BLで人生薔薇色!? 好きなものがあるって素晴らしい! 『メタモルフォーゼの縁側』

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メタモルフォーゼの縁側
(C)2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

芦田愛菜と宮本信子が共演、58歳差の友情を描く

国民的俳優の芦田愛菜と宮本信子共演で同名コミックを実写映画化した『メタモルフォーゼの縁側』が6月17日に公開される。原作は2017年の連載開始以降、口コミで人気が広がり、「このマンガがすごい! 2019 オンナ編第 1位」や「文化庁メディア芸術祭 マンガ部門新人賞」など数々の漫画賞を受賞した鶴谷香央理による人気コミック。さえない女子高生・佐山うららと、夫に先立たれて孤独に暮らす老婦人・市野井雪が漫画を通して出会い、交流してゆく姿を描いている。

『メタモルフォーゼの縁側』芦田愛菜インタビュー

その漫画のジャンルはBL(ボーイズラブ)だ。ふと訪れた書店で表紙の綺麗な絵に惹かれて雪が一冊のBLコミックスを買い求め、書店でアルバイトをしているうららは年配の雪が購入したことに密かに驚く。うららもまた隠れ腐女子でBLが大好きだったのだ。決して交わるはずのなかった58歳も年の差のある2人が友情を育み、やがて無謀なチャレンジに挑んでゆく。うららを見ごとな陰キャぶりで芦田が、ポジティブでおちゃめな雪を宮本が好演。他にうららの幼なじみでリア充な紡役を高橋恭平(なにわ男子)、うららと雪が大ファンの人気BL作家・コメダ優役を古川琴音、雪のなじみの印刷所のおじさん・沼田役を光石研が演じている。

老婦人がBLと出会うシーンですでに共感の涙!

ああ、もう、序盤の雪がBLに出会ったところからずっと涙が止まらなかった! いや、悲しい涙じゃなく、共感と感動で胸がいっぱいになるからだ。それな! それな! と心のなかで首がもげそうなくらい頷きながら2人を見守っていた。

雪がBLと初めて出会い、ひきこまれていくときの高揚感…! BL好きなら誰でも自分を見てるように感じるんじゃないだろうか。これまでの地味な日常も色づいて見えてウキウキとなる、あの感じ。BLに限らず、好きなものができるだけで人生薔薇色のようになるのは誰もが思い当たることだろう。

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BLとは知らずに「君のことだけ見ていたい」というBLコミックスを手に取った雪は驚きつつもハマっていって、続きものだと知ると2巻を買いに行き、家に帰るのを待てずにいそいそとカフェで読む。75歳の雪がまるで少女のようでかわいらしい。続きが読めるだけで天にも昇るほど気持ちが高まるよね、嬉しいよね、待てないよね、わかるわかると微笑ましくなる。そして、大好きな作品について、お仲間と話したくて共有したくてたまらなくなる気持ちもしかり。雪とうららは大好きなBLコミック「君のことだけ見ていたい」について話すようになり、年の差を超えて熱く語り合い、2人の間には確かな友情が生まれる。年の差があっても好きなものに対する思いは一緒で年齢なんて飛び越えてしまうのだ。年齢や立場が違っても好きなものに向き合う気持ちは一緒、自然と絆が生まれるようになる。

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やがて2人は同人誌即売会のイベントで自作の漫画を頒布することに挑戦しようとする。漫画を描くのはうらら。学校では馴染めずにひっそりと過ごしている彼女が夢を追って壁にぶつかっていき、青春ドラマとしても見応えがある。そして、訪れる小さくて大きな奇跡…。多くは言えないが、ほんとに大好きな作家ってファンに取ったら神様のようなもので、この感覚もよくわかる。ラストに大げさな大団円が用意されているわけではないけれど、そこがまた良くて、あくまで日常の延長線で肌で感じられる希望が待っている。しみじみジーンと胸が熱くなるのだ。

劇中BLコミック「君のことだけ見ていたい」も最高!

