【映画を聴く】ビートルズはインドでの瞑想修行で何をつかまえたのか?

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ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド
『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』
(C) B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド
ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド
ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド
ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド
ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド
『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』

インド滞在の真実を伝える『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』

【映画を聴く】『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』は、1968年2月からビートルズの4人が滞在したインド北部のリシケシュでの日々に焦点を当てたドキュメンタリー映画。深化と細分化、アップデートが年々進むビートルズ研究の中でも本作の与えるインパクトは特に大きく、謎の多かった「インドのビートルズ」の真実を伝える貴重な内容になっている。

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4人のインド行きの目的は、超越瞑想(TM/Transcendental Meditation)の創始者であるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーのもとで瞑想修行をすること。超越瞑想というネーミングだけ聞くと大仰に思えるが、実際は1日2回、20分ほど座って目を閉じ、思考を深めるという、いたってシンプルな瞑想手法である。1967年にロンドンで行われた講演とセミナーに4人が参加したことをきっかけに、マハリシは彼らをインドにある自身のアシュラム(僧院)に招待する。1968年2月15日にジョン・レノンとジョージ・ハリスンが、19日にポール・マッカートニーとリンゴ・スターがロンドンを出発。リシケシュにあるマハリシのアシュラムでは、午後3時半と夜8時半から超越瞑想の講義と演習を90分ずつ受け、それ以外の時間は曲を作ったり仲間たちと談笑したりしながら、規則正しく健康的な生活を送ったという。

インドでの日々と名盤『ホワイト・アルバム』

監督のポール・サルツマンは、カナダ出身の映画プロデューサー/ドキュメンタリー作家で、23歳の時に気まぐれで訪れたインドでマハリシの超越瞑想を知り、アシュラムで思いがけず遭遇したビートルズの4人やパートナー、仲間たちと交流を深めることに。本作は、彼がビートルズと過ごした8日間のエピソードと、素顔の4人をとらえた数多くの写真を中心に構成されている。また、リシケシュを再訪する彼に同行するのはビートルズ研究の第一人者として知られるマーク・ルイソン。膨大な知識と実地見聞から、4人のインドでの様子をあぶり出していく。

ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド

(C) B6B-II FILMS INC. 2020. All rights reserved

それまでの過密スケジュールから解放され、自己と真っ直ぐに向き合ったインドでの生活は、4人のミュージシャンとしての創作意欲を大いに刺激し、この年の11月22日にリリースされた『ザ・ビートルズ』(通称『ホワイト・アルバム』)の収録曲の多くはこの期間に作曲されている。ちなみにインドの食べ物や生活習慣が合わなかったリンゴは約2週間後の3月1日に帰国し、その後25日にポールが、4月12日にジョンが帰国。メンバーの中でも特にインド文化に深く傾倒していたジョージは22日まで、2ヵ月以上の長期滞在となった。

『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』

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製作総指揮のデヴィッド・リンチも超越瞑想の実践者

ところで、本作の製作総指揮に映画監督のデヴィッド・リンチの名前がクレジットされていることを意外に思った方は少なくないだろう。実はリンチは1970年代から超越瞑想の実践者であり、2005年に「意識に基づく教育と世界平和の実現」をミッションとして掲げたデヴィッド・リンチ財団ヘルス&ウェルネス・センターを設立。2009年にはベネフィット・コンサート「チェンジ・ビギンズ・ウィズイン(変化は内に始まる)」を主催し、ポールやリンゴも出演するなど、ビートルズの面々との関わりも深い。そのリンチが自身の瞑想体験をつまびらかにした2006年の著書『大きな魚をつかまえよう リンチ流アート・ライフ∞瞑想レッスン』(2021年に四月社より翻訳本が刊行)の序文は、以下のような書き出しで始まる。

「アイデアとは魚のようなものだ。小さな魚をつかまえるなら、浅瀬にいればいい。でも大きな魚をつかまえるには、深く潜らなければならない」ーーもしビートルズのインド滞在と超越瞑想の修得の目的が「大きな魚をつかまえる」ことだったとしたら、その目的は最良の結果をもって達成されたと考えていいだろう。先述のように、インド滞在中に書かれた曲の多くは帰国後の1968年5月にサリー州イーシャーのジョージ別邸にてデモ録音され、1968年11月リリースの30曲入り&2枚組の大作『ホワイト・アルバム』に収録されることになる。このドキュメンタリー映画もしかり。

たった8日間の交流でありながら、ここには本当に心を許した相手にしか見せない4人の自然な表情がたくさん詰め込まれている。Blu-ray/DVDがリリースされたばかりの『ザ・ビートルズ:Get Back』と同様、ビートルズの本当の姿を伝える、最高に「大きな魚」がつかまえられたわけだ。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)

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『ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド』は、2022年9月23日より全国順次公開。