白人男性が今も主要ポストを握る米映画界で垣間見えた変化/ニューヨーク大学映画科で学ぶということ4

#ニューヨーク大学#ニューヨーク大学映画科で学ぶということ#中村真夕

中村真夕
ニューヨークで開催されたニューヨークアジアン映画祭にて。監督作『親密な他人』上映時の様子
中村真夕
ニューヨークアジアン映画祭
ニューヨーク大学映画科

映画人たちを守る業界組合、でも入会のハードルは高く…

マーティン・スコセッシ、ウディ・アレン、スパイク・リーらそうそうたる監督らを輩出したニューヨーク大学映画科。映画界での成功を夢見る人々が世界中から集まる名門学科だ。一説にはハーバードよりも難しいと言われるこの学科を卒業した中村真夕監督が、合格までの過酷な道のり、そして学校での学びについて綴ったエッセイの第4弾、最終章。

60代の同級生も!経験豊富な年長者を大学が好む理由とは?日本とは真逆なニューヨーク大学映画科の選考基準

最新作の劇映画『親密な他人』がニューヨーク最大のアジア系映画の映画祭、ニューヨークアジアン映画祭で上映されることになった。この映画祭は20年続く由緒ある映画祭だ。この映画祭で自作を上映するだけでなく、コンペティション部門の審査員もやらせてもらった。『親密な他人』の上映は、ほぼ満席で映画ファンがたくさん来てくれた。この映画祭は、アジア映画のファンが多く、三池崇史監督の『オーディション』と本作を比べる人たちもいた。上映にはニューヨーク大学時代の友人たちも来てくれた。20年ぶりに再会する友人たちもいて、みんなそれぞれの映画作りに励んでいるのに勇気づけられた。映画を学んだこの土地で、自作の上映で戻ってこられたのが、とても誇らしかった。

ニューヨークアジアン映画祭

ニューヨークアジアン映画祭にて

Jホラーの巨匠・清水崇監督がツイ・ハーク、ジャッキー・チェンらに続いてニューヨーク・アジアン映画祭の賞を受賞

ニューヨーク大学大学院の映画科で教えてくれていたゲイル・シーガル教授と、20年ぶりにランチをした。同級生たちのその後の動向を聞いていると、ヨーロッパからきた留学生たちの多くはそれぞれ自国に帰って、次々と映画を作っているようだ。ヨーロッパは日本やアメリカより映画に対する助成金が多く、映画を作りやすい環境だからだ。私が学んでいた頃は日本人の学生もいたが、この何年かは日本人はほとんどおらず、多くは中国や韓国の留学生たちだと聞いた。日本の学生たちは内向き思考の人たちが多くなってきていて、海外に留学したいと希望する学生たちが全体に減ってきていると聞く。その現状を聞いていると、海外でも人気がある韓国映画やドラマにさらに遅れをとってしまうのではないかと、日本映画の今後が心配になった。

ニューヨーク大学映画科

ニューヨーク大学映画科

私は永住権を持っているので、それを活用するために、アメリカで監督として働く道についてニューヨークの業界人たちに聞いた。ニューヨークで大手の放送局や配信会社などで監督として働くためには、Directors Guild of Americaと呼ばれる監督組合のメンバーにならないと仕事をさせてもらえない。組合に入っていなくてもできる仕事はあるようだが、大手の仕事のほとんどは組合メンバーに発注される。アメリカの映画業界は組合によって守られていて、入会するのはハードルが高く会費も高いが、メンバーになると契約から給料まで、働く人が守られる仕組みになっている。アメリカには日本のように国民保険がないので、組合に入ると保険にも割安に入れることが魅力なようだ。組合に入るのには3人の組合メンバーの推薦が必要で、それなりにアメリカでのキャリアもなくてはいけない。しかしアメリカでのキャリアを積むのには、組合に入っていなければならないという矛盾した構造がある。

すでにアメリカで監督として活躍しているアジア系の監督から勧められたのは、大手の放送局やスタジオの一部が取り入れているダイバーシティー(多様性)プログラムから監督として入って、組合に入れてもらうというやり方だ。アメリカの映画やテレビ業界は、まだまだ白人男性が主要なポストを握っている。そこに多様な人種やジェンダーの人たちが参入できるように勧めるプログラムがある。ここに入るのにはかなり競争率だそうだが、入ることができればテレビドラマなどのエピソードを監督したりするチャンスが与えられる。このような社会情勢のおかげか、最近のアメリカ映画やドラマを見ていると黒人監督やアジア人監督が増え、ミッシェル・ヨーや、サンドラ・オーなどのアジア系女性が主演の映画なども増えている。今回の旅で、今まで語られなかった物語を語れるマイノリティーの時代が、アメリカにやってきているのを肌で感じた(終)。(text:中村真夕/映画監督 『親密な他人』『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』ほか)

「ニューヨーク大学映画科で学ぶということ(全4回コラム)」を全て読む

INTERVIEW