トムホとデイジー・リドリーが恋の逃避行!? 気概を感じる愛すべきSF映画
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撮影から4年! 旬のスターが共演する地球外惑星が舞台のSF青春映画
【週末シネマ】MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)でスパイダーマンを演じるトム・ホランドと『スター・ウォーズ』続編三部作のレイ役で知られるデイジー・リドリーが主演を務める『カオス・ウォーキング』は、近未来の地球外惑星が舞台というSFであると同時に、パトリック・ネスの原作小説に忠実な青春の物語としても楽しめる。
・弟キャラのトム・ホランド、新作SFで初心な主人公を熱演! 愛され俳優の魅力に迫る
三部作の小説の1遍「心のナイフ」〈カオスの叫び1〉の映画化が完成に漕ぎつけるまでは長い道のりがあった。2008年の小説発表以来、多くの脚本家が脚色を試み、その中には『マルコビッチの穴』などのチャーリー・カウフマンもいた。
紆余曲折を経て、ホランド主演の『スパイダーマン:ホームカミング』などのクリストファー・フォードが原作者ネスと共同で手がけた脚本を、『ボーン・アイデンティティー』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』などのダグ・リーマンが監督した本作は、主演2人のほかにもマッツ・ミケルセン、デヴィッド・オイェロウォにシンシア・エリヴォ、アイドルグループのジョナス・ブラザーズ出身のニック・ジョナスという多彩なキャストが揃う。
2017年にホランドとリドリーがそれぞれ超大作シリーズの撮影の合間を縫って撮影した作品でもあり、再撮影の必要が生じた際は2019年までスケジュール調整がつかなかった。さらにパンデミックの影響を受けて、撮影から4年後の公開になった。
可愛い男の子としっかり者の女の子、トムホとデイジーが魅力的
近未来に、汚染された地球から別の惑星「ニュー・ワールド」に移住した人々が暮らすコミュニティが舞台だ。その惑星では、男性の思考が「ノイズ」という現象によって聞こえたり見えたりする。女性は死に絶えている。自らのノイズをコントロールできる唯一の男性、プレンティスが自らの名前を冠した「プレンティスタウン」で最後に生まれたトッド(ホランド)は、未熟ながらノイズを操る兆しがあり、プレンティスから目をかけられている。そんなある日、トッドは森の中で墜落した宇宙船を発見し、たった1人の生存者に遭遇する。彼が生まれて初めてみる女性、ヴァイオラ(リドリー)だった。地球からの偵察団の一員であるヴァイオラの存在を知ったプレンティスは自らの支配力拡大を狙い、ヴァイオラからの交信を待つ本船を奪おうと計画する。トッドは危険を察知したヴァイオラを救うことを決意し、2人の逃避行が始まる。
大作シリーズで主役を務めたホランドとリドリーの魅力は、そのまま本作に生かされている。ごく普通の気のいい少年であるトッドが「女の子だ」「可愛い」と正直な思考を隠しきれず、ヴァイオラに悟られては焦りまくる、その様子こそが可愛い。しっかり者のヴァイオラは、そんなトッドをたしなめながらも信頼している。トッドの愛犬マンチーも連れた2人の逃避行は、アクション・アドベンチャーにして青春ロマンティック・コメディでもあり、息の合った応酬が楽しい。
マッツ・ミケルセンは独裁者の狡さや弱さも表現
心を見せず、町を仕切るプレンティスを演じるミケルセンは安定の役回りだが、カリスマを装う独裁者の狡さや弱さも出してみせる。プレンティスタウンに隠された秘密に苛まれ、乱れる心をノイズとして撒き散らす元司祭(オイェロウォ)の存在も興味深いのだが、トッドの養親2人やプレンティスの息子(ジョナス)なども含めて、軽くふれながらも掘り下げ切れず、1本の映画に収まり切らない情報として物足りない部分があるのは惜しい。だが、観客の共感を呼び起こす主人公たちの健気さと、諦めない映画作りの気概が愛すべき魅力の作品だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『カオス・ウォーキング』は2021年11月12日より公開。
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