2004年6月23日生まれ、兵庫県出身。5歳の時にドラマ『Mother』(10年/NTV)で実母からネグレトを受ける少女を演じ、脚光を浴びる。11年、大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』(NHK)に出演し、同年の『マルモのおきて』(CX)で連続ドラマ初主演を務めたほか、主題歌「マル・マル・モリ・モリ!」で歌手デビューもし、第53回日本レコード大賞特別賞を受賞。『ゴースト もういちど抱きしめたい』(10年)で、第34回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、『うさぎドロップ』(11年)と『阪急電車 片道15分の奇跡』(11年)で第54回ブルーリボン賞新人賞を史上最年少で受賞。『パシフィック・リム』(13年)でハリウッド・デビューを果たす。近年の主な出演作は、史上最年少で語りを務めた連続テレビ小説『まんぷく』(18〜19年、NHK)、大河ドラマ『麒麟がくる』(20年/NHK)、映画は『星の子』(20年)に主演。ドラマやCM、アニメーションや外国映画の吹き替えなど声の出演も含め、幅広く活躍している。
『メタモルフォーゼの縁側』芦田愛菜インタビュー
胸を張って何かを好きというのは、実は体力を使うことではないかな、と思います。
「好きなものを受け止めてもらえるって、自分を認めてもらえたような気持ちになれます」
引っ込み思案で周囲に馴染めずにいる17歳の高校生女子と、夫に先立たれて古い一軒家で暮らす75歳の老婦人が、偶然にもBL漫画という接点から年齢差を超えた友情を育んでいく『メタモルフォーゼの縁側』。
「このマンガがすごい!」「文化庁メディア芸術祭 マンガ部門」など数々の賞に輝いた原作の実写映画化で、主人公の佐山うららを演じるのは芦田愛菜だ。うららと意気投合する75歳の市野井雪を演じる宮本信子との共演について、同世代であるうららへの共感など、丁寧に誠実に語ってもらった。
芦田:はい。原作は5巻あって、結構長めのストーリーなので、2時間の映画にすると、どんな風になるのかというのはすごく気になっていました。まず原作を読んで、それからいただいた台本を読んで、本当に自分が「ここ、素敵だな」と思っていたシーンや登場人物たちの魅力だったり、そういうものが詰まった脚本だと感じて、どんどんページをめくる手が止まらなかったです。うららと雪さんの関係性がすごく温かくて素敵な作品で、早く演じたいと思いました。
芦田:引きずられるというより、今回は逆にむしろ寄せていったという感じです。原作を読んで、そこに描かれるもの1つ1つが温かくて。うららが雪さんに出会って受け止めてもらえたみたいに、なんだか私もこの原作に受け止めてもらえているようなそんな感覚になったんです。なので、それを壊さないように、と考えていました。逆に、例えばこのシーンではうららはどんな顔をしていたかな、とか、こういう時はどんな行動をするんだろう? というのを確認するために、むしろ原作をよく読んでいたかもしれないですね。
芦田:最初は正直、緊張していました。ただ、今回のお話が決まって久しぶりにお会いした時に、宮本さんが「これからよろしくね。頼んだわよ」という意味の言葉をかけてくださって。たぶんご本人にとっては何気ない一言だったのかもしれないですけど、私はすごくそれが嬉しくて。それが、映画の中のうららと雪さんの関係性を作っていくのにもいい影響を与えてくれたと思います。
芦田:本当に素敵だなと思います。何かを好きなんだっていう気持ちで、1つになれたりする。好きなものを好きと言うのにも、誰かと友だちになったりするのにも、そこに年齢の差は関係ないなというのは、しみじみと思いました。
原作で、2人がいろいろ漫画の話をした帰りに、雪さんが「なんでこんなに楽しいんだろうね」と言うんですけど、その一言が2人の関係性を表している気がします。
