『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』ジャスティン・カーゼル監督インタビュー

英雄か、反逆者か? 史上最もパンクな犯罪者ネッド・ケリーの知られざる素顔

#オーストラリア#ジャスティン・カーゼル#トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング

ジャスティン・カーゼル

この映画は「真実」という言葉を弄ぶストーリー

『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』
2021年6月18日より全国順次公開
(C)PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019

腐敗した権力に立ち向かい、英雄と呼ばれたオーストラリア実在の反逆者、ネッド・ケリー。これまで語られてきたヒーロー像とは異なり、彼を一人の青年として新たな視点で描き出した映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』が6月18日より公開される。

19世紀、オーストラリア。貧しいアイルランド移民の家庭に育ったネッド・ケリーは父に代わり、幼い頃から母と6人の姉弟妹を支えていた。だが、生活のため母はネッドを山賊に売りとばし、10代にして逮捕・投獄されてしまう。出所したネッドは、娼館で暮らすメアリーと恋に落ち、家族の元に帰るが幸せも長くは続かない。権力者の貧しい者への横暴、家族や仲間への理不尽な扱いを見たネッドは、弟や仲間たちと共に“ケリー・ギャング”として立ち上がり、国中にその名を轟かすおたずね者となっていく。

主演は『1917 命をかけた伝令』のジョージ・マッケイラッセル・クロウニコラス・ホルトら実力派がそろった本作のメガホンをとったジャスティン・カーゼル監督にお話を伺った。

一糸まとわぬ姿で…ジョージ・マッケイ&ニコラス・ホルトが熱く語り合う「何も奪わない人は初めて」

──ネッド・ケリーは英雄と呼ばれる一方で、反逆者とも言われますが、監督にとってはどんな存在ですか?

監督:ネッド・ケリーは、私にとって謎に満ちている存在です。だから深堀して理解を深めたかった。なぜあんな子供が大物になっていったのか、彼の何が彼たらしめたのか。オーストラリアの歴史の一部となるような存在として彼は何を秘めていたのか、知りたいと思いました。

トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング

──本作はこれまでの映画とは違い、ネッド・ケリーを一人の悩める青年として描いています。オーストラリアでの公開時、どのような反応が寄せられましたか?

監督:様々な異なる反応がありました。神話のようなアイコンであるネッド・ケリーのイメージがあり、その生涯を輝かしいと思う人が、更にこの映画でそう思えたという人もいれば、今まで真実と思っていたものと違うと怒る人もいました。ただ若い世代は自分に身近な存在だと感じる人が特に多かったようです。オーストラリア人の象徴がより身近になったという意見もあり、本当に多様な反応でした。

──ピーター・ケアリーによる同名小説の映画化ですが、長い原作を映画化するにあたって工夫したことはありますか?

監督:本のすべてを活かすのは不可能なので、理解を深めた上で何を取捨選択するかということです。脚本家のショーンと話したのは、ネッドが運命から逃れようともがいても暴力的な人生から逃れることができなかった、そしてこの男がどんな進化・発展を遂げるのか、ということです。だからチャプターを「少年」「男」「モニター艦」と分け、一人の人間がどう変革していくのかを描きました。純粋で無垢な少年が、周りが期待するような反逆者になってしまったのです。

──“真実の歴史(トゥルー・ヒストリー)”というタイトルなのに、冒頭の「この物語に真実は含まれていない」という言葉で、観客は混乱しながら映画を見始めることになります。意図を教えていただけますか?
トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング

監督:混乱させようとしているわけではなく、ただ通常は「事実に基づいた~」と出てきますが、監督や脚本家が書いたものであればその視点が入ってくるので、ドラマ化された時点でそれは真実ではないでしょう。本作の冒頭では「この物語に真実は含まれていない」が出て他の文字が消えた後に「真実」の文字が残ります。誰もその場にいたわけではないので、誰も知らないのです。オーストラリアではネッド・ケリーに関して様々な考察が書かれています。なので、この映画は「真実」という言葉を弄ぶストーリーで、自分の歴史は他人に盗まれるのでネッドが娘に残すために書く物語です。

──どのシーンも映像がとても美しいですが、監督の最も好きなシーンを教えてください。そして、最も大変だった撮影はどのシーンですか?