そして! 特筆しておきたいのは、劇中に登場するうららと雪が夢中になるBLコミック「君のことだけ見ていたい」が非常に良いこと! 幼なじみの高校生の咲良と佑真が描かれていて、手掛けているのは実際にも人気BL漫画を生み出している、じゃのめ。筆者も大好きな作家で創作BLの同人誌即売会「J.GARDEN」でファンレターを渡したこともあり、劇中に出てくる同人誌も持っている。

このじゃのめが手掛けている劇中漫画「君のことだけ見ていたい」は映画においてとても重要だ。うららと雪が夢中になって年の差を超えて友情を育む原動力となるBLコミックなわけだから、この漫画が素敵でないと映画が成立しない。いかに魅力的であるかで映画自体の説得力が変わってくる。それだけ期待しても凌駕するぐらい、この漫画は見るものを納得させるだけのパワーがある! しかも、2人が読んでる姿や手元が少し見えるだけかと思っていたら、それだけでなくスクリーンいっぱいにこの「君のことだけ見ていたい」が展開するシーンも登場する。これはじゃのめファンにも期待してもらいたい。

メタモルフォーゼの縁側

上から目線になるが、じゃのめはここ数年で格段に画力が上がったと思う。絵は綺麗で情感的だし、コマ割りや構図も上手くてハッとさせられるのだ。劇中漫画では読みやすいように特殊なコマ割りはないようだったが、印象的なコマはいくつもあった。キャラクターたちの困ったような表情、赤面顔、見下ろすような視線、そしてまっすぐでピュアな瞳などなど。冗長に写し出されるわけじゃないのに、咲良と佑真のもどかしくて切ない思いが伝わってきてハートを鷲掴みにされる。雪たちが「頑張れ! 負けるな! 幸せになれー!」と興奮気味に応援するのもすごくわかる。

一瞬で「君のことだけ見ていたい」の作品世界に引き込んでくれて、雨に降られても佑真と過ごせただけで完璧な一日という咲良の気持ちに感動させられてまた泣いてしまった。だからこそ、劇中に出てくる「完璧な一日」というセリフもさらに胸に染み渡るのだ。ああ、この「君のことだけ見ていたい」を全編読んでみたいものだ! ちなみに「君のことだけ見ていたい」は空気階段の水川かたまりが脚本を手掛けて、若手注目株の倉悠貴と水沢林太郎共演でドラマ化されている。映画公開と同日の6月17日からHuluで配信されるので、気になる方はチェックを。

BLが気になる人に、じゃのめのおすすめ作品は?

じゃのめが気になった方は「君のことだけ見ていたい」のように男子高校生を描いたBLコミック「黄昏アウトフォーカス」から入っていくのがオススメだ。気に入れば続編やスピンオフもあっていっぱい楽しめる。もっと読みたくなったら過去作の「門限8時の恋人」や「カラフルな君とモノクロな僕」も筆者のお気に入りなので読んで欲しい。

うららが雪にオススメするにはエロがあるから引いちゃうかも…と心配する犬井ナオの「ミッドナイト・コンフリクト」も面白い。たしかにBL初心者に紹介するのは少しばかり気が引けるが。でも、本作でBLに興味を持ってくれた方がいたら、ぜひ思い切って扉を開いてみてほしい。雪のようにハマって人生が豊かになるかもしれない。

好きなことがあることの偉大さと喜び

BLファンはいろんな角度からめいっぱい楽しめて、イベントや小ネタでもBLあるあるが楽しめる本作。「BLっていいな!」という思いだけでも胸熱できっと泣けてきちゃうに違いない! また、BLファンでなくても、うららと雪の年齢を超えた友情と冒険、そして好きなものがあるということの偉大さと喜びという普遍的な要素に共感できるはず。静かな感動を噛みしめることができるだろう。(文:牧島史佳/BLライター)

『メタモルフォーゼの縁側』は、2022年6月17日より全国公開。

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