話好きの達人で、高齢女性からも大人気のソレ。おまけに中国出身ということで、片言で韓国語を話す姿がなんともチャーミングで、同性をも魅了する。取り調べ中も気取りのない彼女の天然ぶりが発揮され、敏腕刑事のへジュンのウキウキぶりが伝わってくるようだった。しかも、経費削減を厳しく押しつけている部下の目の前で、ソレと共に高級寿司弁当を食べているのには笑ってしまった。
刑事と容疑者なのに同棲生活が自然すぎる
ソレに疑念を抱いたヘジュンは、毎日のように張り込みをし、彼女の行動を見守るようになる。張り込みなのに、ヘジュンはますますソレから目が離せなくなってしまうのだ。
また、実は夫からの暴力に悩んでいたと打ち明けるソレ。同情と共に「自分が守ってあげなければ」という独占欲にも近い恋愛感情がヘジュンに芽生え始める。
一方、ソレも極度の不眠症に悩まされるヘジュンを心配し、「寝かせつけにきた」「俺は寝たきり老人か!」とコントのようなやり取りも繰り広げられる。性的描写は一切ないものの、一緒に夕飯を作って食べ、ヘジュンを寝かしつけるソレの姿は、もはやただならぬ関係といえるだろう。
後半からはサスペンスフルに急展開!
中盤ぐらいまではヘジュンのウキウキぶりが滑稽で、思わず笑みがこぼれてしまう本作。ヘジュンはソレの夫の事件の解決と共に彼女とも別れ、妻の暮らす街に引っ越す。新しい職場にも慣れてきた矢先、妻と訪れた市場で新しい夫と歩くソレに再会。ヘジュン&妻VSソレ&新しい夫の4人の視線のやり取りにはゾクゾクさせられる。特に、ヘジュンとソレとの視線の絡ませ合いがやけに色っぽい。翌日、ソレの新しい夫が死体で発見されたことで、またもや2人は関わるようになり……。ここからは、一気にサスペンスフルに展開されていく。
心の奥底で深く結びついた2人の愛の行方は!?
美人だから? 未亡人だから? 男が女に惹かれる理由はいろいろと考えられるが、この映画において、そういったことは一切関係ないように思える。その証拠に、時には母のように、また時には娘を見つめるような愛溢れるヘジュンの表情が印象的。心の底から愛おしい、だから一緒にいたいという“人を好きになる時”の根源を見た思いがした。
既に韓流ドラマではお馴染みだが、主人公のすぐ横で展開される回想シーンにおいても、スピーディかつ抒情的に表現されるパク・チャヌク監督ならではの演出法のせいか飽きさせない。究極の純愛を見せつけられた気がした。(文・渡邉啓子/ライター)
『別れる決心』は、2023年2月17日より公開中。
[訂正のお知らせ]
下記を訂正いたしました。
訂正前/ヘジュンに添い寝するソレの姿は
訂正後/ヘジュンを寝かしつけるソレの姿は
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