監督:最も大変だったのは、雪の中でドレスを着たギャングたちのシーンでした。本当に吹雪いてしまい、本来2日かけて撮るはずだったのを30分で撮らなくてはいけませんでした。印象に残っているシーンは、グレンローワン(メルボルン北東に位置する小さな町。ネッド・ケリー最後の地として有名)でジョージ・マッケイ演じるネッドに、手記を書く手助けをしようと教師が申し出る場面です。ジョージがまるで何かに取り憑かれたように別人に変化をとげ、私は鳥肌が立ちました。
家が建っていた場所や、雪が降っている場所は最後の戦いの地グレンローワンで、馬が走っているシーンなども、ヴィクトリア州各地の実際の場所で撮影しています。

──役作りのためにバンドを結成させたと伺いました。とても斬新な手法ですが、そのアイデアはどこから生まれたのでしょうか?

監督:仲間意識を手っ取り早く築くには、バンドかオーストラリアン・フットボールだと思い、ギャング役の4人にバンドを組ませました。バンドを組めば絆が生まれる、という自分の経験にも基づいています。

──主演のジョージ・マッケイが本当に素晴らしかったです。家族思いの青年が反逆者へと変貌していく過程を繊細に演じていました。マッケイを起用した決め手は何でしたか?

監督:元々は優しくて善の部分を持っている人物が、段々とモンスターになり、鉄のヘルメットをかぶって両手に銃を持つまでに変貌する様を演じられる人、そして善の本質を持っていることが決め手でした。描きたかったのは、人がどうやって腐敗していくか、元々持っていた美しい資質が暴力によって歪められるかということで、それを演じ切れるということ。そして物語の最後の方では、ジョージ自身の危ない側面も見せてくれた。それは役になりきっていたからだと思います。

ジャスティン・カーゼル

『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』撮影中のジャスティン・カーゼル監督(右)

──ネッドとフィッツパトリック警官は、時代が違えば親友になっていたかもしれないくらい惹かれあっているように見えました。2人の関係はとても複雑だと思いますが、彼らを演じるジョージ・マッケイとニコラス・ホルトのコンビネーションは、監督から見ていかがでしたか?

監督:まさにその通り、違う時代、違う場所であれば、彼らは親友になれたでしょう。お互いに尊敬の気持ちがありカリスマ性があったので、惹かれ合っていたし、一緒にいて楽しい相手。でも警察と犯罪者でした。それが運命でもあるのですが、実はあの時代は、警察と犯罪者にたいした違いはなく、線引きがあいまいな時代でした。
ジョージとニコラスに関して言うと、年が近く、野望ととてつもない才能を持っていて、そして俳優として旬で頂点を極めようとしている2人ですから、監督としてこの才能ある2人と仕事ができるのは光栄なことです。野望を持ちつつも、変なライバル関係になるのではなく、役に集中して、お互いにどうしたらベストの演技ができるのか、高め合ってくれました。

ジャスティン・カーゼル
ジャスティン・カーゼル
Justin Kurzel

1974年8月3日、オーストラリア・サウスオーストラリア生まれ。母国で舞台デザイナーとしても活躍し、その経歴は監督作の力強いビジュアルやストーリーテリングに活かされている。メルボルン大学の最も権威ある映画学校「VCA Film&Television」を卒業後、短編映画『Blue Tongue』がカンヌ国際映画祭の批評家週間や、ニューヨーク映画祭など、13以上の国際映画祭で上映され、メルボルン国際映画祭で最優秀短編賞を受賞。初の長編映画『スノータウン』(11年)はアデレード映画祭でプレミア上映され観客賞を受賞。更に豪アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞し、トロント映画祭、カンヌの批評家週間で上映され、大統領特別功労賞と批評家週間賞を受賞した。その後ヨーロッパでマイケル・ファスベンダーとマリオン・コティヤールをキャストに迎えた『マクベス』(15年)がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出。翌年、ハリウッドでファスベンダーとコティヤールに加え、ジェレミー・アイアンズ、シャーロット・ランプリング出演の『アサシン クリード』(16年)を監督した。