自称女優では病気の母の保証人にもなれない!? ミュージカル出身俳優が政治家になるまで

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よだかれん
新宿区長選挙に立候補したよだかれん
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沖縄での中高生時代が政治家としての土台に

【日本映画界の問題点を探る/番外編/新宿を世界のエンタメ中心地に! 2】日本初のトランスジェンダー区長を目指して戦っているよだかれん。11月13日に投開票が行われる新宿区長選に向けて、自身の声を届けるために各地を走り回っている。現在は行政書士の仕事と両立させながら選挙活動を続けているが、以前はミュージカル俳優やショーパブダンサーとしても活躍していたという異色の経歴を持つ。

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よだは、1972年に愛知県で誕生したのち埼玉県に移り住み、その後小学6年生から高校1年生までの多感な時期を沖縄県で過ごした。沖縄で悲しい歴史を目の当たりにした経験こそが、よだにとっては政治家としての土台となっている。とはいえ、子どもの頃から憧れていたのは、まったく別の職業だったという。

「青山学院大学の法学部に入学しましたが、ずっと歌手になりたかったので、卒業後も就職活動をすることなく、タレントの養成所でレッスンを受けながらオーディションを受ける日々を送っていました。いつしかミュージカル俳優として活動の場が広がっていき、いいときには城田優さんや多部未華子さんが出ていた『美少女戦士セーラームーン』に出演させていただいたことも。ただ、そこをピークにだんだん仕事がもらえなくなってしまい、そのときに声をかけてくれたのが六本木にあるショーパブ。当時は、ゲイのイケメンダンサーとしてチヤホヤされていました。そんななか、共演していたニューハーフのダンサーから『あなたは女性になるために生まれてきたんだよ』と毎日のように言われ始めたんです。最初は『違います』とずっと答えていましたが、『本当は女性として生きたい』という思いを隠していたことに気付かされ、1年近く悩んだ末に36歳の誕生日を機に自分の気持ちに素直に生きることに決めました」

そこから、病院でカウンセリングやホルモン療法を開始し、医師からの許可を得て性別適合手術を受けることに。2009年には家庭裁判所に申し立てをして、戸籍上の性別も女性となる。

「外見を女性にするということは、何も言わなくてもカミングアウトすることになりますし、身長が180㎝もある私が女性の姿になったら、笑いものになって世間から袋叩きに遭うんじゃないかと思っていました。そういったことから自分の思いを長年隠し続けていましたが、女性になった途端、『生きるってこんなに楽だったの?』と感じたほど。解放感に包まれて、思わず『I’m Free!(私は自由だ)』と叫びたくなりました(笑)。でも、そのときに『私だけじゃなくて、みんながそう感じられたらもっといい世の中になるんじゃないかな』と考えるようになったんです。沖縄時代にいろいろと感じていたこともありますが、そのあたりから自分はいつか政治の世界に行くんだろうなと思いながら踊っていました」

そんななか、母親の入院により大きな転機を迎えることとなる。

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「女性としてもう一度ミュージカルの世界にトライしたものの、なかなかうまくいかなかったときに、入院した母の世話を私がすることになりました。ただ、“自称女優”の私では身元保証人になることができず、『40歳手前にもなって親の保証人にもなれないのは、なんて恥ずかしいことなんだろう』と。そこで、日本では一番信頼してもらえる会社員になろうと思って、ハローワークに通い始めました。でも、いままで何の経験もなく、しかもトランスジェンダーという属性もあるので、どこにも採用してもらえない。困っていたときに、担当者から『独立開業できる資格を取ってみたら?』と勧められ、行政書士なら年齢も性別も国籍も学歴も一切問われることなく一生できることを知り、行政書士を目指すことにしました」

ショーパブで踊りながら、予備校に通って勉強するという生活を送り始めたよだ。「弁護士に比べたら現実的だと思った」とサラリと言うが、合格率は10%前後という厳しさ。だが見事、2年で行政書士の試験に合格する。

「行政書士として開業してからも週の半分は踊っていましたが、そしたら“踊る行政書士”というのが話題となってあちこちからお声がかかるようになったんです。しかも、ちょうどLGBTQという言葉が世に出始めた頃。行政書士だけでなく、社会保険労務士や中小企業診断士、さらに教育委員会といったいろんなところからLGBTQ研修をして欲しいと呼ばれるように。そのあたりから次第に政治家の方々とも繋がりができ、政治の世界がどんどん身近になりました」

政治への関心が高まったよだは、政治塾に通い始めることとなるが、そこで「衆議院選挙へ立候補しませんか?」と打診を受ける。そのときよだは、国政に声をかけてもらえるほどの可能性とインパクトが自分にあることを知り、驚いたという。そして、ついにショーパブの世界を卒業し、本格的に政治の勉強と向き合うことを決意する。

「最初は国政のことばかり考えていましたが、2018年に新宿区がデモ規制を始めたことに対して街で抗議活動を行っていたところ、区民の方々から『あなたのような人に、少数者の声を政治の現場に届けて欲しい』と言われました。そこで、自分が求められていることに気が付き、新宿区議選に出ることになったのが始まりです」

よだは無所属の新人だったにもかかわらず、38人中4番目という上位当選を果たし、新宿区議会議員として3年間活動をする。そして、今年の7月には参議院選挙に初挑戦。残念ながら落選してしまうが、そこで思いがけない反響を目の当たりにする。

「当初は次の参院選もしくは衆院選を目指そうと思っていたのですが、新宿区民の方から連絡があり、11月に行われる区長選に出て欲しいと言われました。とはいえ、国会議員と行政のトップとでは役割がまったく別。そのことに戸惑っていましたが、そんなときに『よださんが参院選に落選したのは、新宿区民にとっては天の恵みだ』というお手紙をいただき、そこまで言われたらやるしかないな、と。私が区議会議員として達成できなかった目標を実現したいという覚悟で、立候補する決意をしました」 【3「すごいのが来た」と騒ぎに〜(11月3日より掲載予定)】へ続く。(text:志村昌美/photo:小川拓洋)

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