芦田:そうですね。微笑ましくて大好きです。私もこの作品を通して考えたのは、自分が好きなものを受け止めてもらえることって、自分自身も肯定されたような気がするんじゃないかな、ということです。私は本や音楽が好きなんですけど、自分の読んでる本とか、聞いてる音楽を認めてもらえると、それってすごく自分の内側に近いものだから、自分を認めてもらえたような気持ちになれます。だから、うららはすごく嬉しかったんだろうな。その気持ちはすごくよくわかるので、共感はできますね。
芦田:撮影合間の待ち時間は、スタッフさんとも共演者さんとも結構みんなで談笑できる現場だったので、お2人ともお話しさせていただいて、コミュニケーションを取らせていただきました。他愛もない話をして笑い合ったりして、とても楽しかったです。
「家に帰って1人で反省しちゃったりするタイプなんです」
芦田:好きなシーンとも被るかもしれないです。うららが落ち込んでいる時に、雪さんから「人って思ってもみないようになるものだからね」と言われて。その言葉を考えながら雨の中でパッと傘を開いたら、内側に花柄が広がっている。そのシーンがすごく好きです。雨にはちょっと暗めなイメージを持ってしまいがちなんですけど、本当に傘を開いただけで、こんなところに思いがけないことがあるんだ、と。ちょっと心が軽くなるというか、ぽっと明るくなれる感じがして、本当に何気ないですけど、好きなシーンです。
芦田:そうですね。でも、うららに共感できる部分は多くて。もちろん、全く重なるのかと言えば、そうではない気もしますが。うららは、他人からどう見られているのか気にしたり、自分にちょっと自信がないような女の子だと思うんですけど、私も少しそういうところがあります。さっき言ったことが違う意味に取られてないかな? とか、家に帰って1人で反省しちゃったりするタイプなんです。例えば、自分の好きなものを誰かにおすすめするのもちょっと恥ずかしい。本当にこれでいいのかな? とか、すごく考えたりします。でも、それはきっとうららも同じなので、なんだか重なる部分がたくさんあったので、演じやすかったですね。
芦田:そういうイメージはないってよく言われます(笑)。
芦田:うららに限ったことではないと思いますが、好きなものに一所懸命に情熱を注いでいるけれど、胸を張って何かを好きというのは、実は体力を使うことではないかな、と思います。
うららの場合も、言いたい気持ちはあるけど、受け止めてもらえなかったらどうしようという悩みがあるから、言えなくて苦しい気持ちになったりするんじゃないでしょうか。夢とか、将来のこととか、考えなきゃいけないことはわかってるけど、自分でもどうしていいかわからないのにその現実を突きつけられてしまって、急に投げ出したくなってしまうのかな、と思いました。
芦田:私、基本は意外とめんどくさがりなんです。だから、そこはちょっとうららとは少し違うかもしれないです。でも、うららの気持ちはわかります。自分がやりたいと思って、自信もあったことがうまくいかなかったりすると、思わず投げ出したくなったり、そこから逃げ出したくなっちゃう気持ちって、みんな誰もが持っているものだと思うので。
芦田:縁側のシーンがとても印象的です。なんで縁側があんなに素敵なのか、それはわからないんですけど、すごく心惹かれるものがあって。2人で雪さんが作ってくれたカレーを食べている後ろ姿だったり、そういう日常の一コマもすごく素敵に思えて。宮本さんとお芝居させていただいている時は、私が頭で何か考えて行動するんじゃなくて、すごく自然にうららというキャラクターを引き出していただいていたような気がします。その感覚がすごく楽しかったですね。
芦田:緊張しました(笑)! レコーディングにはT字路sのお2人がいて、プロデューサーさんと監督とマネージャーさんとか、なんだかたくさんの人の前で歌わなきゃいけなくて、すごく緊張していたんですけど、T字路sのお2人が温かい言葉をかけてくださって、なんとか歌い切ることができました。アドリブっぽい部分など、歌い方で個性が出るところもあったので、大切に歌わせていただこうと思いました。
(text:冨永由紀/photo:谷岡康則)
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